2025年1月20日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI)

2025年1月16日、米国天文学会245回総会において東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI) の Minh Nguyen (ミン グエン) 特任研究員が2024年の Buchalter Cosmology Prize の第3位の賞を受賞したことが発表されました。
Buchalter Cosmology Prize は、天体物理学者から実業家へ転身した Ari Buchalter (アリ バカルター) 氏によって2014年に創設された賞で、第1位から第3位までの賞があります。現在の標準宇宙論モデルを超えて、宇宙の起源や構造、進化に対する理解に画期的な進歩をもたらす可能性のある新しいアイディアや発見が対象となります。
今回の Nguyen 特任研究員の受賞は、2024年にKavli IPMUに所属する以前に米国ミシガン大学で同僚らとともに行った研究が評価されたものです。Nguyen 特任研究員は、米国のダークエネルギー分光装置プロジェクト (Dark Energy Spectroscopic Instrument:DESI) や、Kavli IPMUがリードするすばる超広視野多天体分光器(Prime Focus Spectrograph:PFS)などの大規模銀河サーベイプロジェクトから得られる3次元銀河地図を分析するためのアプローチ 「フィールドレベル推定法 (FLI) 」の開発を行いました。この手法は、宇宙の3次元地図データについて、従来の方法とは異なり、3次元地図を何百万もの格子(=フィールド)に分割し、それぞれをデータとして処理することで、観測した3次元地図を最もよく再現する、理論から計算した地図を探すという方法です。つまり、数百万もの大量のデータを同時に解析し、背後にある宇宙模型の物理量を抽出するという、宇宙の情報を最大限抽出することを可能にする画期的な方法です。Nguyen 特任研究員は、今後数年間は FLIを実際のサーベイデータに適用することに重点的に取り組み、来月2月から本格始動する PFS のデータを用いた解析にまずは着手する予定です。
Nguyen 特任研究員は今回の受賞について以下のように述べています。
「このプロジェクトのリーダーを私に任せてくれた共同研究者達と共に今回の受賞の喜びを共有できることを嬉しく思います。FLI のコンセプトを実現し、その可能性の実証のために過去6-7年にわたりメンバー全員がたゆまぬ努力をしてきたことが認められたと考えています。天文学者の Elisabeth Krause 氏率いる "Beyond-Two-Point Data Challenge" と "Beyond-Two-Point Collaboration" が推進する天文コミュニティ全体の幅広い取り組みがなければ、我々の成果は得られなかったと思います。
私は博士課程が始まる2016年から FLI の研究に携わってきましたが、 FLI をシミュレーションによる現実に近いデータに適用してFLI の能力を示すというマイルストーンに到達できたことは、私にとって大変大きな喜びです。しかし、これで全てが完了したわけではあく、この画期的な成果と今回の Buchalter Cosmology Prize の受賞は、FLI にとって転換点であると捉えています。宇宙論コミュニティが FLI の潜在能力をますます認識するにつれ、このパラダイムシフトを完璧に実現できるような更なる並行処理技術や新たなコラボレーションが生まれることを期待しています。
特に、Kavli IPMU の横山順一機構長と高田昌広副機構長には、FLI のビジョンと PFSで取得したデータに FLI を応用してみたいという私の目標を共有いただいていることに感謝しています。また、私事にはなりますが、私の博士号取得とポスドク時代の指導をして下さった Fabian Schmidt 氏と Dragan Huterer 氏の両名には、研究者としての私の成長を支えていただき深く感謝しております。最後に、私は中高時代の物理の先生のおかげで私は物理学や宇宙に興味を持つようになりました。先生がいらっしゃらなければ、私の今回の受賞はそもそもあり得なかったと思います。」
関連リンク
AAS Names Recipients of 2025 Awards & Prizes (米国天文学会の記事)
The Buchalter Cosmology Prize is pleased to announce the 2024 winners (Buchalter Cosmology Prizeホームページ)