COVID-19が天文学研究に与えた影響 -プラスの影響を与えたが、新人研究者や女性研究者にはマイナスの影響を与えた-

2022年11月29日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
カリフォルニア大学バークレー校宇宙物理学センター

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)のJia Liu(ジア・リウ)特任准教授を中心とする国際研究チームは、COVID-19の流行は、天文学の研究にプラスとマイナスの両方の影響を与えており、全体として研究論文の数は増えているが、新しくこの分野に入る研究者や若手研究者の数は減少しており、この研究を行った研究者たちは、どの国の女性天文学者も、平均して男性の研究者よりも生産性を高めることができなかったことを明らかにしました。
本研究成果は、( Nature Astronomy )に11月28日付けで掲載されました。

2. 発表内容
【背景】
2021年、世界的なパンデミックの中でリウ特任准教授は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)に参加しました。「新米科学者である私の生活は、育児休業、生産性の低下、同僚との断絶、厳しい就職状況など、パンデミックの影響を大きく受けています。研究生活や日常生活を立て直す一方で、同じ分野の人たちは、パンデミックの影響をどのように受けているのだろう?という疑問は尽きませんでした」とリウ特任准教授は述べています。カリフォルニア大学バークレー校のVanessa Böhm(ヴァネッサ・ベーム)博士研究員と協力し、当時の限られた研究では答えが見つからなかったため、自分たちで調べることにしたのです。

【研究手法・成果】
研究者は、データマイニングの技術を駆使して、1950年以降の天文学の出版物の記録を120万件以上ダウンロードしました。性別や国別の出版パターンを分析したかったのですが、そのような情報は機密であるため、研究者たちは、各著者の名前から性別の確率を割り出し、論文著者の所属や論文に記載されている所属先から国を割り出しました。その結果は意外なものだったと、リウ特任准教授は述べています。まず、年間の論文数から見ると天文学分野の成果は増えていたのです。「COVIDは世界にほとんどネガティブな影響を与えると思われがちですが、このポジティブな現象は理解するのが難しくないかもしれません。COVIDによってもたらされた変化、たとえば、勤務形態の柔軟性の向上、通勤・出張時間の短縮、バーチャル技術の向上などは、科学研究を行う上で有利に働く可能性があります」とリウ特任准教授は述べています。しかし、このポジティブな結果が、より多くの研究者がこの分野に参入した結果なのか、それとも個人の生産性が向上した結果なのかを調べたところ、後者が主にこの傾向に関係していることがわかりました。「各研究者が発表した論文の平均件数を集計したところ、ほとんどの国で個人の生産性が向上していることがわかりました。一方、新規の研究者の数は、ほとんどの国で減少している。この結果は、新しい研究者がこの分野に参入することや、若手研究者がCOVID期間中に最初の成果を挙げることに大きな障壁があることを示しています」とリウ特任准教授は述べています。

【波及効果、今後の予定】
研究者たちは、女性天文学者の生産性が最も影響を受けていることを発見しました。研究対象25カ国中14カ国で、女性によって書かれた論文の割合が減少し、天文学の分野に入る女性研究者の数も減少しました。研究者あたりの生産性について見ると、COVID-19の間はどの国でも女性研究者は男性研究者よりも生産性を高めることはできませんでした。これは、オランダ、オーストラリア、スイスなどパンデミック前には両者が同等の生産性を示していた国々でも同様でした。研究者によると、今回のデータは、パンデミックがまだ続いているため、限られた期間の傾向を調査したに過ぎなく、パンデミック中の研究論文についてのいくつかの統計量を数値的に調査することはできましたが、これらの論文の質的な側面についてまだ調査されていません。

3.発表雑誌
雑誌名: ネイチャー・アストロノミー(Nature Astronomy)
論文タイトル:Impact of the COVID-19 pandemic on publishing in astronomy in the initial two years
著者と所属 
Jia Liu: 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
Vanessa Böhm:カリフォルニア大学バークレー校宇宙物理学センター

DOI: 10.1038/s41550-022-01830-9
論文のアブストラクト(Nature Astonomyのページ) 
プレプリント(arXiv)

4. 問い合わせ先
(研究内容について)
Jia Liu(ジア ・リウ)特任准教授
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
電子メール:jia.liu_at_ipmu.jp
* at_を@に変えてください。

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 千葉 光史
E-mail:press_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください
TEL: 04-7136-5977 / 080-4056-2930