銀河地図作成の新プロジェクトMaNGA始動

2014年8月18日
東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

人類の歴史上最大の宇宙地図を作っているスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)は、これまでの14年間にわたる観測を通して数多くの成果を挙げていますが、今回、新開発の機器を導入してさらに詳細、広範囲の観測を行う新たなフェーズ (SDSS-IV) が始まりました。

今回始まった観測プロジェクトのひとつ、Kavli IPMUのケビン・バンディ特任助教が研究代表者を勤めるMaNGA (Mapping Nearby Galaxies at Apache Point Observatory; アパッチポイント天文台近傍銀河地図作成) では、新開発の結束光ファイバーを利用してひとつの銀河の中の多くの点を同時に分光観測し、銀河の中の星とガスの分布図を作ることで、何十億年もかけて形成された銀河の成長の仕組みの解明に挑みます。

MaNGAでは新開発の光ファイバー結束技術を利用してひとつの銀河内の多くの点の分光観測をおこなう。図中左上から右下にかけてスローン財団望遠鏡、結束光ファイバーの先端部分、受光面拡大図。右下にはひとつの銀河の分光観測の際、各ファイバーが測定する銀河内の場所が示されている。図に現れている銀河は今回の新たな観測で最初に測定されたうちのひとつ。右上のスペクトル図は銀河の(1)中心部と(2)周辺部の測定データが大きく違うことを示している。
Image Credit: David Law, SDSS collaboration, and Dana Berry / SkyWorks Digital, Inc. 
Hubble Space Telescope image credit:  (http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/2008/16/image/cg/):  NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration,  and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook  University)MaNGAでは新開発の光ファイバー結束技術を利用してひとつの銀河内の多くの点の分光観測をおこなう。図中左上から右下にかけてスローン財団望遠鏡、結束光ファイバーの先端部分、受光面拡大図。右下にはひとつの銀河の分光観測の際、各ファイバーが測定する銀河内の場所が示されている。図に現れている銀河は今回の新たな観測で最初に測定されたうちのひとつ。右上のスペクトル図は銀河の(1)中心部と(2)周辺部の測定データが大きく違うことを示している。
Image Credit: David Law, SDSS collaboration, and Dana Berry / SkyWorks Digital, Inc.
Hubble Space Telescope image credit: (http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/2008/16/image/cg/): NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration, and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook University)

バンディ特任助教は「樹木の年輪に成長の歴史が記されているように、銀河の内部構造には、その一生の歴史が刻み込まれています。銀河には、様々な形や大きさの物がありますが、MaNGAでは、これまでできなかった、様々な周辺環境に存在する全てのタイプの銀河の成長の歴史をしらべることができるのです」と話しています。

今回の観測でも、SDSSの伝統に則り、膨大な観測データが一般公開されます。このデータを多くの天文学者が使うことで、宇宙の初期の小さな密度のゆらぎが何十億年もかけて成長し、いまの宇宙で見られるような多様な構造の銀河を形作った仕組みの解明につながるでしょう。そしてさらに私たちの住む天の川銀河の中に太陽や太陽系が生まれ、地球に生命が生まれるための環境が整った歴史をひもとくことになります。

ウィスコンシン大学のマシュー・バーシャディ教授は「MaNGAは私たちに銀河の形成の秘密を教えてくれます。さらに、暗黒物質の起源や超大質量ブラックホールの謎、そしてもしかすると重力そのものの性質について驚くべき発見をもたらすかもしれません」と語ります。MaNGAは、これまでにない数の銀河の化学組成や星やガスの運動を観測し、それぞれの銀河を隅々まで測定するため、そのような新発見を期待できるのです。

MaNGAの研究チームは、光ファイバーを正確に配列して束ねる新しい技術を開発し、米国ニューメキシコ州のスローン財団2.5m望遠鏡の既存の機器と組み合わせた観測手法を実現しました。これまでのほとんどの観測では、ひとつの銀河から1点の分光観測結果を得られるだけでしたが、MaNGAの観測では、ひとつの銀河の最大127点を同時に分光観測できます。この新しい装置を使い、6年間で10,000個以上の銀河の観測を予定しています。これまでの装置で行った場合の20倍の速度に相当します。

これまで、SDSSでは特に宇宙誕生後20億年から30億年までと70億年から現在までに的を絞って宇宙地図の作成を進めてきた。今回の新たな観測(eBOSS)では、宇宙誕生後30億年から70億年の間の銀河やクエーサーの分布図の作成をおこなう。この期間は宇宙の膨張がダークエネルギーによって加速され始めた、宇宙論において大変重要な時期と考えられている。    
Image credit: SDSS collaboration and Dana Berry / SkyWorks Digital, Inc. 
WMAP cosmic microwave background image credit: NASA/WMAP Science Team これまで、SDSSでは特に宇宙誕生後20億年から30億年までと70億年から現在までに的を絞って宇宙地図の作成を進めてきた。今回の新たな観測(eBOSS)では、宇宙誕生後30億年から70億年の間の銀河やクエーサーの分布図の作成をおこなう。この期間は宇宙の膨張がダークエネルギーによって加速され始めた、宇宙論において大変重要な時期と考えられている。
Image credit: SDSS collaboration and Dana Berry / SkyWorks Digital, Inc.
WMAP cosmic microwave background image credit: NASA/WMAP Science Team

SDSSには、世界各地の40以上の研究機関から200名以上の研究者が参加しています。MaNGAの他にも、北半球にあるスローン財団望遠鏡では観測できない領域を観測するため南半球であるチリの望遠鏡も用い、天の川銀河全体の星の運動を詳細に観測するAPOGEE-2プロジェクトも開始しました。さらに、宇宙誕生30億年後までさかのぼって膨張の様子を詳細に測定し、現代物理学の最も大きな謎のひとつ、暗黒エネルギーの正体解明に迫るeBOSSと呼ばれるプロジェクトも始まりました。 

Kavli IPMUの村山斉(むらやま ひとし)機構長は「SDSSは宇宙の起源から、私たちの住む天の川銀河の形成に至るまで、宇宙を考える上で重要ないくつもの事実を明らかにしてきました。今後さらに宇宙の様々な側面から謎を解明してゆくのが大変楽しみです。Kavli IPMUのケビン・バンディがこれを実現する重要な役目を果たしていることは特にすばらしいことです」と述べています。 

多くの新たなテクノロジーやMaNGAのような新たな観測プロジェクト、そしてスローン財団の強力な支援により、SDSSは世界で最も多くの成果をあげる天文観測施設のひとつであり続けています。SDSSから得られる科学成果は、人類がもつ、宇宙や銀河、そして私たちの住む天の川銀河の理解をこれからも変え続けてゆくでしょう。

関連リンク

SDSSによるプレスリリース(2014年7月15日、英語)

関連動画

下の動画はスローン財団望遠鏡で夜空を観測する様子を時間短縮したもの。観測担当者が光ファイバーユニットを交換する様子や、月が昇り空が明るくなったため遠方銀河の観測から天の川銀河内の星の観測に切り替える様子などが収録されている。

Video credit: John Parejko and SDSS collaboration

問い合わせ先

報道対応:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 大林 / 小森
E-mail: press _at_ ipmu.jp Tel: 04-7136-5974/5977 Fax: 04-7136-4941
 
研究内容について(英語での対応):
Kevin Bundy (ケビン・バンディ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任助教
E-mail: kevin.bundy _at_ ipmu.jp Tel: 04-7136-6513
 
Matthew Bershady (マシュー・バーシャディ)
ウィスコンシン大学マディソン校天文学科 教授
E-mail: mab _at_ astro.wisc.edu Tel: 1-608-265-3392

※電子メール送信の際は _at_ を @ で置き換えて下さい。迷惑メール防止にご協力お願いします。

スローン・デジタル・スカイ・サーベイについて

スローン・デジタル・スカイ・サーベイIV (SDSS-IV) の資金はアルフレッド・P・スローン財団、研究チームの各機関から提供されています。SDSS-IVはユタ大学大型計算機センターの支援及び計算機資源の提供を受けています。

SDSS-IV は以下の研究機関による天体物理学研究コンソーシアムにより運営されています。
the Carnegie Institution for Science, Carnegie Mellon University, the Chilean Participation Group, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics, Instituto de Astrofisica de Canarias, The Johns Hopkins University, Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (Kavli IPMU) / University of Tokyo, Lawrence Berkeley National Laboratory, Leibniz Institut fur Astrophysik Potsdam (AIP),Max-Planck-Institut fur Astrophysik (MPA Garching), Max-Planck-Institut fur Extraterrestrische Physik (MPE), Max-Planck-Institut fur Astronomie (MPIA Heidelberg), National Astronomical Observatory of China, New Mexico State University, New York University, The Ohio State University, Pennsylvania State University, Shanghai Astronomical Observatory, United Kingdom Participation Group, Universidad Nacional Autonoma de Mexico, University of Arizona, University of Colorado Boulder, University of Portsmouth, University of Utah, University of Washington, University of Wisconsin, Vanderbilt University, and Yale University.

SDSS ウェブサイト(英語) - http://www.sdss.org/