スーパーカミオカンデ、宇宙の歴史に刻まれた「かすかなささやき」の手がかりを捉える

2026年8月6日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI)

 

2026年6月25日、米国カリフォルニア州アーバインで開催された国際会議「Neutrino 2026」において、スーパーカミオカンデ国際共同研究グループは、超新星背景ニュートリノ (Diffuse Supernova Neutrino Background, DSNB) の兆候 (2.6σ、99.5%信頼水準) を世界で初めて捉えたことを発表しました。

図1. 観測結果の統計的解釈の図 本観測結果はフラックスが無いとすると99.5%の確率で否定される。またフラックスが3.6 cm⁻² s⁻¹で有った場合にもっともよく説明ができる。(Credit:Super-Kamiokande Collaboration)

大質量星は、その一生の終わりに超新星爆発を起こす際、炭素・酸素・窒素・鉄といった、生命に不可欠な複雑な元素を生成・拡散させると同時に、膨大なエネルギーをニュートリノとして放出します。超新星背景ニュートリノとは、宇宙初期から現在に至るまでの、すべての重力崩壊型超新星爆発から放出されたニュートリノが宇宙空間に蓄積した総量を指します。

超新星背景ニュートリノを捉えることは、宇宙の元素合成史や星形成の歴史を定量的に解明し、理論モデルを検証する決定的な観測手段となります。しかし、特に初期宇宙で発生した超新星からのニュートリノは極めて捉えにくく、その観測は困難を極めてきました。

1987年2月、スーパーカミオカンデの前身であるカミオカンデは、単一の超新星からのニュートリノ直接観測 (SN 1987A) を成し遂げましたが、はるか遠方からの蓄積である超新星背景ニュートリノの検出は、スーパーカミオカンデにとっても長年の課題でした。

これまで、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)の研究者らもスーパーカミオカンデ国際共同研究グループの一員として、超新星背景ニュートリノ観測の実現に大きく貢献しており、Mark Vagins (マーク ヴェイギンス) 教授、Kai Martens (カイ マルテンス) 准教授、Patrick De Perio (パトリック デ ペリオ) 特任准教授、Andrew Santos (アンドリュー サントス) 特任研究員、Lluis Marti Magro (ルイス マルティ マグロ) 元特任研究員、そして大学院生の藤田沙希 (ふじた さき) さんが名を連ねています。特に、藤田さんは機械学習を用いた超新星背景ニュートリノの解析手法とその成果により、Neutrino 2026にて Best Poster Award を受賞しました。また、Vagins 教授は2008年以来、Kavli IPMU において、スーパーカミオカンデの水タンクにガドリニウムを添加するプロジェクトを主導してきました。このプロジェクトは、Vagins 教授とオハイオ州立大学の理論物理学者である John Beacom 氏と共に考案したアイディアに基づいています。両氏は2004年の「Physical Review Letters」誌に掲載された論文で、そのアイデアを初めて発表し、超新星背景ニュートリノ(DSNB) という用語を導入しています。

Vagins 教授は「超新星背景ニュートリノを検出する手法を最初に提案してから20年以上が経ち、遂にこのような有力な研究成果を目の当たりにすることができ大変興奮しています。超新星背景ニュートリノは、星形成のまさに始まりまで遡って観測できるというユニークな手段を提供してくれるだけでなく、他の手法では観測不可能である太古に爆発した星の極めて高温・高密度の星内部の情報も得ることができるのです」と述べています。

今回の研究では、純水運転期間 (2008年~2020年のうち3349日) とガドリニウム導入期間 (2020年~現在のうち1653日) を合わせた合計約5000日分の観測データを解析しました。解析では、ニュートリノエネルギー13.3~81.3 MeVの領域において、バックグラウンド (主に大気ニュートリノ事象や宇宙線によって誘起される水中の酸素原子核の破砕事象) を精密に除去した後、統計的に有意な超過信号を確認しました。

超過信号の有意性は 2.6σ (99.5%信頼水準) であり、偶然の変動では説明できないものの、まだ「発見」とみなされる確定段階 (5σ以上) には達していないため、現時点では「兆候」と位置づけられます。しかし、推定される超新星背景ニュートリノフラックスは約3.6±1.6/−1.5cm⁻²s⁻¹であり、いくつかの理論モデルの予測範囲と矛盾しない結果が得られています。

決定的な検出には、さらなるデータの蓄積と解析手法の改善が必要であり、スーパーカミオカンデ国際共同研究グループはスーパーカミオカンデおよび現在建設中の後継施設であるハイパーカミオカンデを用いて、引き続きこの研究に取り組んでいく予定です。

 

図2. 重力崩壊型超新星爆発とは、太陽の約8倍以上の重い質量の星が寿命の終わりに起こす大爆発で、核融合反応が停止すると重力で星の中心が急激に潰れ、超高密度の中性子星やブラックホールが形成される。その反動で星の外層が吹き飛ばされ、宇宙に大量の物質とエネルギーを放出する。この過程では重元素も生成され、宇宙の進化に極めて重要な役割を果たしている。(Credit: Kamioka Observatory, ICRR (Institute for Cosmic Ray Research), The University of Tokyo)

 

関連リンク
スーパーカミオカンデが超新星背景ニュートリノの兆候を捉える ― 宇宙の歴史に刻まれた「かすかなささやき」の手がかり ― (東京大学 宇宙線研究所)
スーパーカミオカンデが超新星背景ニュートリノの兆候を捉える― 宇宙の歴史に刻まれた「かすかなささやき」の手がかり ― (東京大学 宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)