黄色超巨星の超新星爆発の初証拠

2012年9月28日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構のMelina Bersten特任研究員が率いる研究グループは、M51銀河に現れた超新星SN2011dhについて、爆発前の場所で観測されていた黄色超巨星が起源であることを爆発の理論的モデルを用いて突き止めました。また、これまで超新星爆発を起こすと考えられていなかった黄色超巨星が爆発に至る進化の道筋の解明にも成功しました。このモデルによると、爆発した黄色超巨星は近接連星を成していたと考えられます。研究グループは、この描像が正しいことを示す証拠として、将来の観測で伴星が検出されることを予測しました。

本研究成果は、9月20日発行のAstrophysical Journalに掲載されました。

掲載論文

Melina C. Bersten, Omar G. Benvenuto, Ken'ichi Nomoto et al. 2012 ApJ 757 31 doi:10.1088/0004-637X/757/1/31

論文タイトル: "The Type IIb Supernova 2011dh from a Supergiant Progenitor"

著者:
Melina C. Bersten1, Omar G. Benvenuto2,7, Ken'ichi Nomoto1, Mattias Ergon3, Gastón Folatelli1, Jesper Sollerman3, Stefano Benetti4, Maria Teresa Botticella5, Morgan Fraser6, Rubina Kotak6, Keiichi Maeda1, Paolo Ochner4, and Lina Tomasella4

重力崩壊型超新星爆発を引き起こす星の性質や爆発の多様性の起源の追究は、宇宙物理学において非常に重要な課題と言えます。重力崩壊型超新星爆発を起こすほど大きな質量の星は、爆発の直前には赤色超巨星か青色コンパクト星(ウォルフ・ライエ星)に進化していると考えられています。しかし、最近の超新星の観測で爆発前の星として黄色超巨星が見つかったことは大質量の星の進化を解明する上で深刻な問題となりました。

M51銀河に出現した超新星SN2011dh(図1)は、地球から比較的近いため、 2011年に現れた超新星の中で最も明るく、最も良く研究された超新星です。初期のスペクトルに水素の輝線が見られた後ヘリウムが主要成分のスペクトルへと移行したことからIIb型超新星と分類されています。このことは超新星となる星が爆発前に水素が主要成分の外層をほとんど失っていたことを示します。

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたこの超新星の爆発前の画像を検索して、2つの研究グループが独立して超新星の場所に星を見つけました。光学観測によると、この星は黄色超巨星と見られました(図2)。しかし、恒星進化モデルによると、重力崩壊型の超新星爆発を起こすような重い星は爆発直前には重さに応じて赤色超巨星(比較的軽い場合)もしくは青色コンパクト星(比較的重い場合)に進化しているはずで、進化の途中である黄色超巨星は超新星爆発を起こすはずはないと考えられていました。さらに、SN2011dhの早期の光学観測や電波観測に基づき、爆発した星はコンパクト星であり、発見された黄色超巨星は爆発した星の伴星もしくは超新星とは無関係で、偶然同じ場所に観測されたと考える研究者もいました。

今回の研究では初期の光度曲線を流体力学的計算によってモデル化することで、これまで考えられていたシナリオとは違って、爆発した星が黄色超巨星であると考えられる証拠を捉えました。すなわち、図3で示されているように、爆発した星が黄色超巨星である場合にのみ、観測された光度曲線をよく再現できたのです。このことから新たに、(1)爆発した星はどのようにして水素の外層を失ったのか?(2)このような黄色超巨星はどのようにして爆発できるのか?という2つの問題が発生しました。

問題(1)について、強い星風によるものと、連星系の重力による質量移動の2種類のメカニズムが提案されました。前者については、十分に強い星風が起こるためには誕生時の星の質量が太陽の25倍以上の大きなものでないといけません。しかしながら、今回の流体力学モデルでは爆発した星の質量が太陽質量の8倍以上ではあり得ないという結果が得られていました。爆発前に失われた外層の質量を加えても、誕生時の質量は太陽の25倍に届かないため、前者のメカニズムは否定されました。残る後者のメカニズムでは、近接した伴星に超新星となる星の物質が移行します。このシナリオでは小さな質量の星から外層がはぎ取られることを自然に説明できます。

2つの問題を解決するために、今回の研究では2つの重い星が星の間で物質が移動するほど近い距離の連星を成している場合の星の進化の計算を行いました。太陽の16倍と10倍の質量の2つの星(図4)からなり、初期の周期が125日の連星系の進化を計算したところ、黄色超巨星に成長した後に爆発する様子を再現できました。また中心部の質量も流体力学モデルの計算と一致しました。さらに、外層に残った水素もIIb型超新星として分類される量に減っていました。これは、赤色巨星に進化して超新星となる単独星の進化過程(図5)とは異なります。

連星モデルによると、超新星爆発の起きるときには、伴星は大質量で高温の星に進化していると予測されます。表面温度が非常に高いため、伴星はほぼ紫外線領域の光を出していて、可視光領域の明るさにはほとんど寄与しません。そのために、伴星は爆発前には検出できないほど暗い星であったと考えられます。しかし近い将来、超新星の残骸が飛び散った後には、伴星が青色領域の光学観測によって検出されることが今回の研究結果から予測されます。将来の観測でこの星が見つかれば、今回のモデルが正しいことの非常に有力な証拠になります。

今回の研究成果について、論文の主著者であるKavli IPMUのMelina Bersten特任研究員は、「この結果は、超新星の研究を進める上で、連星系の進化と爆発のメカニズムの関連を追及することが非常に重要であることを示しています。今後の観測で、私たちの予測が検証されることが楽しみです。」と述べています。


図1: M51銀河の超新星SN 2011dhの爆発前(左図)および爆発後(右図)の観測写真。Credit: Conrad Jung図1: M51銀河の超新星SN 2011dhの爆発前(左図)および爆発後(右図)の観測写真。Credit: Conrad Jung

図2: 本研究で明らかになったSN 2011dhの爆発前の状態の想像図。連星系の一方の星が外層を伴星の重力によってはぎ取られ、黄色超巨星に進化したと考えられる。Credit:  Kavli IPMU/Aya Tsuboi図2: 本研究で明らかになったSN 2011dhの爆発前の状態の想像図。連星系の一方の星が外層を伴星の重力によってはぎ取られ、黄色超巨星に進化したと考えられる。Credit: Kavli IPMU/Aya Tsuboi

図3: 爆発前の星が黄色超巨星の場合(黄線)および青色コンパクト星の場合(青線)の理論計算による光度曲線。SN2011dhの観測データを水色の点で重ねた。黄色超巨星と考えた場合のみ理論曲線が観測結果をよく再現する。図3: 爆発前の星が黄色超巨星の場合(黄線)および青色コンパクト星の場合(青線)の理論計算による光度曲線。SN2011dhの観測データを水色の点で重ねた。黄色超巨星と考えた場合のみ理論曲線が観測結果をよく再現する。

図4: 2つの青色星からなる連星系(左図)とその片側の星が進化、外層がはぎ取られて黄色超巨星となった連星系(右図)の想像図。Credit:  Kavli IPMU/Aya Tsuboi図4: 2つの青色星からなる連星系(左図)とその片側の星が進化、外層がはぎ取られて黄色超巨星となった連星系(右図)の想像図。Credit: Kavli IPMU/Aya Tsuboi

図5: 青色星(左図)とこれが進化した赤色超巨星(右図)の想像図。Credit: Kavli IPMU/Aya Tsuboi図5: 青色星(左図)とこれが進化した赤色超巨星(右図)の想像図。Credit: Kavli IPMU/Aya Tsuboi


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Melina C. Bersten, 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員

E-mail:  melina.bersten _at_ ipmu.jp 電話: 04-7136-6562

野本 憲一, 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授

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2 Facultad de Ciencias Astronómicas y Geofísicas, Universidad Nacional de La Plata, Paseo del Bosque S/N, B1900FWA La Plata, Argentina
3 The Oskar Klein Centre, Department of Astronomy, AlbaNova, SE-106 91 Stockholm, Sweden
4 INAF-Osservatorio Astronomico di Padova, Vicolo dell'Osservatorio 5, I-35122 Padova, Italy
5 INAF-Osservatorio Astronomico di Capodimonte, Salita Moiariello 16, I-80131 Napoli, Italy
6 Astrophysics Research Centre, School of Mathematics and Physics, Queen's University Belfast, Belfast BT7 1NN, UK
7 OGB is a member of the Carrera del Investigador Científico de la Comisión de Investigaciones Científicas de la Provincia de Buenos Aires (CIC), Argentina.