明るすぎる超新星、手前に虫めがねがあった! 〜重力レンズを生み出す銀河をついに発見〜

2014年4月25日
東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
東京大学大学院理学系研究科

発表概要:

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のロバート・クインビー特任研究員らの研究チームは、星が一生を終えるときに爆発して明るく輝く「超新星」が、通常の30倍の明るさで輝いた現象のしくみを解明しました。

今回、本研究チームの観測により超新星「PS1-10afx」と地球との間にある銀河を初めて発見し、この銀河の重力によって虫めがねのように超新 星の光を集める「重力レンズ現象」のために、超新星「PS1-10afx」が通常よりも非常に明るく輝いて見えていたことが分かりました。

超新星「PS1-10afx」は、ピーク時の明るさがよく揃っていて、宇宙の距離測定にも用いられるIa型(いちえいがた)超新星でした。2010 年に発見された当初から、その飛び抜けた明るさのために、新種の超高輝度超新星なのか、通常のIa型超新星が重力レンズで明るく見えたのか、論争がありま したが、今回の発見は本研究チームが2013年に発表した後者の説を裏付けるものです。

今回の発見はまた強い重力レンズ効果を受けたIa型超新星の初めての発見です。研究チームは、将来の観測ではその手法を工夫することで同様のIa型 超新星の重力レンズ現象がこれまで予測されていたよりはるかに多く発見できる見通しを示しました。このような観測が実現すれば、宇宙の加速膨張を直接測定 できるようになると期待され、今後、宇宙膨張の研究において超新星の観測がさらに重要になります。

本研究成果は、米国科学振興協会 (AAAS) 発行の論文誌 Scienceの2014年4月25日号に掲載されます。

発表のポイント:

  • 通常の30倍以上の明るさで輝く「超新星」の謎を解明した。
  • 超新星の手前にある銀河の重力によって超新星の光が集められる、強い「重力レンズ現象」を初めて発見した。
  • 今後、重力レンズ現象によって明るさが増した超新星が数多く見つかり、宇宙膨張の解明により重要な役割をはたすと期待される。

今回発見した銀河による増光のメカニズムの模式図。超新星と地球との間にある銀河による重力が、巨大なガラスレンズの様に光を集めたと考えられる。(クレジット: Kavli IPMU)今回発見した銀河による増光のメカニズムの模式図。超新星と地球との間にある銀河による重力が、巨大なガラスレンズの様に光を集めたと考えられる。(クレジット: Kavli IPMU)

<背景>

さまざまなタイプの超新星のうち、Ia型とよばれる超新星は、爆発の規模がほぼ同じで、ピーク時の明るさもよく揃っている、「宇宙の標準光源」とも呼ばれる性質を持っています。宇宙のさまざまな場所で発生したIa型超新星を観測し、宇宙の加速膨張を発見した2つの研究グループが2011年のノーベル物理学賞に輝くなど、Ia型超新星は宇宙の歴史と未来を知る上で重要な役割を果たしています。

2010年、全天サーベイ観測パンスターズ1(※1) によって発見された超新星PS1-10afxは、色や明るさの変化のパターンなどの特徴は通常のIa型超新星と変わらないのに、明るさだけが通常のIa型より30倍も明るいという、これまで観測されたことのないタイプの超新星でした。その異常な明るさから、全く新しいタイプの超高輝度超新星だと主張する研究者もいました。しかし、Kavli IPMUのロバート・クインビー特任研究員らのチームは、分光観測結果を調べ、やはりこの超新星はIa型に違いないことを示しました。そして、明るく輝いた原因は、超新星PS1-10afxと地球との間に大質量の銀河が存在し、その周囲の空間をゆがめて超新星の光を集める「重力レンズ現象」を作り出しているためである、というメカニズムを提唱し、昨年論文を出版しました。(米国The Astrophysical Journal Letters誌2013年5月1日号)プレスリリース

ただし、まだひとつ大きな謎が残っていました。それは、重力レンズ現象を作り出すほどの大きな質量の銀河がいったいどこにあるのか?ということです。超新星が現れた銀河(ホスト銀河)と、重力レンズ現象を作り出す手前の銀河(レンズ銀河)は、地球から見るとちょうど重なっているため、これまでの観測データではホスト銀河とレンズ銀河を区別することができませんでした。しかし、PS1-10afxが重力レンズ現象で明るくなっていたことの証明のためには、レンズ銀河を発見することがどうしても必要でした。

図1: 超新星PS1-10afxが現れた領域の超新星出現前のカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡 (CFHT) による画像。四角の中心部に超新星が現れた。(クレジット: Kavli IPMU/CFHT)図1: 超新星PS1-10afxが現れた領域の超新星出現前のカナダ-フランス-ハワイ望遠鏡 (CFHT) による画像。四角の中心部に超新星が現れた。(クレジット: Kavli IPMU/CFHT)

 

<研究手法と成果>

明るく輝いていた超新星が十分に暗くなった後の2013年9月、クインビー特任研究員らのチームは、まだ見つかっていない手前の銀河の探索のため、Keck-I望遠鏡 (※2) の低解像度イメージング分光器を使い、超新星PS1-10afxが現れていた領域で7時間の観測を行いました(図1)。そしてこの観測データを分析し、明るい遠方のホスト銀河の光の中から、手前にある銀河の光を分離することに成功しました(図2)。この結果は、ホスト銀河と私たちとの間には、重力レンズ現象を作り出す銀河が確かに存在していることを示します。

ここで見つかった手前のレンズ銀河は、超新星が出現したホスト銀河と比べ、小さく暗い銀河でした。このため、これまでの観測では周囲の光に隠されて見つけることができなかったと考えられます。重力レンズ現象でIa型超新星を明るく輝かせる天体の最初の例としてこのような小さなサイズの銀河が見つかったのは予想外の結果でした。今回の観測結果から、このような比較的小さく、遠くにある銀河でも、十分大きな増光率の重力レンズ現象を生じることもわかりました。宇宙の遠方ほど天体の数が多く、レンズの発生頻度もIa型超新星の発生頻度も高いため、遠方の宇宙で発生した超新星ほど重力レンズ現象で明るさを増して発見されやすくなると期待されます。

図2: Keck-I望遠鏡低解像度イメージング分光器を用いて観測した、超新星PS1-10afxが現れた領域の分光観測結果。超新星の属する銀河(赤矢印)と手前の銀河(青矢印)のそれぞれから放射される酸素の輝線が見られる。(クレジット: Kavli IPMU)    図2: Keck-I望遠鏡低解像度イメージング分光器を用いて観測した、超新星PS1-10afxが現れた領域の分光観測結果。超新星の属する銀河(赤矢印)と手前の銀河(青矢印)のそれぞれから放射される酸素の輝線が見られる。(クレジット: Kavli IPMU)

 

<今後の展望>

将来のLSST(※3)を用いた観測などでは、宇宙の遠方にありそのままでは暗すぎて見つけられないIa型超新星のうち、いくつもの超新星が、その手前の銀河の生み出す重力レンズ現象という宇宙の巨大虫めがねのはたらきで輝きを増して見つかるでしょう。これまで考えられていたより一桁も多くみつかる可能性があります。

重力レンズ現象により、ひとつの超新星が最大4個の像に分かれて観測される事があります。これは、超新星の光が宇宙の異なる経路を通過してそれぞれの像を結ぶためです。経路の長さの違いから像が現れる時間に差が発生します。この時間差から、宇宙のサイズを測ることができ、宇宙膨張のモデルの直接的な検証につながります。今回観測された超新星では解像度が足りずに像を分離できませんでした。しかし、将来、重力レンズ現象で輝きを増したIa型超新星が見つかった時に、高解像度の望遠鏡を使って追加観測を行えば、像を分離して観測できるでしょう。同研究チームが築き上げた検出、選別方法を用い、重力レンズ効果で明るく輝く超新星を多数観測することで、近い将来、宇宙膨張の理解がさらに進むことが期待されます。

<動画コンテンツ>

 

重力レンズで超新星の増光、像の分割が起こる様子を示すアニメーション(クレジット:Anupreeta More,Kavli IPMU)

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超新星PS1-10afxの銀河と重力レンズ銀河、地球の位置関係を表すアニメーション。

(Credit: Surhud More,Kavli IPMU
Images of galaxies: ESA NASA Hubble Heritage project and the SDSS)

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発表雑誌:

雑誌名:「Science」(2014年4月25日号)

論文タイトル:Detection of the Gravitational Lens Magnifying a Type Ia Supernova

著者:Robert M. Quimby,1* Masamune Oguri,1,2 Anupreeta More,1 Surhud More,1 Takashi J. Moriya,3,4 Marcus C. Werner,1,5 Masayuki Tanaka,6 Gaston Folatelli,1 Melina C. Bersten,1 Keiichi Maeda,7 Ken’ichi Nomoto1

著者所属:1Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), Todai Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 2Department of Physics, The University of Tokyo, 3Argelander Institute for Astronomy, University of Bonn, Germany, 4Research Center for the Early Universe, Graduate School of Science University of Tokyo, 5Department of Mathematics, Duke University, USA. 6National Astronomical Observatory of Japan 7Department of Astronomy, Kyoto University

Science
Vol. 344 no. 6182 pp. 396-399
DOI: 10.1126/science.1250903

問い合わせ先:

報道対応:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 大林 / 小森
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5974 Fax: 04-7136-4941 

研究内容について:

Robert Quimby(ロバート・クインビー)[英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: robert.quimby_at_ipmu.jp

大栗真宗(おおぐり・まさむね)
東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 助教、
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 准科学研究員
E-mail: masamune.oguri_at_ipmu.jp

Marcus Werner(マーカス・ワーナー)[英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: marcus.werner_at_ipmu.jp

Anupreeta More(アヌプリータ・モレ)[英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 日本学術振興会特別研究員
E-mail: anupreeta.more_at_ipmu.jp

野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp

(E-mail送信の際は、 _at_ を @ に変更して下さい。)

用語解説:

※1 パンスターズ1 (Panoramic Survey Telescope & Rapid Response System 1; Pan-STARRS1):4台の望遠鏡で継続的に全天をサーベイ観測する計画 (Pan-STARRS) において、米国・マウイ島のハレアカラ山頂に設置したプロトタイプ望遠鏡1台を用いた観測。http://pan-starrs.ifa.hawaii.edu/public/home.html

※2 Keck-I望遠鏡:米国・カリフォルニア天文学研究協会が運用している2基の10m可視光・赤外線望遠鏡のうちの1基。ハワイ島のマウナケア山頂、日本のすばる望遠鏡に隣接して設置されている。http://www.keckobservatory.org/

※3 LSST (大型シノプティック・サーベイ望遠鏡; Large Synoptic Survey Telescope):チリ・パチョン山に建設が予定されている口径8.4mの可視光・赤外線望遠鏡。超広視野の光学系と32億ピクセルのデジタルカメラを用いて、観測可能な天域の全天サーベイを3晩ほどで行うことができ、これを繰り返し行う事でこれまで観測出来なかった短い時間スケールで変化する超新星爆発や地球近傍の小惑星の観測なども可能となる。http://www.lsst.org/lsst/