機構長から

データから宝石を掘り出す

村山 斉

村山斉: 数物連携宇宙研究機構長村山斉: 数物連携宇宙研究機構長

IPMUニュースの今号ではWMAPチームから二人を取り上げています。前号でご紹介したジョージ・スムートのCOBE衛星実験の成功をふまえて、WMAPは歴史を変えたと言っても良いでしょう。NASAが上げた人工衛星のWMAPが出した2003年の結果は宇宙論の新時代を拓きました。今宇宙が137億歳であること、平らであること、そして物質の8割以上が原子ではなく未知の物質であることは、WMAPが私たちに教えてくれました。この快挙はビッグ・バンの残り火である宇宙マイクロ波背景輻射(CMB)を調べることによるものでした。CMBは宇宙がまだ38万歳のときに放たれ、その後宇宙をずっと旅し、やっと今私たちにたどり着きました。それでCMBは宇宙の情報を沢山背負っているのです。

表紙のデイビッド・スパーゲルは主任研究員の一人、最初のメンバーで、IPMUの研究を引っ張ってくれています。15年間WMAPチームにいて、膨大で複雑なデータから宇宙の情報を引き出すのに貢献しました。この仕事で今年ショー賞を受賞することになっています。デイビッドの記事は宇宙に興味がある人誰にでもお薦めです。

リチア・ベルデはデイビッドのポスドクで、WMAPのデータを直接扱いました。吉田直紀さんのインタビューでは、彼女がチームに入ってから始まった興奮の日々の様子が伺えます。リチアは複雑なWMAPのデータから宝石を掘り出すための手法を確立し、信頼できる結果を出すことを可能にしました。

宇宙を分かろうとするのは大仕事です。いろんな人が必要です。装置を作る人、データから「宝石」を「掘り出す」人、結果(宝石)を解釈して理論を作る人、そして理論から予言を引き出して次世代の実験・観測に結びつける人。IPMUではこの全てをカバーし、協力してゴールを目指そうとしています。そしてこの大仕事には時間がかかるのです。デイビッドのように10年以上かかることもあります。

こうした長期にわたる仕事のためには、組織が安定していないといけません。新研究棟完成式典で、東大の濱田総長はIPMUを東大内の恒久的な組織にすると宣言されました。これはIPMUが成功するためにはなくてはならないステップで、大変ありがたいお言葉でした。今後の進展をあたたかく見守っていて下さい。

IPMU NEWS Vol.10 (Jun 2010) より