超新星は丸くない すばる望遠鏡で爆発する星の内部を探る --前田啓一特任助教--

2008年2月1日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe 略称:IPMU)

 
東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の前田啓一特任助教、広島大学宇宙科学センターの川端弘治助教、IPMUの野本憲一主任研究員、東京大学理学系研 究科田中雅臣(博士課程在学;日本学術振興会特別研究員)らは、すばる望遠鏡を用いた観測による研究結果を米国科学学術誌Scienceに発表しました。 「超新星は丸くない」というその結果は、 現代天文学でまだわかっていない超新星の爆発のしくみに迫る初の観測的結果として、今後の超新星研究と、そして密接に関係したガンマ線バーストの研究に大 きな影響を与えることが期待されます。前田助教はドイツから帰国したばかりで、若い力が引っ張る機構の研究の良い例になりました。

発表雑誌:Science Express (online版)の2008年1月31日号に掲載。
論文タイトル:Asphericity in Supernova Explosions from Late-Time Spectroscopy
著者: Keiichi Maeda, Koji Kawabata, Paolo A. Mazzali, Masaomi Tanaka, Stefano Valenti, Ken'ichi Nomoto, et al.

発表日:2008年2月1日
問い合わせ先:東京大学数物連携宇宙研究機構特任助教 前田 啓一
TEL 04-7136-6559 
E-Mail keiichi.maeda _at_ ipmu.jp

URL http://member.ipmu.jp/keiichi.maeda/index.html 

解説:  太陽の約10倍以上の質量を持つ大質量星は、その生涯の最後に超新星爆発という大爆発を起こすことが知られていますが、その爆発の仕組みはまだわかってお らず、現代天文学での重要な未解決問題のひとつとされています。大質量星はその生涯の最後に中心に向かってつぶれ(重力崩壊し)、中性子星あるいはブラッ クホールを作ります。しかし、重力崩壊を起こした星がいかに爆発を起こすかがわかっていないのです。この問題について、数値計算を用いた理論研究からいく つかの可能性が提案されています。爆発が花火のように丸くなく、絞った形となる原因としては、星の回転や磁場の存在、あるいは爆発からくる波の最前線が揺 れ動く運動などが考えられ、その場合には左右を向いた大砲のような絞った爆発が起こることが予想されます。

超新星として光っているのは、 爆発によって飛び散った高温ガスの残骸です。超新星は銀河系外の数千万光年という遠方で起こるため、その形を直接見ることはできません。前田啓一特任助教 らは爆発が丸くない場合に、超新星のスペクトル(色ごとの光の強さ)がどのようになるか、理論計算で調べました。その結果、爆発後200日以上経過した後 で超新星のスペクトルを観測すると、丸い爆発と絞った爆発を区別することができると予言しました(図1、2)。

図1 : "絞った"爆発のモデル

fig 1fig 1

図2 : 酸素の輝線

fig. 2fig. 2

理 論モデルから、超新星が丸い場合とそうでない場合では、観測される酸素輝線のスペクトルに違いが現れると予測されます。丸い爆発では、星でつくられた酸素 は内側から球殻上に放出され、どの方向から見ても「ひと山」の酸素輝線が検出されます。これに対し、絞った爆発では、酸素を豊富に含んだ物質は赤道方向 にドーナツ状に放出されます(図1)。この場合、酸素の放つ光を観測すると、絞った方向から見た場合は「ひと山」の輝線として観測されます(図2上)が、 横から見た場合は「ふた山」の輝線が検出されます(図2下)これは、ドーナツ状に広がる物質の観測者に向かってくる側と遠ざかる側から放出された光がそれ ぞれ短波長、長波長にドップラー効果で色が変わるためです。 研究チームは、すばる望遠鏡を用いて、爆発から200日以上経った15個の超新星のスペクトルを得ました。爆発から時間がたつと、超新星はとても暗くな り、すばる望遠鏡でも観測には長い時間がかかります。似たような観測は以前にはわずかの天体しか例がありませんでした。飛躍的なデータ数の増加です(図 3)。

図3 : すばるで観測した超新星
fig. 3fig. 3

すばる望遠鏡によって撮像した後期(爆発後約200日以上経った段階)での超新星の画像。これにSN 2002apを加えた計15個の超新星に対して分光観測を行いました。
爆発が丸くない場合でも、天体を見る向きによっては丸い場合と区別がつかない(図1、2の説明)ため、観測天体の数が少ないと、爆発の形について議論する ことは困難でした。今回の観測の結果、18個の超新星(うち15個はすばるで観測したもの)のうち、はっきりと絞った形を示した超新星が5個、その兆候の 見られる超新星が4個ありました。つぶれた形でも見る向きによっては丸く見えることを考えると、この結果は「すべての超新星がつぶれた形の爆発をしてい る」ことを示しており、超新星が一般に絞った爆発であることの世界初の観測的な証明となります。

今回の研究成果により、近年提案されてい る丸くない爆発という理論が実際の超新星爆発の仕組みの有力な候補であることが観測的に確認されました。一方、平均的な超新星は、通常よりも激しい爆発で ある極超新星とそれに伴うガンマ線バーストよりも丸くない程度が小さい(球対称に近い)ということまで確認できました。これは、極超新星と通常の超新星と では爆発の仕組みが違うことを示唆します。今後は、各理論と観測結果をより詳細につき合わせていって、爆発の仕組みをより良く理解することが目標になりま す。

研究グループは、文中で触れた東大数物連携宇宙研究機構、広島大学、東京大学理学部のメンバーの他に、国立天文台、マックスプランク 天体物理学研究所(ドイツ)、トリエステ天文台(イタリア)、南ヨーロッパ天文台(ドイツ)、中国国立天文台(中国)、国立光学天文台(アメリカ)、カリ フォルニア大学バークレー校(アメリカ)、宇宙航空研究開発機構のメンバーからなる国際研究グループです。

前田啓一特任助教は、1976 年生まれ、2004年に東京大学大学院理学系研究科において博士(理学)を授与されました。東大総合文化研究科での研究員を経て、2007年4月よりドイ ツ・マックスプランク天体物理学研究所に於いて研究員。同年12月より東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)に特任助教(現職)として参加するために帰国 しました。前田氏は「今回の成果は、日本、ドイツ、そしてまた日本へと渡り歩いて続けてきた研究のひとつの集大成になりました。今後は、この研究を発展さ せて、宇宙の進化を探る手段として適用することを目指すとともに、新しい理論予測と観測手法の提案もしていきたいです。」と語っています。IPMUは宇宙 の謎、特に暗黒エネルギーの正体の解明を目指し、2007年10月1日に設立されました。カリフォルニア大学より機構長として着任した村山斉教授は、「若 い力が引っ張る機構の研究の良い例になりました。」と語っています。