黄色超巨星の超新星爆発、観測により証明される

2013年4月5日
東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

2011年にM51銀河に現れた超新星をめぐって、どのような星が超新星爆発を起こしたのか、研究者の間で大きな論争になっていました。しかしながら、2013年3月、ハッブル宇宙望遠鏡による観測によって、黄色超巨星が姿を消したことが確認され、黄色超巨星が爆発したとする、Kavli IPMUのMelina Bersten(メリーナ・バーステン)特任研究員らの理論モデルが正しかったことが証明されました。


夜空に輝く星のうち、ある時自分自身の質量を支えきれなくなり、急激につぶれて大爆発を起こすものがあります。これを重力崩壊型超新星爆発といいます。超新星爆発を引き起こす星の性質や爆発の多様性の起源の追究は、宇宙物理学において非常に重要な課題です。これまで、重力崩壊型超新星爆発を起こすほど大きな質量の星は、爆発の直前には赤色超巨星か青色コンパクト星(ウォルフ・ライエ星)に進化していると考えられていました。

しかし、M51銀河に出現した超新星SN 2011dh(図1)は、様子が違っていました。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影されていた超新星の爆発前の画像を解析して、2つの研究グループが、超新星爆発の起こる場所に、星の進化の途中であり、超新星爆発を起こさないはずの黄色超巨星があったのを見つけ、議論を巻き起こしました。早期の光学観測や電波観測に基づき、爆発した星は暗くて見えない青色コンパクト星であり、見つかった黄色超巨星は爆発した星の伴星もしくは超新星とは無関係で、地球からは偶然同じ場所に見えていた、と考える研究者もいました。これらの場合、超新星の光が収まった後には、再び黄色超巨星が観測されると予想されます。

一方、Kavli IPMUのバーステンらのチームは、初期の光度曲線を流体力学的計算によってモデル化する理論研究により、爆発した星が黄色超巨星であるとしたときのみ、観測された光度曲線をよく再現することをつきとめていました(図2)。また、2つの大質量の星が非常に接近した連星系の進化を計算し、黄色超巨星に成長して爆発する場合があることを見つけ出しました。さらに同チームは、この計算結果から、超新星の光が収まった後には、黄色超巨星は観測されず、伴星の青色コンパクト星が観測されることを予測しました。(2012年9月28日の記事 [http://www.ipmu.jp/ja/node/1405]

そして2013年3月、ハッブル宇宙望遠鏡による観測から、超新星の場所が、爆発前にあった黄色超巨星の明るさより暗くなっていること、すなわち、黄色超巨星が確かに無くなってしまっているということが報告されました(図3) [ http://www.astronomerstelegram.org/?read=4850 ]。 バーステンらによる、黄色超巨星が消えてしまうという予測が、ついに観測によって証明されたのです。

今回の黄色超巨星の爆発が証明されたことにより、バズルの最後の一片として残されたのは、連星のモデルから予測される、黄色超巨星の伴星であった星を発見することです。同チームの計算によると、黄色超巨星が爆発した時点で、伴星は大質量の青色の星に進化しています。この星は表面温度が高いため主に紫外線領域の光を発していて、爆発前の可視光領域の観測では黄色超巨星の明るさに隠されていたと考えられます。しかし、近い将来、超新星爆発の光が十分に暗くなった後であれば、暗い伴星でも観測可能になると予想されます。そこで、バーステンを含むKavli IPMUの研究グループ(Folattelli et al.)は、2014年にハッブル宇宙望遠鏡や、すばる望遠鏡を用いて観測を行い、提唱した超新星爆発メカニズムのモデルの最終的な検証を行うことを提案しています。


図1: M51 銀河の、超新星 SN 2011dh 出現前(左図)と出現後(右図)の観測写真。左図は2009年、右図は2011年7月8日に撮影。 Credit: Conrad Jung.図1: M51 銀河の、超新星 SN 2011dh 出現前(左図)と出現後(右図)の観測写真。左図は2009年、右図は2011年7月8日に撮影。 Credit: Conrad Jung.

図2: 爆発前の星が黄色超巨星の場合(黄線)および青色コンパクト星の場合(青線)の理論計算による光度曲線。SN2011dhの観測データを水色の点で重ねた。黄色超巨星と考えた場合のみ理論曲線が観測結果をよく再現する。図2: 爆発前の星が黄色超巨星の場合(黄線)および青色コンパクト星の場合(青線)の理論計算による光度曲線。SN2011dhの観測データを水色の点で重ねた。黄色超巨星と考えた場合のみ理論曲線が観測結果をよく再現する。

図3: ハッブル宇宙望遠鏡による、超新星SN2011dh出現前(左図)および、出現2年後(右図)の観測写真。2枚の写真を比較すると、超新星の場所は、爆発前に観測されていた黄色超巨星よりすでに暗くなっていること、すなわち、黄色超巨星が消失したことがわかる。この観測結果は、Astronomical Telegram #4850 としてSchuyler D. Van Dyk (IPAC/Caltech), Alexei V. Filippenko, Ori Fox, Patrick Kelly (UC Berkeley), and Nathan Smith (University of Arizona) により報告された。Image credit: Schuyler D. Van Dyk.図3: ハッブル宇宙望遠鏡による、超新星SN2011dh出現前(左図)および、出現2年後(右図)の観測写真。2枚の写真を比較すると、超新星の場所は、爆発前に観測されていた黄色超巨星よりすでに暗くなっていること、すなわち、黄色超巨星が消失したことがわかる。この観測結果は、Astronomical Telegram #4850 としてSchuyler D. Van Dyk (IPAC/Caltech), Alexei V. Filippenko, Ori Fox, Patrick Kelly (UC Berkeley), and Nathan Smith (University of Arizona) により報告された。Image credit: Schuyler D. Van Dyk.

図4: 超新星SN 2011dh 爆発直前の状態、青色コンパクト星と黄色超巨星の連星系の想像図。Credit: Kavli IPMU/Aya Tsuboi図4: 超新星SN 2011dh 爆発直前の状態、青色コンパクト星と黄色超巨星の連星系の想像図。Credit: Kavli IPMU/Aya Tsuboi


 

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研究内容に付いて

Melina C. Bersten, 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員

E-mail:  melina.bersten _at_ ipmu.jp 電話: 04-7136-6562

野本 憲一, 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授

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