暗黒物質検出

宇宙のエネルギーの32%は物質、すなわち重力に関与する成分により担われている。しかし、我々の知っている全ての生物、衛星、星、銀河など宇宙を構成している物質は宇宙の物質全体の約16%しかない。残りの84%は暗黒物質と呼ばれている物質であり、多岐にわたってその影響を見ることができるが(他のリサーチプログラムを参照のこと)、直接検出されてはいない。

加速器や望遠鏡で観測されている「通常」の物質の動きや分布を説明するためには、暗黒物質の存在は必須であるが、通常の物質を適切に精度の良く説明できるこれまでの理論を複雑なものにするのは我々にとっては頭痛の種である。暗黒物質はこれまでのところは物質の面から存在が示されているが、我々の知っている素粒子物理の面からはその正体は分かっていない。暗黒物質の直接検出実験は素粒子の面からの試みである。そのためには重力による影響よりもさらに深く通常物質と暗黒物質の関わりを見つける必要があり、検出器を構成する通常の物質と個々の暗黒物質粒子の直接の相互作用を探索する。

我々の通常の物質に関する知識から暗黒物質粒子の検出に使用できる物質を探し出すのは大きな挑戦である。通常の物質は放射線同位元素を含んでおり、その放射線は暗黒物質粒子の信号に酷似している。全ての放射性元素を除去しできるだけ純粋な物質を検出器に使用し、残っている放射性元素の量をできるだけ精密に知ることが検出の感度を上げるためにもっとも重要である。しかも、この作業はできるだけ大量の検出物質に対して行う必要がある。カブリIPMUでの暗黒物質直接探索プログラムは、次々と新しい世代の検出装置を開発し上記の挑戦を続けている。

最初の世代のXMASSは、834kgの感応領域の単相の液体キセノン・シンチレータの検出器である。試験運転の後、2013年に検出器の改良を行い、2019年2月に1600日以上にわたる低雑音の有用なデータを収集し実験を終了した。XMASS実験は多くの論文を発表したが、特にDAMA/LIBRAの年間変調に対して否定的な結果を得た。また、XMASS実験ではデータ解析に機械学習の手法を先駆的に取り入れた。

2017年以来日本のXMASS実験メンバーはXENON実験グループに参加しXENON1T検出器のXENONnT検出器へのアップグレードの準備をしている。XENON実験は二相液体キセノンを先駆けて採用し、XENONnT検出器では50 GeVの質量のWIMPの散乱断面積に対して10-48 cm2の感度を初めて達成することが期待される。XENONnTは2019年夏より実験が開始された。 (Last update: 2020/01/06)

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