ビッグバン宇宙理論はEinsteinの相対性理論を基盤に,宇宙膨張,ビッグバン元素合成(BBN),マイクロ波宇宙背景放射(CMB)などの観測事実を柱として確立した理論であり,宇宙が誕生して約1秒以降の宇宙の進化を記述することに成功している。インフレーション宇宙論は,さらに初期の宇宙を記述する理論である。宇宙誕生直後,インフラトンと呼ばれるスカラー場のポテンシャルエネルギーが宇宙を支配し,宇宙を指数関数的に膨張させ,その後の再加熱によって熱い宇宙(ビッグバン)を実現する。インフレーション宇宙論は,ビッグバン宇宙論を宇宙のごく初期に適用した場合に生じる地平線問題や平坦性問題などの理論的問題を解決するとともに,インフラトン場の量子ゆらぎから宇宙の曲率ゆらぎと密度ゆらぎを生成する。これらのゆらぎは,断熱的でほぼスケール不変であり,ガウス統計に従うなどの特徴を持ち,インフレーション宇宙を検証する上で最も重要である。また,インフレーション宇宙では同時に原始重力波も生成されると予言されている。
インフレーションが生成する密度ゆらぎは,CMBの温度異方性や銀河サーベイなどの観測によって詳細に調べられ,インフレーションの予言がほぼ正しいことが明らかになり,さらなる観測の精密化によるインフレーションモデルの検証が進んでいる。一方,インフレーションが予言する原始重力波はいまだ発見されていないが,将来のCMB偏光観測や重力波の直接観測による検出が期待されている。
観測の発展によってインフレーション宇宙の理論的枠組みは広く認められるようになったが,インフレーションを引き起こすインフラトン場の正体はいまだ謎である。また,複数の場がインフレーションに関与していた可能性もあり,その場合には等曲率ゆらぎや非ガウス性が生じる可能性がある。さらに,小スケールで大きな密度ゆらぎが生成され,それによって原始ブラックホールが形成される可能性もある。また,インフレーション後の再加熱過程がどのように起こるかなど,さまざまな問題が残されている。
インフレーション宇宙では,インフレーション後の再加熱によって宇宙を構成するほぼすべての物質と放射が生成される。したがって,ダークマターや宇宙の物質・反物質非対称性もインフレーション後に生成されたと考えられ,それらの起源も宇宙論における大きな謎となっている。さらに,これらの問題は標準模型を超える素粒子理論とも密接に関係している。このように,インフレーション宇宙にはいまだ解明されていない重要な問題が数多く残されており,それらの解明を目指している。
(Last update: 2026/09/10)
メンバー
- Shunsuke Adachi
- Robert Brandenberger
- Christian Capanelli
- Tomohiro Fujita
- Yannis Georis
- Tommaso Ghigna
- Elisa Gouvea Mauricio Ferreira
- Masashi Hazumi
- Anamaria Hell
- Yiwen Huang
- Masahiro Ibe
- Hirokazu Ishino
- Baptiste Jost
- Masahiro Kawasaki
- Ryuichiro Kitano
- Takeshi Kobayashi
- Kazunori Kohri
- Eiichiro Komatsu
- Dan Kondo
- Kazuya Koyama
- Alexander Kusenko
- Luca Marchetti
- Tomotake Matsumura
- Marta Monelli
- Shinji Mukohyama
- Hitoshi Murayama
- Maria Mylova
- Toshiya Namikawa
- Yasunori Nomura
- Ippei Obata
- Shi Pi
- Yuki Sakurai
- Misao Sasaki
- Katsuhiko Sato
- Kai Schmitz
- Satoshi Shirai
- Salvatore Sirletti
- Xue Song
- Yoshinori Sueno
- Aritoki Suzuki
- Masahiro Takada
- Volodymyr Takhistov
- Victoria Venken
- Taizan Watari
- Tsutomu Yanagida
- Vicharit Yingcharoenrat
- Jun'ichi Yokoyama






