水素のない超新星の正体を初めて解明 〜連星系の軽いヘリウム星の爆発だった〜

 

発表概要: 

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構のメリーナ・バーステン特任研究員らは、2013年に見つかり、初めて爆発前後の観測データが得られた水素のない超新星について、観測データを合理的に説明する爆発の仕組みの解明に成功しました。

この理論研究からわかったのは、連星系をなす2つの星のひとつが、外側の水素の層を相手の星にはぎ取られ、軽いヘリウム星に成長したところで超新星爆発をしたということでした。

超新星爆発の光が十分に暗くなる2015年には、ハッブル宇宙望遠鏡によって相手の星が観測できると予測されます。この星を発見することで、星の進化と超新星爆発の理論モデルを観測により実証できると期待されます。

超新星iPTF13bvnの爆発直前の連星系の想像図。超新星の元となる星(左)は、太陽の 4 倍の質量のヘリウム星となっており、伴星よりも質量は小さいが直径 は大きかったと考えられる。伴星は、太陽の 30 倍の質量で水素を多く含んでいる。超新星iPTF13bvnの爆発直前の連星系の想像図。超新星の元となる星(左)は、太陽の 4 倍の質量のヘリウム星となっており、伴星よりも質量は小さいが直径 は大きかったと考えられる。伴星は、太陽の 30 倍の質量で水素を多く含んでいる。

発表内容: 

<研究の背景>

宇宙には、様々なタイプの星が存在します。それらの星々のうち、一生の最後を超新星爆発と呼ばれる大爆発で終えるものがあり、その爆発のタイプは様々です。どのような星がどのような超新星爆発を起こすのか、といった超新星爆発の仕組みの解明は、宇宙物理学において長い間にわたる重要な問題とされています。特に、Ib (いちびー)型、Ic(いちしー)型と呼ばれる水素の含有率の低い超新星については、これまで爆発前の星が直接観測されておらず、水素を多く含んでいたはずの外層が星の進化の段階でどのようにはがされたのかといった仕組みがよくわかっていませんでした。

この外層がはがされるしくみは主に2つが考えられます。1つは、星の質量が巨大で熱いことから起きる強い風(星風)により、水素の外層が吹き飛ばされるという説で、もう1つは2つの星がお互いの周りを回る連星系をなしていて、片側の星の水素の外層が相手の星(伴星)に引き寄せられ、奪われてしまうという説です。 それぞれの説から導かれる超新星爆発直前の星の状態は大きく異なります。前者の場合、超新星爆発前の星は巨大質量星であるはずですが、後者の場合、大部分のガス(質量)が伴星に移ってしまっていることから、爆発直前の星自体はそれほど巨大ではありません。

2013年6月16日、パロマ突発天体観測所(PTF)の観測チームにより乙女座の方向に地球から約7000万光年離れた渦状銀河NGC5806にIb型超新星iPTF13bvnが発見されました(図1)。この超新星は地球からも近く、多くの詳細な観測画像が撮影されていました。天文学者はそれまで報告されたことのない、Ib型超新星の元となる星を追い求めました。カリフォルニア工科大のY. カオらはハッブル宇宙望遠鏡でこの超新星の爆発前に撮影された画像からiPTF13bvnの爆発が起きる場所に1つの星をみつけました。Ib型超新星の元となる星である可能性が大変高い星がついに観測されたのです(図2)。

瞬く間に天文学者の間で論争が巻き起こりました。この星の観測データを解析することにより、2つの仮説のどちらが正しいかを判別する強力な手がかりが得られるからです。

観測された、この星は比較的青色をしており、高温で大質量の星、すなわちウォルフ・ライエ星と考える研究者もいました。ジュネーブ大学のグローらの研究チームは爆発前の観測データから、この星の質量と表面温度がウォルフ・ライエ星のもので再現できることを示しました。このときこの星は、太陽の30倍以上の質量を持って誕生し、太陽の11倍の質量の時に超新星爆発を起こしてブラックホールが残る、という計算結果でした。

<成果と手法>

一方、カブリIPMUのバーステン特任研究員らは、超新星iPTF13bvnの爆発時の明るさの時間変化を分析し、爆発前の星の質量は太陽の4倍程度と、グローらの結果よりもはるかに小さな星だったことをつきとめました(図3)。この爆発の後にはブラックホールではなく、中性子星が残ると予測されます。このことは、爆発前の星はウォルフ・ライエ星ではなく、したがって強い風により外層が吹き飛ばされたわけではないことを示します。バーステンらはさらに星の進化について理論計算を行い、観測データが示す特徴をすべて説明できる構成を見つけ出しました。

同研究チームのラプラタ天体物理研究所のオマール・ベンベヌート教授は、計算により、2つの星が連星系をなし、大きい方の星の外層が伴星にすいとられて質量の移動がおこり、爆発時は太陽の4倍程度の質量、伴星は30倍程度の質量だったことを示しました(図4)。このシナリオから予想されるのは、伴星は質量を得て、非常に明るく表面温度の高い星となっているということです。

<今後の展望>

バーステン特任研究員らは2011年に発見された別の超新星2011dhについて、この光度曲線をよく説明する連星系モデルの提唱およびその観測的実証に成功しています。今回の超新星iPTF13bvnについても、今後の観測により、明るく表面温度の高い星が観測されれば、連星系の伴星に水素ガスの外層が移ったという説の非常に強い証拠となります。

超新星爆発の光が落ち着いて周囲が充分に暗くなり、伴星を観測することが可能になると考えられる2015年に、同チームのガストン・フォラテリ特任研究員が中心となってハッブル宇宙望遠鏡でこの領域を観測します。バーステン特任研究員は「水素のない超新星の爆発前の星を、世界で初めて同定できることになる、その日が待ち遠しくてしかたありません」と述べています。

2011年に発見された超新星2011dhに続き、今回発見された超新星についても、光度曲線を流体力学的計算によってモデル化し、それを星の進化の計算と組み合わせることによって立てた仮説を、ハッブル宇宙望遠鏡の観測を用いて検証するという手法を用いています。今後この手法を活用することによって、どのような星がどのような超新星爆発を起こすのかについての解明が大きく進むことが期待されます。


 

画像ファイルは、http://web.ipmu.jp/press/iptf13bvnからダウンロードが可能です。

図 1: 渦状銀河 NGC5806 付近で観測された超新星  iPTF13bvn (Image Credit: Jean Marie  Llapasset)図 1: 渦状銀河 NGC5806 付近で観測された超新星 iPTF13bvn (Image Credit: Jean Marie Llapasset) 図 2:写真右は渦状銀河 NGC5806。写真左上は、その超新星  iPTF13bvn 爆発時、左下は、 iPTF13bvn 爆発前。(Image Credit: Iair Arcavi, Weizmann  Institute of Science, , PTF, NASA, W. M. Keck  Observatory)図 2:写真右は渦状銀河 NGC5806。写真左上は、その超新星 iPTF13bvn 爆発時、左下は、 iPTF13bvn 爆発前。(Image Credit: Iair Arcavi, Weizmann Institute of Science, , PTF, NASA, W. M. Keck Observatory) 図 3:  超新星の経過日数と明るさ(エルグ毎秒の対数)を示した図。実線はバーステンらの理 論モデル(赤実線:太陽の 4  倍の質量のヘリウム星の爆発、青実線:太陽の 8 倍の質量のヘリ ウム星の爆発)、黄緑色の丸印は超新星 iPTF13bvn  の観測値。赤色で示された小質量星の爆発  のモデルは観測値をよく再現する。図 3: 超新星の経過日数と明るさ(エルグ毎秒の対数)を示した図。実線はバーステンらの理 論モデル(赤実線:太陽の 4 倍の質量のヘリウム星の爆発、青実線:太陽の 8 倍の質量のヘリ ウム星の爆発)、黄緑色の丸印は超新星 iPTF13bvn の観測値。赤色で示された小質量星の爆発 のモデルは観測値をよく再現する。

図 4:  理論計算による連星系をなしている場合の星のスペクトルと、ハッブル宇宙望遠鏡の観 測結果(カオら,  2013)との比較を示した図。理論計算のスペクトルは、超新星爆発の元とな る星のスペクトルと、理論計算した伴星のスペクトル(クルツ,  1993)を足したもので、観測 結果とよく一致する。図 4: 理論計算による連星系をなしている場合の星のスペクトルと、ハッブル宇宙望遠鏡の観 測結果(カオら, 2013)との比較を示した図。理論計算のスペクトルは、超新星爆発の元とな る星のスペクトルと、理論計算した伴星のスペクトル(クルツ, 1993)を足したもので、観測 結果とよく一致する。

発表雑誌:

雑誌名:The Astronomical Journal, 148:68 (6pp), 2014 October

論文タイトル:iPTF13bvn: THE FIRST EVIDENCE OF A BINARY PROGENITOR FOR A TYPE Ib SUPERNOVA

著者:Melina C. Bersten1, Omar G. Benvenuto2,3, Gastón Folatelli1, Ken'ichi Nomoto1,7, Hanindyo Kuncarayakti4,5, Shubham Srivastav6, G. C. Anupama6 Robert Quimby1, and Devendra K. Sahu6

所属:

1 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan

2 Facultad de Ciencias Astronómicas y Geofísicas, Universidad Nacional de La Plata, Paseo del Bosque S/N, B1900FWA La Plata, Argentina

3 Instituto de Astrofísica de La Plata (IALP), CCT-CONICET-UNLP, Paseo del Bosque S/N, B1900FWA La Plata, Argentina

4 Millennium Institute of Astrophysics, Casilla 36-D, Santiago, Chile

5 Universidad de Chile, Departamento de Astronomía, Casilla 36-D, Santiago, Chile

6 Indian Institute of Astrophysics, Koramangala, Bangalore 560034, India

7Hamamatsu Professor

doi:10.1088/0004-6256/148/4/68

アブストラクトURL:http://iopscience.iop.org/1538-3881/148/4/68/

問い合わせ先: 

報道対応:

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当  小森 / 坪井

E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977 / 5981 Fax: 04-7136-4941

研究内容について:

野本憲一(のもと・けんいち)

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員

E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp

Melina C. Bersten(メリーナ・バーステン) [英語での対応]*

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員

E-mail: melina.bersten_at_ipmu.jp

*2014年11月1日より、National Scientific and Technical Research Council – ArgentinaにてScientific Researcherおよび, 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構にて客員研究員。