村山機構長ら、ヒッグス粒子の質量と超対称性理論との間の困難を解決 -Physical Review Lettersの注目論文-

2014年5月23日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

村山斉(むらやまひとし) Kavli IPMU機構長、飛岡幸作(とびおかこうさく) 高エネルギー加速器研究機構(KEK)博士研究員(2014年3月まで東京大学理学系研究科の大学院生としてKavli IPMUで研究に従事)らは、2012年に欧州合同原子核研究機構(CERN)で発見されたヒッグス粒子の質量と超対称性理論から期待される質量の値の矛盾点を解決しながら、理論の自然さを保つことに成功したという研究成果を発表しました。

この成果は、米国物理学会の発行するフィジカル・レビュー・レター誌(Physical Review Letters)に、注目論文(Editor’s Suggestion)として掲載されました。Editor’s Suggestionとはフィジカル・レビュー・レター誌に掲載された論文の中で、特に重要かつ興味深い成果と判断された論文に対して与えられる評価です。

現在素粒子のふるまいを最もよく説明するとされる標準理論には、いくつかの問題点があります。この問題点を解決する理論として、超対称性理論は有力な理論とされています。しかし、超対称性理論の最も基本的なモデルで期待されていたヒッグス粒子の質量は、2012年に観測されたヒッグス粒子の質量よりも小さく、理論と観測結果との間に困難が指摘されています。これを解決するため、様々な拡張を行った超対称性理論のモデルが数多く提唱されてきました。しかし、従来の理論では、観測されたヒッグス粒子の質量を説明するため導入される「超対称性の破れ」の値を大きくすると、理論が非常に不自然になってしまうという問題がありました。

今回の論文で示された成果は、ディラック型の2つの新しい超対称性粒子を導入することにより、超対称性の破れの値が大きくても、理論を不自然にするような影響を与えないということを証明出来たことです。これにより、理論の自然さを保ったまま観測されたヒッグス粒子の質量を説明でき、今回のEditor’s Suggestionにつながりました。

村山斉 Kavli IPMU機構長は「物質粒子には二種類のタイプがありえます。電子と陽電子のように、物質とその反物質が違う粒子の場合をディラック粒子、物質と反物質に区別がない場合をマヨラナ粒子と言います。従来の超対称模型の場合は今までマヨラナ粒子を使うのが一般的でした。それを敢えてディラック型の超対称性粒子を入れることで思いもかけず成功する模型ができたのです。」と述べています。

今後、この成果をもとにした超対称性理論の発展的な新しいモデルの構築が期待されるとともに、将来計画されている国際リニアコライダー計画(ILC)で今回のモデルに関係する兆候を見ることが出来るかもしれません。

発表論文: