天体物理学、ナノサイエンス、神経科学の3分野において特に優れた業績をあげた科学者に贈られる2014年カブリ賞の受賞者が決定し、9名の先進的な業績をあげた研究者がその栄誉に輝きました。2014年のカブリ賞は宇宙のインフレーション理論の提唱、ナノ光学の革新、記憶と知覚に特化した脳神経ネットワークの発見をした科学者が選ばれました。
カブリ賞受賞者にはノルウェー科学人文アカデミーより各分野100万ドルの賞金とメダル、証書が授与されます。5月29日、ノルウェー科学人文アカデミー会長のニルス・クリスチャン・ステンセスによる発表はニューヨークで開催中のワールドサイエンスフェスティバルのオープニングイベントにも生中継されました。
カブリ天体物理学賞
カブリ天体物理学賞は「宇宙のインフレーション理論の提唱」の業績により、アラン・H・グース（米国、マサチューセッツ工科大学）、アンドレイ・D・リンデ（米国、スタンフォード大学）、アレクセイ・A・スタロビンスキー（ロシア科学アカデミー・ランダウ理論物理学研究所）の3氏に授与されます。
インフレーション理論によれば、私たちの住む宇宙は誕生直後、非常に短い時間に急速に膨張をしたと考えられます。この凄まじい膨張を「インフレーション」と呼びます。インフレーションのシナリオなしでは現在の宇宙が形作られたことを説明出来ません。現在、数千人もの理論物理学者がインフレーション理論に取り組んでおり、様々なバリエーションのインフレーションのモデルについて、活発な議論がおこなわれています。
カブリナノサイエンス賞
カブリナノサイエンス賞は「ナノ光学分野における微細光学観測および画像化の分解能の限界を破る革新的貢献」の業績により、トーマス・W・エブスン（フランス、ルイス・パステュール大学、ストラスブール大学）、シュテファン・W・ヘル（ドイツ、マックスプランク生物物理化学研究所）、サー・ジョン・B・ペンドリー（英国インペリアル大学ロンドン校）の3氏に授与されます。
彼らはそれぞれの研究において、これまで考えられていた光学観測の分解能の限界に挑戦し、光の波長よりも小さなナノ構造の観測に成功しました。
「ナノスケール」を光学的に観測する際には、光の波長によって分解能は制限されるため、約200ナノメートル（髪の毛の太さの約100分の1）以上の構造しか観測できないと長い間信じられていました。
今年の受賞者らは、それぞれ異なる洞察と手法によって、「従来の」光によってナノ構造を「見る」ことを実現しました。ナノスケールの物体を観察し、画像化することはナノサイエンスの幅広い領域での研究開発に不可欠です。
カブリ神経科学賞
カブリ神経科学賞は「記憶と知覚に特化した脳神経ネットワークの発見」の業績により、ブレンダ・ミルナー（カナダ・マギル大学モントリオール神経学研究所）、ジョン・オキーフ（英国・ユニバーシティカレッジ ロンドン）、マーカス・ライクル（米国ワシントン大学セントルイス）の3名に授与されます。
カブリ神経科学賞に選ばれた3名は全員、人間の記憶の仕組みの解明と脳の働きを測定する技術の開発において中心的な貢献をしました。彼らは様々なアプローチにより、これらの働きは脳の中の特別な機構によって生み出されることを発見しました。彼らは脳の特定の領域が記憶を司ることを発見し、神経細胞がそれぞれ異なる役割を果たすことを発見したのです。
カブリ賞について
カブリ賞はノルウェー科学人文アカデミー、米国カブリ財団とノルウェー教育研究省のが共同で運営しています。この賞はカブリ財団の創立者フレッド・カブリ氏（1927 – 2013）が構想し、人類の幸福につながる科学の発展や科学研究の成果を広く一般に伝える業績をあげた科学者をたたえるために創立されました。
カブリ賞の受賞者は、中国科学アカデミー、フランス科学アカデミー、独マックスプランク協会、米国科学アカデミー、英国王立アカデミーの推薦による世界の研究者からなる３分野の委員会により候補者が選ばれたのち、ノルウェー科学人文アカデミーによって承認されます。
2014年の授賞式は9月9日、ノルウェー・オスロにて米国の俳優・脚本家・監督のアラン・アルダとノルウェーの歌手ハディー・ウンジャイの司会で行われ、受賞者にはハラルド国王より賞が授与されます。
授賞式は「カブリ賞ウィーク」の一環として行われ、優れた科学の成果を祝うとともに、世界中の優れた人材が集まり科学と科学の今後の発展について意見を交換するための1週間となります。
カブリ各賞、2014年の受賞者とその業績、カブリ賞授賞式、カブリ賞ウィークについての詳しい情報はカブリ賞のホームページwww.kavliprize.noをご参照ください。