宇宙の塵は星の爆発によって作られる! -超新星SN 1987A中に大量の塵を発見- --野沢貴也特任研究員--

 2011年8月25日

数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe:略称 IPMU)

ロンドン大学の松浦美香子研究員、東京大学数物連携宇宙研究機構の野沢貴也特任研究員らの国際研究グループは、ハーシェル宇宙望遠鏡を用いて大マゼラン雲中の超新星SN 1987Aの観測を行いました。その結果、超新星SN 1987A内に、マイナス250℃以下の極めて低温の塵が太陽のおよそ200倍のエネルギーで光輝いていることを発見しました。この温度・エネルギーに対応する塵の質量は地球の20万個分であり、これにより超新星SN 1987Aがその爆発時に大量の塵を形成していたことを突き止めました。これまで、宇宙に普遍的に存在する宇宙塵の起源については謎のままでしたが、この発見によって超新星が宇宙における主要な塵の供給源であることが証明され、宇宙初期から現在までにおよぶ固体物質の進化、そして我々の住む地球の起源を理解する上で重要な手がかりが与えられました。

発表雑誌: Science 2011年9月2日号

論文タイトル: Herschel Detects a Massive Dust Reservoir in Supernovae 1987A

(和訳: ハーシェル宇宙望遠鏡が超新星1987A中に大量のダストを発見)

著者: 松浦美香子、Eli Dwek、Margaret Meixner ほか


本件に関するお問い合わせ先

研究内容

野沢貴也 略歴

東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構特任研究員。2006年北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士後期課程修了後、北海道大学大学院理学研究院学術研究員を経て、2008年9月より現職。専門分野は、星間塵の形成・進化の理論的研究。

  • IPMU特任研究員 野沢貴也 Takaya Nozawa

Tel: 04-7136-6552

E-mail. takaya.nozawa _at_ ipmu.jp

報道対応

  • IPMU広報担当 宮副英恵 Fusae Miyazoe

Tel. 04-7136-5977

E-mail. press _at_ ipmu.jp


研究内容解説

 

宇宙空間中には、宇宙塵とよばれる1ミクロン(1ミリの千分の1の長さ)よりも小さい固体微粒子が普遍的に存在しています。宇宙塵は、紫外線や可視光線を吸収して赤外線を放出するため、種々の星や銀河を観測する際に深刻な影響を及ぼします。また宇宙塵は、地球のような固体惑星や我々生命の原材料でもあるため、なぜ我々が地球上に存在しているのか?という疑問に答える上でも、その起源や進化の研究は極めて重要です。 

特に近年の遠方宇宙の観測は、宇宙がまだ現在の年齢(137億年)の10分の1以下の時代においても豊富に宇宙塵が存在することを発見しました。では、そのような初期の宇宙にどうやって大量の塵が生み出されたのでしょうか?宇宙塵は、炭素や酸素、ケイ素、鉄などの重元素から作られていますが、これらの元素はビック・バンのときには存在しません。重元素は主に星の内部で合成され、星の寿命が尽きるときになって初めて宇宙空間に放出されます。しかしながら、太陽のような星は寿命が非常に長いため、宇宙初期には重元素や塵を供給することができません。そこで、寿命の短い(太陽の10倍以上も質量が大きい)大質量星から起こる超新星爆発が、宇宙初期における主要な宇宙塵の供給源だと考えられてきました。

そしてこの仮説が今回、ハーシェル宇宙望遠鏡による超新星SN 1987Aの観測によって初めて確かめられたのです。超新星SN 1987Aは、1987年2月23日に、地球から16万4千光年離れた大マゼラン雲で起こったおよそ太陽の20倍もの初期質量をもつ星からの大爆発です。超新星SN 1987Aは、初めてニュートリノが検出された超新星でもあり、その成果により東京大学の小柴昌俊名誉教授が2002年にノーベル物理学賞を受賞したことでも有名な天体です。肉眼で観測された超新星としては超新星SN 1604(ケプラーの超新星)以来であり、超新星SN 1987Aは、その爆発から現在までに及び、天文学者に超新星の物理進化過程を詳細に観察する機会を与え続けています。

ハーシェル宇宙望遠鏡(Herschel Space Observatory)は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)によって2009年5月14日に打ち上げられた遠赤外線とサブミリ波の帯域(0.07ミリから0.5ミリの波長)で観測を行う天文衛星です。遠赤外線やサブミリ波を通して我々は、宇宙空間に存在する極めて低温の宇宙塵から放出された光を見ることができます。同研究グループは、ハーシェル宇宙望遠鏡によって大マゼラン雲をサーベイ観測している際に、超新星SN 1987Aの位置に強い遠赤外線の光源があることを発見しました(図1)。観測された光のエネルギーは、太陽のエネルギーのおよそ200倍であり、そのエネルギーの波長分布から(図2)、光を放出している塵の温度はマイナス250℃以下、その質量は地球の20万個分に相当することがわかったのです。

この観測によって見積もられた超新星SN 1987A内の塵の量は、これまでの中間赤外線による他の超新星の観測に比べると1000倍以上も多い量です。そして、もし同様の量の塵がすべての超新星爆発によって形成されるならば、宇宙初期の大量の塵を説明する上では十分な量なのです。この発見は、ハーシェル宇宙望遠鏡の遠赤外線という波長で低温の塵を見ることによって初めて達成され得た成果であり、超新星は宇宙における大量の塵の製造工場である、ことの有力な証拠を与えてくれました。我々が立っている地球は、いわば超新星という星の大爆発の際に形成された塵の集積物だということになります。天文学者に数多くの英知を与えてきた超新星SN 1987Aが、爆発後24年目にしてまた一つ新たな知見を我々に与えてくれたのです。

 


図1

(左図)ハーシェル宇宙望遠鏡による超新星SN 1987Aの遠赤外線画像。

(右図)左図の白円部を拡大したハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像。超新星SN 1987Aを囲む薄ピンク色のリングは、超新星SN 1987Aの爆風が、爆発前に星から放出された物質と衝突している場所を表す。超新星の上下にある2つのリング構造の起源はよくわかっていない。

 

*画像提供:ESA/NASA=JPL/UCL/STScl

 

 

図2

超新星SN 1987Aから放出される赤外線エネルギーの波長分布。中間赤外線のデータ(緑色、波長3ミクロンから30ミクロン)は、スピッツァー宇宙望遠鏡によって検出された暖かい塵からの放射を示す。この塵は、超新星SN 1987Aを囲むリング中に存在し、爆発前に星の周りで形成され、現在超新星の衝撃波との衝突により加熱されて光っている。一方、遠赤外線のデータ(青色、波長100ミクロンから350ミクロン)は、ハーシェル宇宙望遠鏡によって検出された超新星爆発後に新たに形成された低温の塵からの放射を示す。

 

*画像提供:ESA/NASA=JPL/UCL/STScl

 

 

研究者リスト

松浦美香子(イギリス・ユニバーシティカレッジロンドン)、E. Dwek (NASA ゴダードスペースフライトセンター)、M. Meixner(アメリカ・宇宙望遠鏡科学研究所)、
大塚雅昭 (宇宙望遠鏡科学研究所)、B. Babler (アメリカウィスコンシン大学)、M. J. Barlow (ユニバーシティカレッジロンドン)、J. Roman-Duval (宇宙望遠鏡科学研究所)、C. Engelbracht (アメリカ・アリゾナ大学)、K. Sandstrom (ドイツ・マックスプランク天文学研究所)、M. Lakicevic (イギリス・キール大学/ヨーロッパ南天天文台)、J. Th. Van Loon (キール大学)、G. Sonneborn (NASA ゴダードスペースフライトセンター)、G. C. Clayton (アメリカ・ルイジアナ州立大学)、K. S. Long (宇宙望遠鏡科学研究所)、P. Lundqvist (スウェーデン・ストックホルム大学)、野沢貴也 (IPMU)、K. D. Gordon (宇宙望遠鏡科学研究所)、S. Hony (フランス・フランス原子力庁)、P. Panuzzo (フランス原子力庁)、K. Okumura (フランス原子力庁)K. A. Misselt (アリゾナ大学)、E. Montiel (アリゾナ大学)、M. Sauvage (フランス原子力庁)

 


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