ハイパーカミオカンデ(Hyper-K)実験は、地下に設置されニュートリノを検出できる水チェレンコフ検出器で世界最大のもので、2027年の実験開始を目指しています。これまでにすでに大きな成果を挙げてきているスーパーカミオカンデ実験やT2K実験に続いて、約10倍の大きさの測定器を建設し、光検出器の感度を高め、またJ-PARC加速器から入射するビーム強度を高め、J-PARC側に置かれた前置検出器の性能を高めるなど、これまで培ってきたニュートリノ実験技術を改良することにより、ニュートリノのCP対称性の破れを発見し宇宙の歴史の謎を理解することを目指しています。さらに、超新星、陽子崩壊、太陽ニュートリノ、超新星背景ニュートリノ、暗黒物質など、宇宙からのニュートリノや標準模型を超える新しい物理に由来する現象に対する検出感度もさらに改良されています。
このような感度の高い測定には同時にこれまでになく高い実験精度が必要となります。実験装置や物理現象の理解が不十分で測定そのものに不確実性があると、せっかくの大発見のチャンスを無駄にしてしまう可能性があるからです。J-PARCから入射されるニュートリノと水との反応の関係をより良く理解するために、ニュートリノを発生するJ-PARC加速器の近くに置かれニュートリノビームとニュートリノ反応の測定を行う前置検出器(ND280)の改良を行うとともに、ニュートリノ発生地点から1〜2kmの距離に新たに可動式の水チェレンコフ検出器(IWCD)を設置し、入射するニュートリノのエネルギーと水と衝突して起こる反応の関係を詳細に調べます。また、水チェレンコフ測定器としてのハイパーカミオカンデの性質をより良く理解し、複雑に絡み合った測定器のパラメータを解きほぐすために、光検出器の新しい較正方法、測定器内部の水の純度のモニタリング、また機械学習法の導入など、新たな技術が開発中です。欧州合同原子核研究機関(CERN)のテストビームを使って行われる水チェレンコフテスト実験(Water Cherenkov Text Experiment - WCTE)でこれらの新しい技術の有効性がテストされ、その結果がスーパーカミオカンデ実験およびハイパーカミオカンデ実験にフィードバックされることが期待されています。
(Last update: 2022/05/09)