天の川銀河の円盤の外縁部に予想外の構造を発見

2021年12月16日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の Chervin Laporte (シェルヴィン・ラポルテ) 特任研究員 (現 バルセロナ大学 宇宙科学研究所 研究員) が率いる研究グループは、欧州宇宙機関のガイア衛星の観測データを解析し、天の川銀河円盤の外縁部にある星の分布の新しい地図を作成しました。その結果、これまで知られていなかったフィラメント状の構造が円盤の外縁部に多数存在することを明らかにしました。従来の数値シミュレーションを用いた研究では、こうしたフィラメント構造は、過去に周囲から衛星銀河が天の川銀河に落ち込み、衝突、合体することによって形成されたと予測されますが、研究グループが今回発見した膨大な数のフィラメント構造の存在については予想外であり成り立ちは謎に包まれています。今後、天の川銀河の恒星に対して分光観測を更に進めていくことで、この構造の謎について明らかにしていく予定です。

本研究成果は、英国王立天文学会 (RAS) 発行の論文誌 Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (MNRAS) に2021年12月14日付で掲載されました。

 

2. 発表内容
私たち地球のある太陽系が属する天の川銀河は、分かっているだけでも約50個の衛星銀河に囲まれており、過去には多くの衛星銀河を飲み込んで進化してきました。例えば、天の川銀河は過去に「いて座矮小銀河」と呼ばれる衛星銀河との衝突によって大きく擾乱され、影響を受けたと考えられています。さらにその以前には、「ガイア・ソーセージ」と呼ばれる衛星銀河が衝突し、天の川銀河と相互作用していたことも近年指摘されています。天の川銀河の外縁部に、ガイア・ソーセージの痕跡が発見されたからです。天の川銀河には、恒星が分布したフィラメント状の構造が外縁部に見られますが、研究者達はこの構造は、天の川銀河が過去に様々な衛星銀河との衝突、合体といった相互作用した際に潮汐作用で生まれた結果生じた「潮汐腕」の痕跡であると予測しています。これまでの研究で、円盤の外縁部にあるフィラメント状の構造のうち、「Anticenter Stream」(銀河円盤上で太陽から見て銀河中心とは反対方向の星のフィラメント状構造)と呼ばれるものには、約80億年以上前の星が多く含まれていることが明らかになっており、これはいて座矮小銀河ではなく、ガイア・ソーセージとの衝突が起源であると考えられています。しかしながら、こうした構造の全てが外的要因の潮汐腕の名残りとして形成されたというわけではなく、天の川銀河の円盤内の垂直方向の密度波という内的要因が、こうした構造を形成した可能性もあります。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の Chervin Laporte (シェルヴィン・ラポルテ) 特任研究員 (現 バルセロナ大学 宇宙科学研究所 研究員) が率いる研究グループは、欧州宇宙機関 (ESA) のガイア衛星の観測データを解析し、天の川銀河の円盤の外縁部の新しい地図を作成しました。ガイア衛星は、ヒッパルコス衛星の後継として 天の川銀河の3次元地図の作成を目的として ESA が2013年に打ち上げた位置天文衛星です。これまで、3回のデータ公開を行なっており、研究グループは、 早期データリリース3 (EDR3) と呼ばれる2020年の3回目の公表データを元に解析を行いました。研究グループは、個々の星の運動(固有運動)の測定結果を用いることで、塵の減光の影響のために、ほとんどこれまで調べられていなかった天の川銀河円盤の外縁部の星分布の3次元地図を調べることに成功しました (図1,図 2, GIF動画を参照)。

その結果、これまで知られていた天の川銀河の構造の全体像をより鮮明に描き出すことができました。加えて、天の川銀河の円盤の外縁部に、これまで知られていなかったフィラメント状の構造が多数存在することが今回明らかになりました。これまでの研究から、こうしたフィラメント状の構造は、天の川銀河が過去に周囲の衛星銀河と衝突、合体し相互作用を起こすことによって形成されたと予測されますが、研究グループが今回発見した膨大な数のフィラメント構造の存在は予想外であり、詳細な研究、解析が必要になります。

研究チームは今回の結果を受けて、この構造をさらに解明するため、ラ・パルマ島にあるウィリアム・ハーシェル望遠鏡に搭載された分光観測装置 WEAVE を用いた専用の追跡調査プログラムの時間を確保し、各構造における恒星集団の類似している点や違いについて調査を始めています。さらに今後は、スローン・デジタル・スカイサーベイ (SDSS) や Kavli IPMU が中心となり2023年本格稼働を目指し現在準備を進めている超広視野多天体分光器 PFS の分光観測によって、恒星の視線方向の速度や化学組成、恒星年齢などの情報を入手し、こうした構造にふくまれる恒星の起源やこの構造自体の成り立ちについて明らかにしていく予定です。

 

 

3. 発表雑誌
雑誌名:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
論文タイトル:Kinematics beats dust: unveiling nested substructure in the perturbed outer disc of the Milky Way
著者:Chervin F P Laporte (1), Sergey E Koposov (2,3), Vasily Belokurov (3)
著者所属:
1. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study (UTIAS), The University of Tokyo, Chiba 277-8583, Japan
2. Institute for Astronomy, University of Edinburgh, Royal Observatory, Blackford Hill, Edinburgh EH9 3HJ, UK
3. Institute of Astronomy, University of Cambridge, Madingley road, CB3 0HA, UK


DOI:10.1093/mnrasl/slab109 (2021年12月14日掲載)
論文のアブストラクト(Monthly Notices of the Royal Astronomical Society のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)
 


4. 問い合せ先
(研究内容について)
Chervin Laporte (シェルヴィン・ラポルテ) [英語での対応]
バルセロナ大学 宇宙科学研究所 研究員
E-mail: chervin.laporte_at_icc.ub.edu
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail:press_at_ipmu.jp
TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください