Ia 型超新星の起源がマンガンの組成比から明らかに

2020年10月7日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一 (のもと・けんいち) 上級科学研究員を含む国際共同研究チームは、Ia型超新星の正体、親星となる白色矮星がどのような特徴を持つのか、爆発のメカニズムは何であるか、それによって合成される元素は何であり、銀河内にどう広がっていくかを明らかにしました。観測されている近傍の星々の元素組成とシミュレーション結果を比べたところ、とくにマンガンの組成比の進化から、75%以上のIa型超新星の親星はチャンドラセカール限界に近い質量をもつことがわかりました。本研究成果は、米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) のオンライン版に2020年6月4日付で掲載されました。

 

2. 発表内容
Ia型超新星は、超新星の一種ですが、よくいわれる大質量星の末路の大爆発ではありません。Ia型超新星も明るい大爆発ですが、低・中質量の星が隣り合って共に進化する連星系で起こります。Ia型超新星は、ほぼ一定の明るさで輝くことから、その見かけの明るさにより遠方の宇宙での距離を測るものさしとして用いられてきました。この性質を利用することで、宇宙の加速膨張が発見され暗黒エネルギーの存在を明らかとなり、2011年のノーベル物理学賞につながりました。しかしながらIa型超新星の起源、その超新星爆発前の親星が何であるかは、いまだに謎のままで半世紀も論争が続けられています。普通の超新星と同じくIa型超新星も重元素(ビックバンで形成される水素・ヘリウムよりも重い元素)を放出するので、銀河における化学組成の進化がIa型超新星の起源を解明する鍵となります。
 

Kavli IPMUの野本憲一上級科学研究員も参加し、Kavli IPMU 客員上級科学研究員を兼ねるハートフォードシャー大学の小林千晶准教授、Shing-Chi Leung  Kavli IPMU特任研究員 (現在はカリフォルニア工科大学研究員) からなる研究チームは、コンピューター・シミュレーションを駆使して、爆発から核反応による元素合成と、銀河における元素量の進化までを追いました。
 

Ia型超新星の親星は中質量星の進化の末路に形成される非常に密度の高い「白色矮星」と呼ばれる星です。その白色矮星は、炭素と酸素でできており、高密度で縮退(degenerate)した電子の圧力が星の質量を支えています(図1a)。その質量の上限「チャンドラセカール限界」は電子の縮退圧という物理量で決まっており、太陽質量の1.4倍程度とされる上限に近づくと核融合が始まって爆発します。
 

Ia型超新星の親星が爆発に至る過程にはこれまで2つのシナリオが唱えられてきました。第一のシナリオは single degenerate scenario と呼ばれるもので、連星系のもう一方の星からガスが白色矮星に降り積もると爆発する、というものです(図1a)。したがって、爆発時の白色矮星は、チャンドラセカール限界質量の上限を超えずともかなり近い値となります。第二のシナリオは double degenerate scenario と呼ばれ、連星系で二つの白色矮星が誕生し、合体することで爆発に至るというものです(図1b)。その場合、爆発時の質量はチャンドラセカール限界より小さいと考えられます。そこで研究グループは「チャンドラセカール限界」と「サブ・チャンドラセカール限界」の両方の場合について二次元の流体シミュレーションと元素合成計算を行い、さらに化学進化を計算しました。これは世界初の試みです。
背景白の図1はこちら

 

この二つの場合で、決定的に違うのはマンガンの生成量です。前者の「チャンドラセカール限界」のシミュレーションではマンガン形成に不可欠な、高温高密状態がつくられたのに対し、後者の「サブ・チャンドラセカール限界」のシミュレーションではそのような条件はあまり満たされず、従ってマンガンもあまり生成されませんでした。これらの生成量を銀河進化モデルに組み込むと、銀河系における元素組成の時間進化が予測できます。その予測を近傍の星々の光分光観測で調べられた元素の組成比と比較したところ、親星がチャンドラセカール限界の質量に近い場合は少なくとも75%であることがわかりました(図2)。元素合成計算には最新の核反応率を用いており、ニッケルの量も大幅に変わって、観測と一致するようになりました(以前の計算ではニッケルができすぎるという、90年代からあった問題が解決されたのです)。また、超新星の明るさの鍵を握る鉄の量は、どちらの場合も生成される量に大差はなく、太陽質量の6割程度でした。通常の大質量星の末路の超新星では鉄の量は7%程度であることから、Ia型超新星は通常の超新星より約10倍明るいことになります。
 

この研究から、さらに面白いことに、銀河系周辺にある矮小銀河においては、研究チームのモデルはIa型超新星の親星がチャンドラセカール限界より小さい方が観測と合うという示唆も得られています。銀河系近傍の元素組成分布は「銀河系考古学」という新しい学術領域において、APOGEE (Apache Point Observatory Galactic Evolution Experiment)、HERMES-GALAH (GALactic Archeology with HERMES)、WEAVE (WHT Enhanced Area Velocity Explorer)、4MOST (4-metre Multi-Object Spectroscopic Telescope)、MSE (The Maunakea Spectroscopic Explorer)など複数の国際的なプロジェクトにより百万以上の星々の観測が進められています。今後の観測と本研究で得られた成果との比較が期待されます。

 

3. 発表雑誌
雑誌名: The Astrophysical Journal
論文タイトル: New Type Ia Supernova Yields and the Manganese and Nickel Problems in the Milky Way and Dwarf Spheroidal Galaxies
著者: Chiaki Kobayashi (1,2), Shing-Chi Leung (2,3),  Ken'ichi Nomoto (2)
著者所属:
1. School of Physics, Astronomy and Mathematics, Centre for Astrophysics Research, University of Hertfordshire, College Lane, Hatfield AL10 9AB, UK
2. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
3. TAPIR, Walter Burke Institute for Theoretical Physics, Mailcode 350-17, Caltech, Pasadena, CA 91125, USA

DOI:  https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab8e44  (2020年6月4日掲載)

論文のアブストラクト (Astrophysical Journal のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)
 

4. 問い合わせ先
(研究内容について)
野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp
TEL: 04-7136-5940
*_at_を@に変更してください

小林 千晶 (こばやし・ちあき)
ハートフォードシャー大学 (University of Hertfordshire) 准教授/
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 客員科学研究員
E-mail: c.kobayashi_at_herts.ac.uk
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 真里奈 
E-mail:press_at_ipmu.jp 
TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください
 

関連リンク
Gold in the cosmos is an astronomical mystery (ハートフォードシャー大学のプレスリリース, 英語)
※小林千晶 Kavli IPMU 客員上級科学研究員による関連研究で2020年9月16日にAstrophysical Journalに掲載された成果に関する内容