鈴木洋一郎

Yoichiro SuzukiYoichiro Suzuki

これまでの研究の中心はニュートリノ質量、これからは暗黒物質の研究が重要課題に、そして、陽子崩壊の探索はライフワ−クである。

我々の持つ宇宙の知識は、この10年間で飛躍的に増加し、また大きく変貌した。今、我々は、宇宙の物質・エネルギーのうち95%以上が、光では観測できない暗黒エネルギー・暗黒物質といわれるものであることを知っている。しかし、それらの正体は全く未知だ。本拠点(IPMU)の実験グループの中心課題は、それら、暗黒エネルギー、暗黒物質を観測・研究し、その正体を解明することだ。

ニュートリノの微小質量は、宇宙の物質・エネルギーにはほとんど貢献しないが、その微小な質量は、陽子崩壊とともに、素粒子の統一理論への糸口である。統一理論は、宇宙初期を研究するための一種の道具である。

我々は、これらの研究を既存の実験拠点と連携して進める。暗黒エネルギーは国立天文台すばる望遠鏡との連携である。IPMUが設置する神岡サテライトでは、宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設、東北大学ニュートリノ科学研究センター等との連携により、暗黒物質探索や、ニュートリノ質量の研究など観測的素粒子実験の飛躍的展開をめざす。IPMUは神岡サテライトにおいて、地下実験の基盤を構築するだけでなく、人員を配置して実験屋と理論屋が徹底的な議論を展開する場を提供する。

私は4月から神岡に居を移し研究に専念する。ニュートリノ質量の研究は、現在建設中のT2K実験(第2世代の長基線ニュートリノ振動実験であり、東海村JPARCにより作られるニュートリノビームをスーパーカミオカンデで観測する)により新たな段階に入るが、もう一つの大きな興味は暗黒物質の直接検出実験である。世界最高感度を持つ液体キセノン検出装置の建設はすでにはじまっている。2年後にはデータ収集がはじまる。5年後くらいには暗黒物質の正体を解き明かすような成果を期待したい。このような実験を遂行しつつ、将来の陽子崩壊・ニュートリノ検出器に必要な開発・デザインをすすめてゆく。

IPMUは東京大学のどの部局にも属していない、ゼロから作られた研究所である。しかも、これまでにない世界と競合できる教員人事制度や給与システムの構築、そして拠点長のリーダーシップが発揮できる組織や運営の仕組みの構築が必要だ。この大変な作業は、拠点長のリーダーシップの下、事務部門の大いなる努力で、この半年の間でようやく姿が見えてきたが、未完である。困難もあるがやり通さなくてはならない。これが、日本における新しい研究所のモデルになる。