機構長から

科学と政治

村山斉: カブリIPMU機構長村山斉: カブリIPMU機構長

村山 斉

最近は日本、アメリカ、韓国など多くの国で選挙があり、近々イタリアでもあります。そして中国で十年に一度の指導者交代がありました。新聞は予測や結果を報道し、新政権がどのような方向へ向かおうとするのか、様々な予想もありました。私達の研究は宇宙がどういう仕組みなのかを理解することですが、実は政治の世界と無縁ではありません。

Kavli IPMUで行っている研究は「基礎研究」なので、 社会の問題にすぐさま解決を与えるようなものではありません。そもそもこのような研究を税金でサポートするべきなのかどうか、は大事な問題です。

かつては天文学の研究は国王、皇帝、スルタン、裕福な貴族等が資金を出しましたが、これは占星術のためだったり、帝国主義的な目的の航海術のためだったりしました。数学はエジプトでナイル河が氾濫した後、 土地の測量の必要から発達したと言われています。そして、後には国防のための暗号ヘの応用も重要になりました。物理学は第二次大戦のあとアメリカでは手厚く支援されましたが、これはレーダー、レーザー、ト ランジスター、そして原子爆弾(!)といった発明のためだったと言われています。

実際、私が1993年にバークレイに到着した二月後、 素粒子物理学での大きなプロジェクトであるSSCが建設途上でキャンセルされ、何百人もの研究所員が解雇されました。これは冷戦が終わったため、物理学研究の必要性が低く考えられるようになったためだと言われています。

私達がKavli IPMUで期待していることは、「私達はどこから来たのか」、「どこへ向かっているのか」、「どうしてここにいるのか」、といった真に根源的な疑問に迫ることに納税者も政治家も価値を見出してくれることです。こうした深い疑問が若い頭脳を触発して科 学や数学の分野に興味を持たせ、いずれは社会の実際 的な問題やテクノロジーのイノベーションを生み出してくれると信じています。今までのアウトリーチのイベントに多くの生徒や学生が来てくれて、数学や宇宙の話にワクワクしてくれた様子にはとても力づけられました。しかもこうした基礎研究は完全にグローバルで、政治的にはもめている国から来た人たちでも一つにします。Kavli IPMUはこうした科学の精神を実現する場所だと思っています。