第3回 戸塚洋二賞受賞 --福来正孝主任研究員・柳田勉特任教授--

2012年3月5日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe : 略称 IPMU)

東京大学宇宙線研究所の教授でIPMU主任研究員の福来正孝氏と、IPMU特任教授の柳田勉氏が第3回(2012年度)戸塚洋二賞を受賞しました。

戸塚洋二賞は、ニュートリノ実験または非加速器素粒子実験、あるいは関連する理論研究ですぐれた成果をあげた研究者に授与されます。

受賞式は2012年3月18日(日)に東京大学小柴ホールで行われる予定です。

受賞対象:「レプトン起源の宇宙のバリオン数非対称機構の提唱」

受賞理由:

原子の中心にある原子核を構成する粒子はバリオンと呼ばれ、軽い電子やニュートリノはレプトンと呼ばれる。原子という物質が現在の宇宙になぜ存在するに至ったか、という謎は素粒子の標準理論では解明されていない物理学の大きな課題である。高温の宇宙初期には物質と反物質が同量あったが、宇宙の膨張と共に冷却されると、物質と反物質は殆ど全て対消滅した。現在の宇宙に物質があって反物質が殆ど無いのは、宇宙初期に物質が反物質よりわずかに過剰で、量の非対称性があったためだと考えられている。そのバリオン数の非対称性の生じた原因の研究が重要なのである。それが宇宙初期に大統一理論等によって生じたと考えるのは自然であるが、仮にそのように非対称性ができたとしても、電弱相転移時にゲージ場-ヒグス場の働きにより、対称な状態にもどってしまう。
これに対し、福来・柳田の両氏は共同でレプトンを起源として宇宙のバリオン数非対称性を説明する機構を提唱した。70年代に柳田氏そのほかの研究者が導入したシーソー機構は、後に神岡実験で発見された微小なニュートリノ質量を自然に説明する。この機構では導入された右巻きニュートリノが大きな質量をもつことの反映としてニュートリノ質量が軽いことが説明される。福来・柳田氏は、この右巻きニュートリノの崩壊時に生じるCP非対称性によって宇宙のレプトン数非対称性が生成され、これが電弱相転移時にゲージ場-ヒグス場の働きを通じてバリオン数の非対称性に転化されるという模型を提案した。まだ実験的に検証されてはいないが、現在宇宙のバリオン数の非対称性を説明する最も単純で、有力な模型であり、世界的に多くの研究者に素粒子・宇宙研究の手がかりを与えている。宇宙のバリオン数の非対称性の起源をレプトン数非対称性に求めるこの機構は、通常レプトジェネシスと呼ばれ、バリオン数の非対称性研究に新しい地平を切り開いたものとして高く評価され、戸塚賞に相応しい業績である。
 

 詳細は平成基礎科学財団のホームページをご覧ください。