初期宇宙を解き明かす、重力波を用いた新手法をシミュレーションで発見

2023年5月11日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

fig
図1. インフラトン場がオシロンへと分裂していき、重力波が生じている様子の模式図。


1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の Kaloian D. Lozanov (カロイアン ロザノフ) 特任研究員と Kavli IPMU 客員准科学研究員を兼ねる Volodymyr Takhistov (ウラジーミル タキストフ) 高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 量子場計測システム国際拠点 (QUP) シニア研究員/ KEK 理論センター助教の研究チームは、宇宙初期にインフレーションを引き起こすエネルギー源となったとされるインフラトン場の進化をシミュレーションを用いて研究し、多くのインフレーション理論には確かにオシロン (Oscillon) が存在することを明らかにしました。更に、オシロンが崩壊していく過程で生じる重力波が、Einstein Telescope (注1)や Cosmic Explorer (注2)、DECIGO (注3) といった第三世代計画とされる重力波望遠鏡で観測可能であることも明らかにしました。もしこの過程で発生した重力波を実際に捉えられれば、宇宙マイクロ波背景放射の観測とは独立な形で最適なインフレーションモデルがどれなのかを検証し、インフレーションがどのようにして引き起こされたかという宇宙初期の謎の解明に貢献できると期待されます。

本研究成果は米国物理学会の発行するフィジカル・レビュー・レター誌 (Physical Review Letters) に2023年5月2日 (米国東部時間) 付で掲載されました。
 

2. 発表内容
宇宙初期には、インフレーションと呼ばれる宇宙の非常に急激な加速膨張が起きたと考えられています。そして、このインフレーションが起きた後にはオシロンと呼ばれる孤立した巨視的構造の一種が形成されると考えられています。オシロンは、インフレーションを引き起こすインフラトン場のようなスカラー場から生み出され、高周波で振動しながら長時間その構造を維持するとされています。

今回、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の Kaloian D. Lozanov (カロイアン ロザノフ) 特任研究員と Kavli IPMU 客員准科学研究員を兼ねる Volodymyr Takhistov (ウラジーミル タキストフ) 高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 量子場計測システム国際拠点 (QUP) シニア研究員/ KEK 理論センター助教の研究チームは、宇宙初期のインフラトン場の進化をシミュレーションを用いて研究し、実際にオシロンが形成されることを明らかにしました。そして、研究チームはオシロンが崩壊する過程で非常に多量の重力波が発生することを発見しました。この崩壊過程で発生する重力波は第三世代計画の重力波望遠鏡である Einstein Telescope や Cosmic Explorer、DECIGO で観測可能であることも明らかにしました。

今回研究チームが明らかにしたように、オシロンの崩壊過程での重力波を実際に捉えられれば、宇宙マイクロ波背景放射の全天観測のデータからインフレーションの理論モデルを検証するこれまで行われてきた研究とは独立に且つ補完しあう形で、インフレーションモデルを検証できると期待されます。今後数年間で重力波望遠鏡とスーパーコンピューターの更なる進歩も見込まれることから、理論モデルと研究チームの研究によってインフレーションがどのようにして引き起こされたかという宇宙初期の謎の解明に貢献するかもしれません。
 

3. 用語解説
(注1) Einstein Telescope
欧州各国の約40の研究機関と大学が中心となり計画している地上型の重力波望遠鏡。ベルギーとドイツ、オランダの国境付近もしくはイタリアのサルデーニャ島が建設場所の候補として検討されている。

(注2) Cosmic Explorer
米国で計画されている地上型の重力波望遠鏡。1辺40 km の超高真空のビームパイプを持つL字型の検出器と1辺20 km の超高真空のビームパイプを持つ L 字型の検出器の2基での運用が予定されている。

(注3) DECIGO
正式名称を Deci-hertz Interferometer Gravitational wave Observatory と言い、日本が計画する宇宙での運用を目指した重力波望遠鏡。1000 km ずつ離れた3台の衛星から構成され、重力波によって生じる衛星間の微小な距離変化を捉えて観測を行う。


4. 発表雑誌
雑誌名:Physical Review Letters
論文タイトル:Enhanced Gravitational Waves from Inflaton Oscillons
著者:Kaloian D. Lozanov (1,2), Volodymyr Takhistov (3,4,2)
著者所属:
1 Illinois Center for Advanced Studies of the Universe and Department of Physics, University of Illinois at Urbana-Champaign, Urbana, Illinois 61801, USA
2 Kavli IPMU (WPI), UTIAS, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
3 International Center for Quantum-field Measurement Systems for Studies of the Universe and Particles (QUP, WPI), High Energy Accelerator Research Organization (KEK), Oho 1-1, Tsukuba, Ibaraki 305-0801, Japan
4 Theory Center, Institute of Particle and Nuclear Studies (IPNS), 9 High Energy Accelerator Research Organization (KEK), Tsukuba 305-0801, Japan

DOI:10.1103/PhysRevLett.130.181002  (2023年5月2日掲載)
論文のアブストラクト(Physical Review Letters のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)
 


5. 問い合せ先
(研究内容について)
Kaloian D. Lozanov (カロイアン ロザノフ) [英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: kaloian.lozanov_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail:press_at_ipmu.jp  TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください


関連リンク
Einstein Telescope のウェブサイト

Cosmic Explorer のウェブサイト

DECIGO のウェブサイト