宇宙物理学者と社会科学者が宇宙の最も深遠な謎に挑む -ビッグデータ天文学初の学際的フェローシッププログラムが始動-

2021年8月20日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) も参加し、約30の研究機関で構成される LSST コーポレーションは、米国のジョン・テンプルトン財団 (注1) から約700万ドルの寄附を受け、ビッグデータ天文学初の学際的フェローシッププログラムである LSSTC Catalyst Fellowship を始動させることを発表しました。

このプログラムは、LSST コーポレーションがビッグデータ天文学のソフトウェアインフラ構築のため行っている活動 LSST Interdisciplinary Network for Collaboration and Computing  (LINCC) の一環として行われるものです。南米チリのヴェラ C. ルービン天文台の大型望遠鏡で取得予定の観測データを用いて研究を行う宇宙物理学の若手研究者や若手の社会科学者を支援し、科学に対して統合的・学際的なアプローチを追求することを目的としています。
 

世界中の研究機関から10名の宇宙物理学の研究者と数名の社会科学の研究者が選ばれ、フェローとして採用されます。更に、各分野の研究者のうち1名ずつが、ビッグデータを取り扱う上で十分な環境にない教育機関へ派遣され、そうした機関へのサポートも行います。そのほかにも、宇宙物理学者と社会科学者の経験豊かな研究者チームによるフェローに対するメンタリング指導や、リーダーシップ養成のトレーニングも行われる予定です。

ルービン天文台は2024年本格稼働が予定されており、全天の約半分の領域を、およそ10年にわたって、近紫外から可視光、近赤外までの幅広い波長領域で繰り返し観測し、時間変化する天体と同時に暗い遠方の天体も捉えます。この観測は  Legacy Survey of Space and Time (LSST) と名付けられています。データ量は、一晩で数十テラバイトにもなることから、ダークマターやダークエネルギーの性質、元素周期表の起源、地球外生命の存在についてなど、宇宙で最もとらえどころのない謎に対する答えが明らかになっていく可能性があります。

しかしながら、前例のない大量の天文データを処理することは、研究者達にとっても並大抵のことではありません。解析においては、データ管理、コンピューティング、数学などの分野に関係する新たな困難が出てくる可能性があります。

LSST Corporation エグゼクティブ・ディレクターの Pat Eliason 氏は、「LSST のデータは非常に膨大なものになるため、意欲的な若手ポスドクが指導研究者と協力して研究テーマを超えた共同作業を行っていく必要があります。この新しいフェローシッププログラムの始動は、こうした局面に対して非常にタイムリーであるというだけでなく、LSST の科学研究に大きな影響を与えるでしょう」と述べています。

Kavli IPMU は、すばる望遠鏡の 超広視野主焦点カメラ HSC (Hyper Suprime-Cam) で取得された大量のデータを扱い研究を行なってきた実績等もあることから、ビッグデータを取り扱ってきた機関として、フェローの指導にあたる機関の一つとなる予定です。

一方、このフェローシッププログラムでは、宇宙物理学者と一緒に社会科学分野の研究者を支援することで、多国籍の大規模研究者グループが協力して大量且つ新しい形のデータを収集・分析する際に生じであろう、多くの社会的問題についての研究を促進していくことを目的としています。

ジョン・テンプルトン財団の数学・物理分野のプログラムオフィサーであり、宇宙物理学者でもある Aamir Ali 氏は、「この分野横断的なフェローシップを支援することで、重要な研究の進展を可能にするだけでなく、宇宙物理学者と社会科学者の交流を促進し、宇宙物理業界におけるこの変革期を理解し、活用していきたいと考えています」と述べています。

社会科学分野のフェローは、宇宙物理学分野のフェローと同様に、厳しい公募プロセスを経て選ばれます。そして、天文観測における社会的ダイナミクスを研究することに重点を置き、ルービン天文台で行われる科学研究について独自の研究を行うことを求められます。フェローシッププログラムの運営メンバーは、社会科学者の洞察が、観測期間中の具体的な提案に繋がっていくことを期待しています。
 

LSST コーポレーション の ボードメンバーにもなっている Kavli IPMU の高田昌広 主任研究者/教授は、今回のフェローシッププログラムの始動について下記のように述べています。

「LSST は、世界中の研究者が参加する、ダークマター、ダークエネルギーの正体に迫る研究だけでなく、重力波対応天体など時間変動する天体現象を調べる研究の躍進も期待できる、エキサイティングな国際共同研究プロジェクトです。さらに、HSC の大規模サーベイ観測の後継プロジェクトとして Kavli IPMU が進める超広視野多天体分光器 PFS (Prime Focus Spectrograph, 関連リンク参照) による、 LSST のフォローアップ観測にも大きな期待が寄せられています。今回立ち上げられたフェローシッププログラムを通して、多様な若手研究者が Kavli IPMU に来てくれること、そして一緒に研究できることを楽しみにしています。また、Kavli IPMU には横山広美教授を中心とした科学技術社会論の研究者も所属していることから、横山教授らとも協力して、社会科学や科学コミュニケーション分野の研究の発展の機会としても、この LSST への取組みを活用したいです。」
 

詳細については、併せて LSST コーポレーションの記事をご覧ください。


注1) ジョン・テンプルトン財団
篤志家の John Templeton 卿により1987年に設立された財団。米国ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外に本部を置き、米国にある25の大規模助成財団のひとつに数えられている。
https://www.templeton.org

関連リンク
Announcing: The LSSTC Catalyst Fellowship Funded by the John Templeton Foundation (LSST コーポレーションの記事)

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