WPI黒木登志夫プログラムディレクターによる緊急メッセージ

わが国の科学の危機的状況を訴える

黒木登志夫 

新内閣が発足したとき、鳩山総理は、「教育力・研究力を強化し、科学技術の力で、世界をリードする」と述べました。私たちはこの言葉を大変心強く思ったものでした。鳩山内閣には、いわゆる理系の閣僚が4人もいることもあり、新政権の科学技術政策に大いに期待しておりました。 

ご承知のように、この2週間の行政刷新会議による事業仕分けは、それとは全く逆の方向に進んでおります。公開で行われた事業仕分けにおいて、科学に全くの素人の人たち、科学の本質を理解しない自称科学者たちによって、ほとんどすべての科学プロジェクトに対して、「廃止」、「見送り」、「予算3分の1削減」、などの乱暴な判断が次々に出されたのです。ネイチャー誌は、オンライン版で、日本の科学の危機を速報しました。 

対象は、すべての科学政策と分野に及んでいます。スーパーコンピュータは、もう日本では開発できないことになるでしょう。基盤的研究費である科研費も大幅に削減され、わが国の科学の基盤は崩壊しようとしています。若い研究者、女性研究者への支援は縮小し、産官学連携事業は廃止されます。このままでいくと、科学者は日本を見限って外国に出て行くことでしょう。若い科学者は日本では育たないことになります。日本の科学は世界からは大きく遅れ、死んでしまいます。科学技術関係の失業者が街にあふれ、社会不安の一つとなることでしょう。事実、私の関係している愛知県と岐阜県の産官学連携事業が廃止となれば、100人が職を失うことになります。 

私の担当している世界トップレベル研究拠点(WPI)も、仕分け人たちの標的にされました。発足以来僅か2年で、世界のトップレベルの研究成果を発表し、国際的にも広く認知され、世界の一流研究者がぜひここで研究したいというような拠点に育ったのに、突然予算の3割減が言い渡されました。このままでは、研究拠点として立ちゆかないことになります。そもそも、WPI、「外国人招聘事業」として仕分けの対象にされたことから間違いなのです。 

幸いなことに、文科省の政務三役は科学と教育を理解し、危機感を持っております。文科省のホームページをあけますと、パブリック・コメントを募集しておりますので、ぜひ、皆様方のご意見をお届けください。文科省によりますと、概算要求ですべてを覆すことは困難であるため、パブリック・コメントの数も考慮に入れて、財務省と交渉するということです。コメントは、研究関係は、中川副大臣・後藤政務官宛、教育関係は、鈴木副大臣・高井政務官宛に届きます。上記の世界トップレベル研究拠点事業は、14外国人研究者招聘に分類されております。パブリック・コメントは1215日まで受け付けております。 

予想もしなかったことに、わが国の科学は、民主党政権によりこれまでにないような危機に瀕しております。皆様のご理解とご支援をお願いいたします(最後は政治家の決まり文句になってしまいました)。 

平成211122 

黒木登志夫

日本学術振興会・学術システム研究センター・副所長

世界トップレベル研究拠点プログラム・ディレクター

東京大学名誉教授、岐阜大学名誉教授

連絡先;t96tree@yahoo.co.jp