Ia型超新星における新発見:「標準光源」の標準的でない誕生を捉えた

2012年8月28日

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(略称:Kavli IPMU)

Ia型超新星と呼ばれる星の大爆発は、非常に明るいため宇宙の遠方で起こったものでも観測することができ、またどこで発生したものでもほとんど同じ明るさで輝くので、宇宙の「標準光源」として遠方の天体の地球からの距離を決める為に大変役立ちます。一方、天文学者の間では、Ia型超新星は、連星系の白色矮星の熱核融合による爆発であると考えられていましたが、白色矮星と連星をなす伴星の正体はこれまで明らかではありませんでした。

Kavli IPMUのRobert Quimby特任研究員を含むパロマー山天文台自動サーベイプロジェクト、Palomar Transient Factory(PTF)チームは8月24日に米国サイエンス誌で発表した論文で、白色矮星が「回帰新星」と呼ばれる小規模の爆発を何度か繰り返した後にIa型超新星爆発を起こしたと考えられる初めての観測結果を得たことを発表しました。これまでのIa型の超新星の観測例では、小規模爆発を繰り返すために欠かせないガスを白色矮星に供給する赤色巨星の伴星の証拠が見つかっていませんでしたが、今回の観測結果により、その証拠を得ることに初めて成功したのです。暗黒エネルギーの存在をみちびきだす鍵となった「標準光源」に見られるバラつきを理解する手がかりになるかもしれません。

Robert Quimbyは、「最近数十年の間、Ia型の超新星は宇宙の研究のための重要な道具として使われてきたのですが、これでようやく爆発がどのように引き起こされるかを理解するスタート地点に立つことができたので、今回のPTFチームの発見は非常に重要です」と述べています。

発表論文

タイトル:"PTF 11kx: A Type Ia Supernova with a Symbiotic Nova Progenitor"
著者:  B. Dilday et al.
掲載雑誌:Science 337, 942 (2012)
DOI: 10.1126/science.1219164


PTFチームは南カリフォルニア、パロマー山天文台の1.2m望遠鏡で同じ領域を繰り返し撮影したデジタル画像を計算機で処理し、その中に現れるわずかな変化を探し出しています。2011年1月16日、非常に遠方の銀河の中にこれまで見られなかった明るい天体が出現したのを発見し、PTF11kxと名付けました。PTFチームは数日後からこの天体の分光観測を開始し、この天体の種類、組成、地球からの距離を調査しました。

分光データからは、この天体はIa型の超新星だということが分かりました。しかし、奇妙な点がありました。異常に強く鋭い吸収線が見られたのです。観測チームは周囲に比較的速度の遅いガスがあり、超新星爆発からの光のうち、熱いガス中のイオンによりある波長の光だけが吸収されたのだと考えました。もしガスが超新星の十分近くにあるのであれば、超新星爆発から放出された物質がいずれガスに衝突すると予想されました。

PTFチームは何日にもわたり詳細な分光観測を続けました。およそ一ヶ月後、鋭い吸収線は輝線に変化しました。このことは超新星から放出された物質が近くに分布しているガスに突入したことを示します。しかし、別の吸収線がさらに遅い速度を示していて、こちらは消えることはありませんでした。このことから、少し遠い距離に別のガスの層があると考えられました。

超新星の周辺にいくつものガスの層があるのは何を表しているのでしょうか。論文の主著者であるDildayらのチームは、もし超新星の起源となる星が小規模の爆発を繰り返しているとすると、観測結果を良く説明できることを発見しました。小規模爆発を引き起こすガスは、白色矮星の伴星である赤色巨星から供給されます。伴星から放出され、白色矮星に降り積もったガスを燃料として定期的に小規模な爆発を引き起こします。この現象は「新星(nova)」と呼ばれます。爆発の規模は白色矮星や伴星を吹き飛ばすほどではなく、降り積もったガスを吹き飛ばしてまた同じ現象を繰り返します。吹き飛ばされる量より降り積もった量の方が多い場合、白色矮星の質量が増してゆきます。最終的に白色矮星の質量が限界に達するほど大きくなって、超新星(supernova)と呼ばれる大規模爆発を引き起こしたのです。

超新星爆発がこのような起源で引き起こされた場合、小規模爆発で飛び散った比較的遅い速度のガスの層が超新星の周囲に存在することは自然に説明できます。小規模爆発のガスの層が拡がってゆくと、伴星から吹き出している物質の圧力でガスの層が減速されます。従って外側の層に行くほど速度は遅くなります。

PTFチームは千個ものIa型超新星を観測してきましたが、これまではPTF11kxの様なデータは観測されていませんでした。これまでにも星間物質と衝突した形跡は見られていましたが、小規模爆発の繰り返しと関連づけられるものはなく、超新星の起源が何か、ということは明らかになっていませんでした。

昨年PTFチームが発見したIa型超新星2011feは、地球からの距離が近く、もし赤色巨星の伴星があれば、爆発前にハッブル宇宙望遠鏡で観測した画像を解析して見つけられるはずなのですが、観測データの中には見つかりませんでした。また最近の我々の銀河内での超新星残骸の観測では、白色矮星の爆発後に生き残っているはずの伴星を見つける試みが続けられていますが、詳しく調べても、そのような星はまだ見つかっていません。これらの観測結果から、Ia型超新星爆発を起こす伴星には、いくつかの種類があることが推察されます。

超新星爆発の理論的研究を行っているKavli IPMUの野本憲一特任教授は、「これは素晴らしい発見です。白色矮星と赤色巨星の連星が何度かの小規模爆発の後にIa型の超新星爆発を起こしたという初めての観測的証拠です。このような超新星の仕組みは蜂巣(東大)、加藤(慶応大)、野本のグループによる理論研究で予言されていました。同グループでは他のIa型超新星でなぜ伴星が見つからないのか、についての理論モデルも提唱しています。(I. Hachisu, M. Kato, & K. Nomoto,  September 1, 2012, issue of Astrophysical Journal Letter) Ia型の超新星は暗黒エネルギーの性質を解明する「標準光源」として利用されているので、その起源である連星系が、いくつかのバリエーションを持つということは、非常に重要な意味を持ちます。Ia型超新星をもっとたくさん観測して伴星の情報を集めてゆくことが必要です。PTFはこの点で非常に重要な役割を果たすでしょう。」と述べています。

超新星PTF11kxは、やまねこ座にある地球から約6億光年先の銀河に出現した。左図: 超新星出現前の銀河のスローン・デジタル・スカイ・サーベイによる画像。右図: 超新星の最も明るい時期の画像。LCOGT Faulkes 北望遠鏡による。
Credit: B.J. Fulton, LCOGT

 小規模爆発を繰り返した後に超新星 PTF 11kx になる連星系の想像図。手前の赤色巨星の外層がはぎ取られ、白色矮星の周囲の円盤を形成している。これらの物質が白色矮星に降り積もり、数十年毎に小規模爆発を引き起こす。白色矮星の質量が限界に達すると、Ia型超新星爆発を引き起こし、白色矮星は完全に飛び散る。
Credit: Romano Corradi and the Instituto de Astrofísica de Canarias

小規模爆発を繰り返した後に超新星 PTF 11kx になる連星系の想像図をアニメーション化したもの。
Credit: Romano Corradi and the Instituto de Astrofísica de Canarias

関連リンク

カリフォルニア大サンタバーバラ校によるプレスリリース

ローレンスバークレー国立研究所によるニュースリリース

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研究内容について:  

(英語対応)東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員 Robert Quimby
E-mail: robert.quimby _at_ ipmu.jp 電話:04-7136-6537

(日本語対応)米国ローレンスバークレー国立研究所 Nao Suzuki
E-mail: nsuzuki _at_ lbl.gov 電話:+1-510-486-5218

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