2012年カブリ賞受賞者決定のお知らせ

-7人の科学の先駆者達に授与- 

2012年5月31日 
ノルウェー・オスロ
 

2012年5月31日に2012年のカブリ賞の受賞者が決定し、優れた業績を残した研究者7名がその栄誉に輝きました。

カブリ賞は天体物理学、ナノサイエンス、神経科学、の3つの分野において特に優れた業績を残した研究者に授与され、各分野100万ドルの賞金が与えられます。

今年度の受賞者は「太陽系外縁」、「ナノスケールとマクロスケールの物質特性の相違」そして「視覚、聴覚、触覚などの感覚を脳が受け取り反応する仕組み」への理解を深めるのに役立った研究における業績が評価され受賞者に選出されました。

カブリ天体物理学賞はDavid C. Jewitt, (University of California), Jane X. Luu, (Massachusetts Institute of Technology  Lincoln Laboratory) そして Michael E. Brown, (California Institute of Technology)の3名に贈られます。
受賞理由は「カイパーベルトとカイパーベルト天体の発見とその性質の解明による我々の惑星系の理解の発展」によるものです。 

カブリナノサイエンス賞は「フォノン、フォノン-電子相互作用、ナノ構造での熱伝導の研究における先駆的な役割を果たした」ことによりMildred S. Dresselhaus, (Massachusetts Institute of Technology )に贈られます。 

カブリ神経科学賞は「認知と行動における基本的なニューロンのメカニズムの解明」によりCornelia Isabella Bargmann,(Rockefeller University), Winfried Denk, (Max Planck Institute for Medical Research) そして Ann M. Graybiel, (MIT)の3名に贈られます。

カブリ賞はノルウェー科学人文アカデミー、米国カブリ財団、ノルウェー教育研究省が共同で運営しており、Nils Christian Stenseth,(ノルウェー科学人文アカデミー会長)による本日の受賞者の発表は、米国ニューヨークで開催されているワールドサイエンスフェスティバルのオープニングイベントにも生中継されました。

また授賞式は2012年9月4日にオスロにおいて、ノルウェーのHarald国王より受賞者へのカブリ賞の授与が行われます。

カブリ天体物理学賞

カブリ天体物理学賞はデビット・ジェウィット(David C. Jewitt, University of California Los Angeles), ジェーン・ルー(Jane X. Luu, MIT Lincoln Laboratory) とマイケル・ブラウン (Michael E. Brown,  California Institute of Technology)の3氏に授与されます。

ジェウィットとルーは、1986年から1992年の6年にわたり太陽系外の観測を行いました。1992年に冥王星の軌道の外側、地球と太陽との距離の30〜50倍の距離のカイパーベルトと言われるところに天体を発見しました。その後他の研究者の観測と合わせて1000個以上の天体がカイパーベルトで発見されています。これらのカイパーベルト天体(KBO)は、太陽系が形成される際に太陽の周りで合体を繰り返して惑星を作った物質に非常に近いものであると思われるため、天文学者らの注目を集めています。

ブラウンは、ジェウィットらの功績に続いて、カイパーベルト内で惑星級のサイズの天体を探索しました。2005年にエリスと呼ばれる冥王星と同じくらいのサイズで質量は27%重い天体を発見しました。この事は、天文学者に「惑星とは何か?」について再考を迫り、冥王星が「準惑星」に降格させられる、という世界的ニュースをもたらしました。

カブリナノサイエンス賞

カブリナノサイエンス賞はミルドレッド・S・ドレッセルハウス(Mildred S. Dresselhaus, MIT)に授与されます。ドレッセルハウスは50年以上にわたり、なぜ同じ物質のナノスケールとマクロスケールの振舞いが大きく違うのかを説明する多くの成果を上げました。

グラファイト層間化合物、カーボンファイバーなどとして知られる、異なる化学物質をグラファイトの層でサンドウィッチ状にした混合物に対する彼女の初期の研究成果は、その後のC60バッキーボール、カーボンナノチューブ(この発見で名城大学の飯島澄男教授と米コロンビア大のブルス教授が2008年第一回カブリ賞を受賞)、グラフェンといった大発見に繋がりました。ドレッセルハウスのフォノンと呼ばれる原子や分子の弾性配列における均一な振動、フォノンー電子相互作用、ナノ構造での熱伝導の研究に対してカブリ賞が授与されます。

カブリ神経科学賞

カブリ神経科学賞は、知覚信号が目、足、鼻といった感覚器から脳に伝わり、反応する仕組みについての研究を行った3名の科学者に贈られます。

コーネリア・バーグマン(Cornelia Bargmann, Rockefeller University)は線虫(カエノラブディティス・エレガンス)を用い、生物の行動の分子による制御について洞察しました。においの反応はにおいの受容体と知覚ニューロンとをつなぐ細胞間信号伝達ニューロンによって支配されているということ、また特定のニューロン、受容体と神経伝達物質は経験に基づく適応行動に関連するということの証拠を初めて発見しました。

ヴィンフリード・デンク(Winfried Denk, Max Planck Institute for Medical Research)はどのように情報が目から脳に伝えられるかという大きな疑問に答える2つの技術を開発しました。1990年、デンクは非常に深い場所の生体組織のイメージングを不要なバックグラウンド蛍光を小さく抑えて行う2光子レーザ走査蛍光顕微鏡を発明したと発表しました。彼は続けてシリアルブロックフェイス型電子顕微鏡を開発し、これを用いて試料の連続断面走査による組織内の微細構造の詳細な3次元画像が生成されました。

アン・M・グレイビール(Ann M. Graybiel, MIT.)は、脳の外層と線条体と呼ばれる部位を結ぶ神経のループを特定、追跡し、これらが習慣的な振る舞いに関連する行動への知覚指令へとみちびく原理を形成する事を解明しました。彼女は人間が習慣的行動を始めたりやめたりする能力、移動や反復的行為が乱されたときにどのような問題が生じているのか、についてより深い理解を提供しました。

-カブリ賞について-

カブリ賞は米国カブリ財団の創立者で会長であるフレッド・カブリ氏により人類の幸福につながる科学の発展や、科学研究の成果を広く一般に伝えることに業績をなした科学者をたたえるためにカブリ氏の名を冠して2008年に創設されました。

2008年より隔年で天体物理学、ナノサイエンス、神経科学、の3つの分野において優れた業績を持つ研究者に授与され、受賞者にはそれぞれ賞状、メダル、100万ドルの賞金が贈られます。

この賞はノルウェー科学人文アカデミー、米国カブリ財団、ノルウェー教育研究省が共同で運営しており、受賞者の決定は中国科学アカデミー、フランス科学アカデミー、独マックスプランク協会、米国科学アカデミー、英国王立アカデミーの推薦による世界の研究者からなる各分野の委員会により候補者が選ばれたのち、ノルウェー科学人文アカデミーによって承認されます。

カブリ賞の授賞式はカブリ氏の出身国でもあるノルウェーのオスロでノルウェー科学協会会長によって執り行われます。2012年の受賞式はノルウェーの前文化大臣のアセ・クリーブランド(Åse Kleveland)と長年科学の発展に尽くしてきたとして米国科学協会の“公共奉仕賞”に選ばれ、俳優、監督、作家としても活躍しているアラン・アルダ(Alan Alda)の司会で行われます。

授賞式は“カブリ賞ウィーク”の一環として行われ、優れた科学の成果を祝うとともに、科学の発展の重要性を広く一般に広める、また世界中の優れた人材が集まり科学と科学の今後の発展について意見を交換するための1週間となります。

カブリ各賞と2012年の受賞者とその業績、カブリ賞授賞式、カブリ賞ウィークについての詳しい情報はカブリ賞のホームページwww.kavliprize.no でご覧ください。 


カブリ賞についての報道対応窓口:

The Norwegian Academy of Science and Letters
Anne-Marie Astad
Phone: + 47 22 12 10 92
Mobile: + 47 41 56 74 06
E-mail: anne.marie.astad@dnva.no

 

USA/New York
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