SDSS-III、過去最大の3次元宇宙地図を公開

2012年8月13日

カブリ数物連携宇宙研究機構(略称 Kavli IPMU)

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の研究者を含むスローン・デジタル・スカイ・サーベイIII(SDSS-III)研究グループはこれまでで最大の3次元宇宙地図となる、データリリース9(DR9)を公開しました。世界中の宇宙物理学者が、この公開された3次元地図を用いて、宇宙の96%を占めていると考えられる暗黒物質や暗黒エネルギーの謎の解明に挑みます。

昨年はじめ、SDSS-IIIは過去最大の宇宙カラーイメージを公開しました(記事はこちら)。SDSS-IIIでは、今回このイメージを3次元の地図として拡張することを開始し、今回オンライン公開されたDR9では、6年計画で完成させる宇宙地図の最初の1/3が利用可能になりました。

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SDSS-III DR9の観測データを用いて作成したビデオ。画像をクリックすると再生されます。あるいは上部のリンクよりダウンロードしてください。

アニメーション内の銀河はSDSSによって測定された場所に実際の銀河の形に合致した銀河のテンプレート画像を配置したものです。

銀河はクラスターやフィラメントと呼ばれる場所に局在し、それらの間の空間はボイドと呼ばれます。SDSS-IIIではこのような構造を詳細に調べ、宇宙の暗黒エネルギーの性質や暗黒物質の分布を明らかにします。

Credit: Miguel A. Aragón (Johns Hopkins University), Mark SubbaRao (Adler Planetarium), Alex Szalay (Johns Hopkins University), Yushu Yao (Lawrence Berkeley National Laboratory, NERSC), and the SDSS-III Collaboration

「我々の貢献により未来への遺産を生み出せるのは実に誇らしいことです。」DR9を準備したチームを率いたニューヨーク大学のマイケル・ブラントン教授は語ります。「我々のゴールは完成後長い期間にわたって次の世代の天文学者や物理学者、一般の人々に利用される宇宙の地図を作製することです。」

SDSS-III DR9は2001年に始まった一連のデータ公開の最新のものです。今回の公開データには最終的に60億光年彼方までの150万個の巨大な銀河や120億光年彼方までの16万個のクエーサー(星や星間ガスを飲み込んで明るく輝く巨大なブラックホール)の宇宙空間での場所を測定するSDSS-III バリオン振動分光観測( Baryon Oscillation Spectroscopic Survey: BOSS ) の最新データも含まれます。

この宇宙地図を使い、科学者は過去60億年の宇宙の歴史をさかのぼることができます。この歴史を知ることで、宇宙のどれくらいの部分が暗黒物質(光を発したり吸収したりしないため直接観測できない物体)や、さらに謎の多い宇宙の膨張を加速させてしまう力である暗黒エネルギーで占められているのかをさらに正確に知ることができる様になります。

「暗黒物質と暗黒エネルギーは、現代宇宙論の2つの大きな謎です。」SDSS-IIIで銀河やクエーサーの地図の作成を率いたローレンス・バークレイ国立研究所のデイビッド・シュレーゲル主任研究員は語ります。「この新しい宇宙地図が我々、もしくは他の誰かが、謎を解く道すじをつけてくれると確信しています。」

宇宙の地図作りはDR9の中核をなします。宇宙が現在の半分の年齢だった頃の54万個の銀河の分光データを含みます。分光データとは、銀河からの光を様々な波長で測定したもので、これを用いて宇宙地図の3次元目の情報である銀河までの距離を測定し、これまで観測されたことのない詳細な宇宙の構造を知ることができるのです。

クエーサーの観測で宇宙の3次元地図がより詳細になり、宇宙の物質の分布を知る新たな手段として用いられます。クエーサーは遠方宇宙で最も明るい天体なので、分光観測により、銀河間のガスの複雑な分布の様子や、クエーサーと地球との間の暗黒物質の分布等を明らかにできるでしょう。

DR9の新たな観測データは、遠方の宇宙だけではなく、我々の住んでいる天の川銀河について理解するのにも役立ちます。DR9では我々の銀河の50万個以上の星について化学組成を見積もりました。「このすばらしいデータを用いると、我々の銀河の歴史を知ることができます。」SDSS-IIIの天の川銀河観測の責任者、カリフォルニア大サンタクルーズ校のコニー・ロコシー准教授は述べます。「今回得られた新しいデータは、我々が現在見上げている天の川銀河がどのように形作られ、今のような姿になったのかを知るための大きな助けになります。」

今回公開された新たな画像と分光データは宇宙に関する新たな発見を生み出すものと考えられますが、SDSS-IIIはまだ6年の観測計画の半ばにさしかかったところです。2014年の観測完了時には今回の3倍の観測データを公開することになります。

SDSS-IIIの共同研究者でもある、Kavli IPMUの村山斉機構長は次のようにコメントしています。「SDSS-III のバリオン振動分光観測は、Kavli IPMUでこれから観測が始まるすみれ計画で、暗黒エネルギーの進化を宇宙初期 (z~2、約100億年前) から現在まで調べるのに重要な基礎データとなります。すみれ計画の第一期の装置、Hyper Suprime Cam は今月ファーストライトを迎える予定です。SDSS-III の経験がこれから役に立っていくはずです。」

今回何テラバイトものSDSS-IIIのデータを天文学者や一般へ公開するのに裏方で活躍したデータ公開チームの主要メンバー、ジョーンズ・ホプキンズ大学のアニ・タカールは次のように語ります。「今回観測データをオンライン公開することの最も楽しみなのは、プロの天文学者がこの宇宙についての大発見をするのに使っている、まさに同じデータと探索ツールをインターネットでアクセスできる誰もが利用できる、ということです。」

SDSS-III DR9のすべての観測データはデータリリース9ウェブサイトで利用可能です。最新のデータが天文学者だけでなく、学生、教師等一般に広く公開されています。スカイサーバーウェブサイトでは、DR9のデータを使って天文学やその他の科学、工学、数学を教えるのに役立つ教師のための授業計画も公開されています。またインターネットで接続されたボランティアが最先端の天文研究に貢献できる市民科学プロジェクト、Galaxy Zooの最新版も提供されています。


SDSS-III データリリース9の投稿論文

タイトル:The Ninth Data Release of the Sloan Digital Sky Survey: First Spectroscopic Data from the SDSS-III Baryon Oscillation Spectroscopic Survey,

著者:  SDSS-III Collaboration: Ahn C. P. et al.

投稿雑誌: Astrophysical Journal Supplement Series

プレプリント: arXiv preprint server (1207.7137).


SDSS-IIIについて

SDSS-IIIの資金はアルフレッド・P・スローン財団、研究チームの各機関、米国科学財団、米国エネルギー省から提供されています。

Webサイトは http://www.sdss3.org/

SDSS-III は下記の研究機関により運営されています。
the Astrophysical Research Consortium for the Participating Institutions of the SDSS-III Collaboration including the University of Arizona, the Brazilian Participation Group, Brookhaven National Laboratory, University of Cambridge, Carnegie Mellon University, University of Florida, the French Participation Group, the German Participation Group, Harvard University, the Instituto de Astrofisica de Canarias, the Michigan State/Notre Dame/JINA Participation Group, Johns Hopkins University, Lawrence Berkeley National Laboratory, Max Planck Institute for Astrophysics, Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics, New Mexico State University, New York University, Ohio State University, Pennsylvania State University, University of Portsmouth, Princeton University, the Spanish Participation Group, University of Tokyo, University of Utah, Vanderbilt University, University of Virginia, University of Washington, and Yale University.