機構長から

機構長就任のご挨拶

2023年11月2日

 

Kavli IPMU の機構長に就任するにあたり、身の引き締まる思いであると同時に、これからここで展開される新しいサイエンスのことを思うと興奮を抑えることができません。

振り返ってみると、1984年夏のある日、私は大学院入試の口頭試問を受けるため、多くの教授たちに対峙していました。そして、ある老教授から、
「宇宙を観測する手段として、光のほかに何があるかね?」
と聞かれました。私は、光というのはフォトンということを言っているのだと思い、フォトン以外に宇宙から飛来するものとして、「ニュートリノや重力波が考えられます」と答えたところ、面接官一同から失笑されてしまいました。(教授たちは「X線やガンマ線」というありきたりの答えを期待していたようです。)

失意のうちに面接室をあとにした私でしたが、超新星1987Aからのニュートリノを検出して小柴昌俊先生がニュートリノ天文学を創成したのはそのわずか3年後でした。さらに、重力波の直接検出も、2015年9月14日にアメリカの LIGO 検出器によってついに実現し、翌年2月にこのことが世界に発表されました。こうして、1984年に私を面接した教授たちよりも、当時弱冠21歳であった私の方が正しかったことが、32年目にして証明されたのです。


そして今や、Kavli IPMU では宇宙の彼方からのニュートリノ検出や、宇宙開闢直後に生成した重力波の痕跡の検出など、当時は思いもよらなかった新しいサイエンスに取り組むとともに、天文学から宇宙論、素粒子論、数学に亘る多くの優れた理論研究者によって基礎科学の研究を推進しています。
WPI プログラムのもと、全くゼロから新しい研究機構を立ち上げた村山初代機構長、カブリ財団の支援を含め安定的な基盤形成を実現した大栗2代機構長の時代を経て、私たちは WPI アカデミーとなり、東京大学の一組織として長期的な視野に立った運営が可能になりました。


私たちは、すばる PFS による宇宙大規模構造の観測や上述のプロジェクトなどによって研究成果を創出するとともに、国際協力によって数十年スケールで実現するような長期的な視野に基づくプロジェクトの種をまき、芽を出すような活動も行なっていきたいと考えます。そして開設以来16年経た今日なお、さらに今後も若々しい研究機構であり続けたいと思います。

 

東京大学 国際高等研究所
カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI)

機構長 横山 順一