ティコ・ブラーエが16世紀に観ていた超新星の謎を、今すばるが解読--- IPMU 野本憲一主任研究員らの研究成果がNature誌に掲載 ---

2008年12月1日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe : 略称 IPMU)

数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe、以下IPMU)の野本憲一主任研究員と田中雅臣氏(日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院理学系研究科博士課程2年)、国立天文台ハワイ観測所の臼田知史准教授、服部尭研究員らのグループは、すばる望遠鏡を用いて、ティコの超新星残骸の周囲で発見された可視光の「こだま」を分光観測することにより、この光が1572年にデンマークの天文学者ティコ・ブラーエによって肉眼で観測された超新星の爆発当時の光そのものであり、この超新星爆発が標準的なIa型であったことを証明しました。
この研究論文は英国のNature誌に掲載が予定されています。

発表雑誌: 英国雑誌 Nature 2008年12月4日号、 456巻、617-619ページ
論文タイトル: Tycho Brahe’s 1572 supernova as a standard type Ia explosion revealed from its light echo
著者: O.Krause, M.Tanaka, T.Usuda, T.Hattori, M.Goto, S.M.Birkmann, and K.Nomoto


本件に関するお問い合わせ先

研究内容

野本憲一略歴

東京大学数物連携宇宙研究機構主任研究員、特任教授。1974年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了後、茨城大学理学部助手、東京大学教養学部助教授、東京大学大学院理学系研究科教授など経て、2008年より現職。
主な研究分野は星の進化と超新星爆発、宇宙の化学的進化。

  • IPMU特任教授 野本憲一 Ken'ichi Nomoto

E-mail. nomoto _at_ astron.s.u-tokyo.ac.jp

報道対応

  • IPMU広報担当 宮副英恵 Fusae Miyazoe

Tel. 04-7136-5977

E-mail. press _at_ ipmu.jp

 


研究内容説明

1572年にデンマークの天文学者ティコ・ブラーエはカシオペア座に出現した新しい星を詳細に観測しました。その観測は -宇宙は定常である- というそれまでの宇宙観を覆すものであり、その後の宇宙論の発展のきっかけになったといえます。現在ではこの天体は我々の銀河系で起こった星の爆発、すなわち超新星爆発であったと考えられており、「ティコの超新星残骸」と呼ばれる爆発の残骸が残っていることが知られています。しかし、この爆発がどのような爆発であったかは謎に包まれていました。

今回の研究ではすばる望遠鏡を用いて、ティコの超新星残骸から約3度離れた「ダストの雲」を観測しました。なぜそのような離れた雲を観測するのでしょうか?ティコの超新星が爆発したとき、その光は地球の方向だけではなく、あらゆる方向に向かって放たれました。まっすぐに地球に飛んできた光を今から436年前にティコが観測したのですが、光の速度は有限なため、別の方向に飛んだ光が雲によって反射されると、その反射された光が遅れて我々のもとに届くかもしれないのです。研究グループが観測した雲はまさにそのような光の「こだま」でした。

その光は非常に微弱なものでしたが、すばる望遠鏡の大口径を生かして、光をその波長ごとに分解することにも成功しました。その結果は驚くべきもので、波長ごとの光の強さ(スペクトル)は宇宙の膨張を調べるために用いられている「Ia型超新星」(注1)という宇宙でもっとも明るい超新星爆発のスペクトルとうりふたつだったのです。Ia型超新星からの光は100億光年先からでも我々に届く強烈なものです。ティコが観た光はそんなIa型超新星が我々の銀河の中で起こったときに放ったものであり、その光を我々が今再び捕らえることに成功したのです。

Ia型の超新星は、ダークエネルギーの存在を明らかにした観測的宇宙論における重要なツールであるとともに、我々の周りに存在する重元素の主要な製造源のひとつでもあります。しかし、銀河系外で発見されるIa型超新星だけでは爆発のメカニズムや性質を完全に解明することはできていませんでした。今回の発見をもとに、今後さらに超新星残骸ティコの周囲の光の「こだま」の分光観測が進めば、銀河系外の超新星では得ることのできなかった爆発の3次元構造を調べることができ、Ia型超新星爆発のメカニズムをより正確に明らかにできると期待されます。

注1:Ia型超新星爆発は、連星系を構成する白色矮星が相手の星から降り積もったガスの重みで圧縮され、暴走的核融合反応を起こすことで発生します。


図1 すばる望遠鏡とFOCASで撮影観測された、可視光Rバンドの画像(黒い方が明るいことを示す)。中心部分に見える淡い光が、ティコからの可視の光の「こだま」と推測され、すばる望遠鏡で分光観測が行われました。図1 すばる望遠鏡とFOCASで撮影観測された、可視光Rバンドの画像(黒い方が明るいことを示す)。中心部分に見える淡い光が、ティコからの可視の光の「こだま」と推測され、すばる望遠鏡で分光観測が行われました。 図2 超新星残骸ティコのカラー合成図。チャンドラX線天文台によるX線、スピッツァー宇宙望遠鏡による中間赤外線、Calar Alto望遠鏡で観測された近赤外線の画像。図2 超新星残骸ティコのカラー合成図。チャンドラX線天文台によるX線、スピッツァー宇宙望遠鏡による中間赤外線、Calar Alto望遠鏡で観測された近赤外線の画像。
図3 すばる望遠鏡とFOCASで分光観測された、可視光の「こだま」のスペクトル(横軸は波長、縦軸は光の強さ)。黒い実線が超新星ティコのスペクトル。比較のために他の3種類のⅠa型超新星のスペクトルを青・橙・赤色で載せてています。橙色と黒色の2つのスペクトルが最もよく一致していることから、ティコは標準的なⅠa型超新星であったことが判明しました。図3 すばる望遠鏡とFOCASで分光観測された、可視光の「こだま」のスペクトル(横軸は波長、縦軸は光の強さ)。黒い実線が超新星ティコのスペクトル。比較のために他の3種類のⅠa型超新星のスペクトルを青・橙・赤色で載せてています。橙色と黒色の2つのスペクトルが最もよく一致していることから、ティコは標準的なⅠa型超新星であったことが判明しました。  

 


研究グループの構成

O. Krause(マックスプランク天文学研究所)、田中雅臣(東京大学数物連携宇宙研究機構、日本学術振興会特別研究員)、臼田知史(国立天文台ハワイ観測所)、服部尭(国立天文台ハワイ観測所)、後藤美和(マックスプランク天文学研究所)、S. M. Birkmann(マックスプランク天文学研究所、欧州宇宙科学機関)、野本憲一(東京大学数物連携宇宙研究機構)

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