史上最も明るいIa型超新星爆発

これまでの「限界」を超えた超新星の発見

東京大学大学院理学系研究科の田中雅臣大学院生(博士課程3年、日本学術振興会特別 研究員、2009年10月よりIPMUに博士研究員として所属予定)、広島大学の山中雅之大学院生、川端弘治准教授、IPMUの野本憲一特任教授、前田啓 一特任助教はじめ、東京大学、広島大学、国立天文台、県立ぐんま天文台、鹿児島大学、東京工業大学、ドイツマックスプランク天体物理学研究所、イタリア国 立ピサ高等研究院などの研究者からなるグループ(注)は、すばる望遠鏡や国内の望遠鏡を駆使した観測により、史上最も明るいIa型超新星の正体を突き止め ました。

Ia型超新星は、白色矮星と呼ばれる非常に密度の大きな星が、太陽の約1.4倍の質量まで太ったときに起こす大爆発と考えられて います。この限界の質量は、1983年にノーベル物理学賞を受賞したスブラマニアン・チャンドラセカールにより導かれたことから、チャンドラセカールの限 界質量と呼ばれています。本研究グループは、2009年4月に発見された超新星「SN 2009dc」に対して、すばる望遠鏡や国内の望遠鏡を駆使して大規模な観測を行いました。その結果、研究グループはこの超新星が太陽の約80億倍の明る さを放つ、史上最も明るいIa型超新星であることを発見しました。さらに、その白色矮星が太陽の1.4倍の質量を超えていることを突き止めました。白色矮 星は高速で回転しているときに太陽の1.4倍の質量を超えられることが知られており、このような星が爆発を起こしたと考えられます。

これ まで、Ia型超新星は一定の質量をもち、ほぼ一定の明るさをもつことから、遠方宇宙までの距離を測定し、宇宙の膨張史を辿る研究に用いられてきました。今 回発見された「限界」を越えたIa型超新星の存在は、そのような研究の基礎に関わる問題であり、今後の宇宙膨張史研究に大きなインパクトを与えるもので す。

本研究成果は2009年9月14-16日に行われた、日本天文学会秋季年会(山口大学)において発表されました。


本件に関するお問い合わせ先

研究内容

  • IPMU特任教授 野本憲一 Ken’ichi Nomoto

TEL. 04-7136-5194

E-mail. nomoto _at_ astron.s.u-tokyo.ac.jp

報道対応

  • IPMU広報担当 宮副英恵 Fusae Miyazoe

TEL. 04-7136-5977 

E-mail. press _at_ ipmu.jp


図1

広島大学東広島天文台かなた望遠鏡により撮られた、史上最も明るいIa型超新星 SN 2009dcの可視光画像(山中雅之大学院生らによる観測)。二本の線で示されているのが超新星。画像の大きさは縦横3分角(満月の直径が約30分角)。

Ia型超新星 SN 2009dcの可視光画像Ia型超新星 SN 2009dcの可視光画像

図2

SN 2009dcには及ばないものの、非常に明るいIa型超新星はこれまで他に2例発見されていました(SN 2003fgとSN 2006gz)。しかし、それらの非常に明るいIa型超新星がチャンドラセカールの限界を超えているのではなく、爆発が非常に歪んだ形をしているために明 るく「見えている」だけである、という説も提唱されていました。残念ながら、超新星は数億光年の彼方で起こっているものなので、その形を見ることはできま せん。

そこで、田中雅臣大学院生らの研究グループは国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡FOCASを用いて超新星からの光の「偏り」を 測定しました。もし超新星が歪んでいると光の振動の向きによって強度が異なることが予想されます(図の右上の場合)。非常に明るいIa型超新星に対する光 の偏りの測定は今回が世界で初めてのことです。

光の「偏り」光の「偏り」

図3

すばる望遠鏡FOCASで観測したSN 2009dcのスペクトル(波長ごとの光の強度)と、 それぞれの波長における光の偏りの度合い。

元 素により吸収を受けている箇所は、その吸収によって光の偏り具合が影響されるので、赤で示された吸収のない波長域の偏りが超新星の「形」の指標となりま す。図より、光の偏りがわずか0.3%以下しかないことが分かります(赤い点線)。光の偏りの観測によって、極めて明るいIa超新星が極端に歪んでいるの ではなく、チャンドラセカールの限界質量を超えていることが確定的になりました。

SN 2009dcのスペクトル(波長ごとの光の強度)と、 それぞれの波長における光の偏りの度合いSN 2009dcのスペクトル(波長ごとの光の強度)と、 それぞれの波長における光の偏りの度合い

研究グループ(50音順)

青 木賢太郎、新井彰、家正則、池尻祐輝、伊藤亮介、今田明、植村誠、大杉節、面高俊宏、鎌田有紀子、河合誠之、川端弘治、衣笠健三、黒田大介、小松智之、坂 井伸行、佐々木敏由紀、笹田真人、鈴木麻里子、高橋英則、田口光、田中祐行、田中雅臣、千代延真吾、永江修、中屋秀彦、野本憲一、橋本修、服部尭、深沢泰 司、本田敏志、前田啓一、宮崎聡、宮本久嗣、柳澤顕史、山下卓也、山中雅之、吉田道利、Paolo A. Mazzali、Elena Pian