第27回(2010年度)井上学術賞受賞 --小林俊行併任研究員--

2010年12月16日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe : 略称 IPMU)

東京大学大学院数理科学研究科の教授でIPMU上級科学研究員の小林俊行氏が、第27回(2010年度)井上学術賞を受賞しました。

井上学術賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者を対象に授与されます。

授賞式は2011年2月4日(金)に予定されています。

受賞業績の題目:「無限次元の対称性の解析」

小林俊行教授小林俊行教授

授賞理由:

数学の基本概念は代数・幾何・解析の三つから成るが、小林氏の業績には、それらのすべての分野が見事に融合され、美しく調和した感がある。即ち、同氏の研究は「対称性」をモチーフとして、純粋数学の広い分野にまたがっており、しかもスケールの大きい理論を創生している。その一つは、リーマン幾何学の枠組みを超えた不連続群論の創始である。小林氏は、計量が正定値ではない半単純対称空間において、不連続群の剛性の問題を考察し、局所剛性と大域剛性という概念を定式化し、いくらでも高い次元で剛性定理が成り立たない例を初めて構成した。さらに、基本群の変形問題に関し、非自明な変形が存在するか否かを判定する手法を与え、幾何学の世界に画期的進展をもたらした。これらの先駆的業績は、力学系理論、シンプレクティック幾何学、調和写像、グラフ理論など様々な分野の研究にも影響を与え、純粋数学の枠を超えた発展を生んでいる。

一方、無限次元表現論における「対称性の破れ」の数学的記述である分岐則の理論では、無限次元からくる種々の解析的な困難さがその発展を阻んでいた。そのような状況の中で、小林氏は、複素解析的、代数解析的、純代数的手法を駆使して、無限次元表現の制限が離散的に分解する「きれいな砕き方」を提唱して、離散的分岐則の基礎理論を創出した。この理論は、整数論や大域解析など他分野における難問題を解くための新しい手法ともなっている。

また、同氏は特異なユニタリ表現と非可換調和解析においても独創的業績を上げている。例えば、一般の擬リーマン多様体上の山辺作用素に対し、その大域解の空間に共形変換群の無限次元表現を構成できること示した。その結果は、幾何学、保型関数、特殊関数、偏微分方程式など多岐にわたって広く応用されている。

このような小林氏の業績は、数学の多くの分野に多大なインパクトを与え、新たな研究領域を切り開くものであり、井上学術賞に大変ふさわしいものであると判断した。

【財団法人 井上科学振興財団より転載許可済】

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財団法人井上科学振興財団

東京大学 大学院数理科学研究科 理学部数学科