2025年4月1日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI) の春山富義 (はるやま とみよし) 特任教授と横山広美 (よこやま ひろみ) 教授が Kavli IPMU 副機構長を退任し、2025年4月1日付で伊藤由佳理 (いとう ゆかり) 教授と Mark Vagins (マーク ヴェイギンズ) 教授が副機構長に就任しました。

伊藤副機構長は代数幾何学を専門とし、複素三次元以上の特異点やその特異点解消について研究を行ってきました。さらに、有限群による二次元商特異点では、群と特異点解消の間にマッカイ対応と呼ばれる特異点の代数と幾何の対応が知られています。伊藤教授は、この高次元化において代数幾何学のみならず有限群の表現論と関連付けた研究に取り組んでおり、これまでに3次元の特異点解消の存在を示し、高次元マッカイ対応の様々な構成に挑戦しています。特異点はブラックホールやビッグバンとして物理学者には有名ですが、特に3次元カラビ・ヤウ多様体が登場するような超弦理論の研究とも関連があり、物理学者との交流も盛んに行ってきました。また、日本学術会議会員として研究者の研究支援活動にも関わっており、アジア科学アカデミーでの理工系女性委員会のメンバーでもあります。昨年12月にはアジア・オセアニア地域の女性数学者団体 Asian Oceanian Women in Mathematics (AOWM) の次期総裁 (総裁就任は2025年8月) に選出されています。さらに、社会に対して数学や研究活動の面白さを伝えることにも積極的に取り組んでおり、一般向け書籍も多数執筆してきました。
Vagins 副機構長はニュートリノ実験物理学を専門とし、1994年からスーパーカミオカンデ実験や日本を拠点とする様々なニュートリノプロジェクト (K2K, T2K, ハイパーカミオカンデ) に携わってきました。スーパーカミオカンデにおける太陽ニュートリノ及び超新星ニュートリノ物理グループのリーダーの一人を務めていた2003年当時には、感度を大幅に高めるために、スーパーカミオカンデ検出器の水タンクに大量のガドリニウムを添加するというプロジェクト GADZOOKS! を理論物理学者の John Beacom 氏らと共に考案しました。その後、ガドリニウムの実用可能性について実験と理論の両面から数年にわたり研究が行われ、2009年には Vagins 副機構長の指揮の下で Kavli IPMU と宇宙線研究所によって 200トンの試験用検出器 Evaluating Gadolinium’s Action on Detector Systems (EGADS) がスーパーカミオカンデの隣に建設されました。EGADS では、スーパーカミオカンデにガドリニウムを添加することが安全且つ効果的であることを決定的に立証するための検証が行われました。そして、EGADS での検証とシステム改良が実を結び、2020年からスーパーカミオカンデの5万トンの超純水へガドリニウム添加がなされました。現在では、超新星背景ニュートリノの世界初観測を研究者達が心待ちにしています。また、Vagins 副機構長は Kavli IPMU 設立の翌年である2008年に Kavli IPMU に初めて採用された常勤の外国人教授であり、当初より Kavli IPMU を支えてきました。
伊藤副機構長と Vagins 副機構長はこれまでの研究活動で培った経験等を生かし、Kavli IPMU の機構運営に携わります。
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