X線の激しい閃光で発見された新種の謎の天体爆発

2017年3月31日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

アメリカ航空宇宙局 (NASA) のX線観測衛星チャンドラ (Chandra)  がX線の激しい閃光を生じる謎の天体爆発を発見しました。この現象は、研究者達がこれまで見たこともないような新しい天体現象の可能性があります。本研究の国際共同研究チームには、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一特任教授・主任研究員と Alexey Tolstov (アレクセイ・トルストフ) 特任研究員も理論モデル構築の面から参加しています。

このX線源は、Chandra Deep Field-South (CDF-S) と呼ばれる領域内に位置し、注目すべき特徴を持っています。2014年の10月より前には観測されておらず、10月1日にX線の放射が観測された後、ほんの数時間で少なくとも1000倍も明るくなりました。そして約1日でチャンドラの感度以下に暗くなりました。
 

野本特任教授は「チャンドラ衛星は宇宙の非常に高温な領域からやってくるX線を検出するため設計されています。そして、星の爆発や銀河団、ブラックホール周辺の物質から発せられるX線であることを特定してきました。しかし、今回新しく発見されたX線の放出が何によって引き起こされたのか、我々はまだ明らかに出来ていません」と述べています。
 

その後、ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー望遠鏡の数千時間に及ぶ既存の観測データから、この現象が107億光年離れた淡く小さい銀河で起きていたことが分かりました。つまり、X線源は、数分ほどでこの銀河にある全ての星の数千倍ものエネルギーを放出したことになります。
 

この現象を説明する一つの説として、GRB と呼ばれるガンマ線バースト (Gamma-Ray Burst) 現象が考えられています。GRB は、大質量星の重力崩壊、中性子星同士や中性子星とブラックホールとの合体により引き起こされるジェット状の爆発です。このジェットが地球に向いていた場合、GRB として観測されます。ジェットは広がるにつれ、エネルギーを失い弱くなり、X線や他の波長の光が方向によらず等方的に放射されるようになります。今回の場合は、地球を向いていない GRB、あるいは小さな銀河の向こう側で生じた GRB の可能性が検討されています。別の説としては、中間的な質量のブラックホールが、接近してきた白色矮星を潮汐力によって破壊した際に生じたという説があります。しかし、これらの説のどれもが観測データと完璧には合っておらず、チャンドラが CDF-S 以外の他の領域で行なった観測でも似た現象はまだ発見できていません。
 

例えば、Jimmy Irwin 氏らにより NGC 5128と NGC 4636と呼ばれる楕円銀河で発見された原因不明の変光X線源がありますが (※関連リンクの2016年10月19日のチャンドラのプレスリリースを参照)、今回見つかったX線源は、これとは異なる特徴を持っています。今回見つかったX線源は、1回だけの数時間の爆発として観測され、Irwin 氏らの発見したX線源よりも10万倍以上も明るいのです。さらには、ホストとなる銀河もずっと小さく若いものです。こうした特徴から、今回のX線源は、中性子星あるいは白色矮星が完全に破壊された際に生じた現象の可能性があります。

スイスのチューリッヒ工科大学の Kevin Schawinski 氏は 「我々は全く新しいタイプの激しい変動事象を観測したのかもしれません。それが何であれ、どういった原因で生じたのかを解き明かすためにより多くの観測が必要です」と述べています。
 

今後、チャンドラや欧州宇宙機関 (ESA) のX線天文衛星 XMM-Newton、 NASA のガンマ線バースト観測衛星スウィフト (Swift) を用いた追加観測により同様の多くの事例を発見できるかもしれません。そしてもし、X線源が中性子星とブラックホールとの合体や、中性子星同士の合体により引き起こされた GRB で生じているとすれば、重力波も発生していたはずです。地球近くでそういった事象が起きれば、レーザー干渉計重力波天文台 (LIGO) で検出できるかもしれないのです。
 

Kavli IPMU の Alexey Tolstov 特任研究員は「近い将来、LIGO でより多くの重力波事象が検出できると期待しています。それに伴ったX線放射が検出できれば、中性子星などコンパクト星合体の物理をかなりはっきりさせることができるでしょう」と述べています。
 

詳しくは2017年3月30日付で掲載されたX線観測衛星チャンドラのプレスリリースをご覧ください。(英語)
http://chandra.si.edu/press/17_releases/press_033017.html

本研究成果論文は2017年6月に発行される英国王立天文学会 (RAS) の論文誌 Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (MNRAS) に掲載予定で、電子版は2017年2月20日に掲載されています。 
 

論文情報:
雑誌名:「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」(MNRAS,467,4)
論文タイトル:A New, Faint Population of X-ray Tansients
著者: F. E. Bauer, E. Treister, K. Schawinski, S. Schulze, B. Luo, D. M. Alexander, W. N. Brandt, A. Comastri, F. Forster, R. Gilli, D. A. Kann, K. Maeda, K. Nomoto, M. Paolillo, P. Ranalli, D. P. Schneider, O. Shemmer, M. Tanaka, A. Tolstov, N. Tominaga, P. Tozzi, C. Vignali, J. Wang, Y. Xue, G. Yang

DOI:10.1093/mnras/stx417(2017年2月20日電子版掲載)

論文のアブストラクト(MNRASのページ)
https://academic.oup.com/mnras/article/467/4/4841/3038248/A-new-faint-population-of-X-ray-transients
プレプリント (arXiv.orgのページ)
arXiv.org: https://arxiv.org/abs/1702.04422


関連リンク:
X線観測衛星チャンドラの2016年10月19日のプレスリリース
http://chandra.harvard.edu/photo/2016/ngc5128/
X線観測衛星チャンドラの2017年3月30日のプレスリリース
http://chandra.si.edu/press/17_releases/press_033017.html
 

問い合せ先:
研究内容について
野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp Tel: 04-7136-6567
*_at_を@に変更してください

Alexey Tolstov  (アレクセイ・トルストフ) [英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail:  alexey.tolstov _at_ ipmu.jp   Tel: 04-7136-6512
*_at_を@に変更してください

報道対応
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
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