高柳匡 客員上級科学研究員が仁科記念賞を受賞

2016年11月16日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

京都大学基礎物理学研究所教授で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) 客員上級科学研究員の高柳匡(たかやなぎ ただし) 氏が2016年度の仁科記念賞の受賞者に選ばれました。

仁科記念賞は故仁科芳雄博士の功績を記念し、原子物理学とその応用に関し、優れた研究業績をあげた比較的若い研究者に与えられる栄誉です。我が国で最も歴史と権威のある物理学賞で、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈、小柴昌俊、小林誠、益川敏英、中村修二、梶田隆章の6博士もこの賞を受賞しています。また、2009年には、Kavli IPMUの主任研究員であり、カリフォルニア工科大学教授、ウォルター・バーク理論物理学研究所所長、アスペン物理学センター所長の大栗博司氏、2012年には、Kavli IPMUの主任研究員であり、東北大学ニュートリノ科学研究センター教授の井上邦雄氏も受賞しています。

今回の高柳匡氏の仁科記念賞受賞理由は「ホログラフィ原理を用いたエンタングルメント・エントロピー公式の発見と展開」です。

ブラック・ホールのエントロピーの公式に端を発する「ホログラフィ原理」は、1997年に超弦理論の枠内で実現していることが示されて以来、超弦理論の重要な研究対象です。
エンタングルメント(量子もつれ)の概念は、量子力学の基礎や量子情報科学、物性物理学でも重要な役割をしているもので、「エンタングルメント・エントロピー」はエンタングルメントの大きさを測るひとつの指標です。
高柳氏が笠氏と共に2006年に発表した「エンタングルメント・エントロピーのホログラフィック公式」は、エンタングルメント・エントロピーを重力理論を使って計算する公式で、ホログラフィ原理に基づいてエンタングルメントを重力理論の幾何学的性質に結び付けるものです。現在「笠-高柳公式」という名で広く知られ、理論物理学における重要な公式として確立しています。
高柳氏は、過去10年間にわたってこの笠-高柳公式を発展させ、ホログラフィ原理の仕組みの解明とその応用に主導的な貢献をしてきたことが受賞につながりました。

受賞にあたり、高柳氏は「超弦理論と量子情報理論の境界領域を開拓する研究が評価され、大変名誉ある賞を頂けることになり光栄です。笠真生さんを始め、共同研究者の方にとても感謝いたします。これを機会に関連分野の発展に、より一層励みたいと思います。また理論物理学の新しい境界領域にチャレンジする若手の励みにもなれば幸いです。」と述べています。

高柳匡氏 略歴

1998年 東京大学理学部物理学科卒業
2002年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
2002年 ハーバード大学ジェファーソン研究所研究員
2005年 カリフォルニア大学サンタバーバラ校カブリ理論物理学研究所研究員
2006年 京都大学大学院理学研究科助手
2008年 東京大学数物連携宇宙研究機構特任准教授
(2012年4月- 現在 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構客員上級科学研究員)
2012年- 京都大学基礎物理学研究所教授
2015年-2019年 It from Qubit Simons collaboration 主任研究員

理学博士(東京大学、2002年)

主な受賞歴

2011年:第4回湯川記念財団・木村利栄理論物理学賞
2013年:第28回西宮湯川記念賞
2014年:ニューホライゾンズ物理学賞

主な著書

SGCライブラリ 106 臨時別冊・数理科学 2014年4月「ホログラフィー原理と量子エンタングルメント」(サイエンス社, 2014)

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