赤外線望遠鏡でとらえた巨大小惑星の衝突

概要

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)のウィプー・ルジョーパカーン特任研究員を含む、米国アリゾナ大学などの研究グループは、米国航空宇宙局(NASA)のスピッツァー宇宙望遠鏡 (注1) を用いた赤外線の継続的な観測から、若い恒星系を周回するダスト(塵)が爆発的に増大する様子をとらえました。この現象は、岩石でできた2つの巨大な天体が激しく衝突して起きたと解釈できます。地球のような岩石惑星は、長い年月の間にこのような衝突を繰り返して形成されると考えられています。今回の結果は大規模な衝突の前後を通して観測した初めての例で、岩石惑星の形成についての理解を深めるものです。本研究成果は、米国科学振興協会 (AAAS) 発行の論文誌 Science の2014年8月29日号に掲載されます。

図1: 今回の観測データから推察される小惑星の衝突の想像図。ダストの増加量から直径100〜1000km の小惑星がさらに大きな小惑星に秒速15〜18kmで衝突して砕け散ったと計算されている。クレジット:Kavli IPMU図1: 今回の観測データから推察される小惑星の衝突の想像図。ダストの増加量から直径100〜1000km の小惑星がさらに大きな小惑星に秒速15〜18kmで衝突して砕け散ったと計算されている。クレジット:Kavli IPMU

 

発表のポイント

  • 若い恒星系を周回するダスト(塵)の爆発的な増大を観測した。この現象は、巨大な小惑星同士が衝突したと解釈できる。
  • 地球のような岩石惑星 (注2) は、小惑星の衝突が繰り返されて形成されたと考えられている。
  • 岩石惑星が形成される重要な過程をリアルタイムに観測した初めての例であり、惑星の形成についての理解を深める。

発表内容

図2: ほ座内の散開星団NGC2547(注3)。ヨーロッパ南天天文台 (ESO) によって撮影された。クレジット:  ESO/Digitized Sky Survey 2/Kavli  IPMU図2: ほ座内の散開星団NGC2547(注3)。ヨーロッパ南天天文台 (ESO) によって撮影された。クレジット: ESO/Digitized Sky Survey 2/Kavli IPMU
 図3: 図2中央部の拡大図。中央の丸印の中心に恒星ID8がある。クレジット:  ESO/Digitized Sky Survey 2/Kavli  IPMU図3: 図2中央部の拡大図。中央の丸印の中心に恒星ID8がある。クレジット: ESO/Digitized Sky Survey 2/Kavli IPMU
宇宙空間をただよう星間物質が集まり、光り輝く恒星やその周囲の惑星を形作るためには、長い年月と複雑な過程を経ていると考えられています。地球のような岩石惑星は若い恒星を周回するケイ素などのダスト(塵)から生成されます。ダストが集まって小さな岩石(小惑星)が作られ、さらにそれらが衝突を繰り返します。衝突した小惑星の多くは砕け散りますが、時間をかけてさらに大きく成長するものもあります。そして約1億年かけて地球のような大きさまで成長すると考えられています。同様に、地球の周りを回る月は、原始地球と火星くらいの大きさの天体との衝突でできたと考えられています。

研究グループは、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡を使い、ほ座内にある地球から約1200光年離れたNGC 2547星団内 (注3) のID8と呼ばれる約3500万歳の若い恒星の赤外線観測を定期的に行っていました。赤外線観測により、恒星系内のダストの温度や量がわかります。この観測中、突然ダストの量が劇的に増加したのを発見しました。

論文の主著者である、アリゾナ大学の大学院生ホワン・メングは、「この突然のダストの増加は、二つの巨大な小惑星が衝突したためだと考えられます。衝突によって細かな砂粒くらいの粒子が雲をつくり、その後粒子同士が衝突を繰り返してさらに細かくなり、ゆっくりと恒星から離れて行った様子もわかりました。」と話しています。

これまでの観測でも小規模の衝突によると見られるダストの増減は観測されていましたが、岩石惑星形成の重要なステップである、さらに大規模な衝突を観測できることを期待し、2012年5月から多いときは毎日観測を行ってきました。2012 年8月から2013 年1月の間はNGC2547-ID8が太陽と重なるため観測を中断しており、1月に観測を再開したところ、ダストの量が劇的に変化していることがみつかりました。大衝突の前後で観測データが得られたのは今回が初めてのことです。私たちの住んでいる地球のような岩石惑星が作られる際におこる劇的な現象を初めてリアルタイムに観測したと言えます。

論文の共著者、アリゾナ大学のケイト・スー博士は「激しい衝突の残骸が現れたのがわかっただけでなく、粒子がさらに細かく砕かれ、恒星から離れてゆく様子まで詳細に観測できたのです。スピッツァー宇宙望遠鏡は、このような小さな変化を赤外線で詳細かつ定期的にとらえ、しかも何年にもわたる長期間観測を続けるのに最適な望遠鏡といえます。」と話しています。

図4: NASA  スピッツァー宇宙望遠鏡による恒星NGC2547-ID8の周囲のダストからの赤外線強度の観測結果。横軸に観測日(2012年5月~ 13年8月)、  縦軸に赤外線強度が示されている。 NGC2547  が太陽に隠されたため12年8月から13年1月の期間は観測を中断した。13年1月の観測再開直後から信号が劇的に大きくなっているのは、観測中断期間に 2つの巨大な小惑星が激しく衝突し、その残骸によるダストが急増したためと考えられる。信号が急増した後の周期的な増減はダストの雲が恒星の周囲を回っており地球から見える部分が変化するため、また長期的な減少はダストが衝突を繰り返してさらに細かくなり、恒星から離れてゆくために起きると考えられる。クレジット:NASA/JPL-Caltech/University of  Arizona図4: NASA スピッツァー宇宙望遠鏡による恒星NGC2547-ID8の周囲のダストからの赤外線強度の観測結果。横軸に観測日(2012年5月~ 13年8月)、 縦軸に赤外線強度が示されている。 NGC2547 が太陽に隠されたため12年8月から13年1月の期間は観測を中断した。13年1月の観測再開直後から信号が劇的に大きくなっているのは、観測中断期間に 2つの巨大な小惑星が激しく衝突し、その残骸によるダストが急増したためと考えられる。信号が急増した後の周期的な増減はダストの雲が恒星の周囲を回っており地球から見える部分が変化するため、また長期的な減少はダストが衝突を繰り返してさらに細かくなり、恒星から離れてゆくために起きると考えられる。クレジット:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona

現在、衝突の残骸(デブリ)が濃い雲となり岩石惑星が形成されている軌道上を回っています。地球からの雲の見え方によって赤外線の信号の強さが変わります。例えば、引き延ばされた雲が地球よりにある時、表面のほとんどが見えるため信号が大きくなり、先端や後端部だけが見えているときは信号が小さくなります。このような信号の変化を観測して、研究チームは衝突の生成物が地球のような岩石の惑星を形成する過程についての詳細なデータを初めて得ることができました。

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)のルジョーパカーン特任研究員は、チリのセロ・トロロ汎米天文台にある口径41cm PROMPT 5 遠隔制御望遠鏡を使って2012年12月から2013年8月にかけて可視光でNGC 2547-ID8の観測を行い、今回の赤外線の観測結果に見られる信号の増減が中心の恒星の変化によるものではなく、惑星の衝突によるものである可能性が高いことを示しました。ルジョーパカーン研究員は「今回観測した現象は、地球がどのようにできたのかを小学生に話すときのストーリーを再現しているようです。人の一生のうちにこのような機会を目の当たりにできるのは本当に稀だといってよいでしょう。」と話しています。

研究グループは今後もスピッツァー宇宙望遠鏡を用いたNGC 2547-ID8 の観測を継続し、ダストの多い期間がどれだけ続くのかを見極めます。これによって、大規模な衝突がこの恒星系やその他の恒星系などでどのくらいの頻度でおこるのかを計算することができます。また、もしかすると次の大衝突を観測することができるかもしれません。

 

発表雑誌

雑誌名:

Science
Vol. 345 no. 6200 pp. 1032-1035
DOI: 10.1126/science.1255153
http://www.sciencemag.org/content/345/6200/1032

論文タイトル:

Large impacts around a solar-analog star in the era of terrestrial planet formation

著者:

Huan Y. A. Meng,1 Kate Y. L. Su,2 George H. Rieke,1,2 David J. Stevenson,3 Peter Plavchan,4,5 Wiphu Rujopakarn,2,6,7 CareyM. Lisse,8 Saran Poshyachinda,9 Daniel E. Reichart10

著者所属:

1Lunar and Planetary Laboratory and Department of Planetary Sciences, University of Arizona, 2Steward Observatory and Department of Astronomy, University of
Arizona, 3Division of Geological and Planetary Sciences, California Institute of Technology, 4NASA Exoplanet Science Institute, California Institute of Technology, 5Missouri State University, 6Department of Physics, Faculty of Science, Chulalongkorn University, 7Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), Todai Institute for Advanced Study, University of Tokyo, 8Space Department, Applied Physics Laboratory, Johns Hopkins University, 9National Astronomical Research Institute of Thailand (Public Organization), Ministry of Science and Technology, 10Department of Physics and Astronomy, Campus Box 3255, University of North Carolina at Chapel Hill.

 

用語解説

注1 スピッツァー宇宙望遠鏡

米国航空宇宙局(NASA)が2003 年8 月に打ち上げた赤外線宇宙望遠鏡。4 波長 (3.6μm, 4.5μm, 5.6μm, 8.0μm) で同時観測できる256 画素赤外線カメラ (InfraRed Array Camera; IRAC)、5 – 40μm の分光観測が可能な分光器 (InfraRed Spectrograph; IRS)、遠赤外線 (24μm、70μm、160μm) の観測装置 (Multiband Imaging Photometer forSpitzer; MIPS) 等を搭載している。 高精度の赤外線観測のため、液体ヘリウムを用いて5.5ケルビン(-267.6℃)まで冷却して運用していた。また、地球からの熱を避けるため、望遠鏡は地球と一緒に太陽を回る軌道にあり、地球からすこし離れた場所を追いかけている。冷却用のヘリウムが底をついた2009年5月以降、望遠鏡の温度は28ケルビン(-245℃)に上昇したが、温度上昇の影響を受けにくい波長3.6μm、4.5μm のチャンネルを中心に「ウォーム・ミッション」として稼働を続けている。本研究の観測はウォーム・ミッション期間中に行われた。

スピッツァー宇宙望遠鏡ホームページ(英語)http://www.spitzer.caltech.edu/

注2 岩石惑星

地球型惑星や固体惑星とも呼ばれ、主に岩石や金属などから構成される惑星。太陽系では水星・金星・火星・地球がこれにあたる。水素などのガスを主体とする木星型惑星、水やメタン、アンモニア等が凝固した氷を主体とする天王星型惑星と区別される。

注3 NGC2547

南半球の空に見られるほ座内にある散開星団。天の川銀河の円盤内にあり、地球から約1200光年離れている。星間ガスから生成された若い恒星が集まっており、それらの恒星の周囲では盛んに惑星の形成も進んでいると考えられる。明るく輝く恒星が多いが、ID8と名付けられた恒星はその中では比較的質量が小さく、暗い。なお、恒星の集まりである星団は散開星団と球状星団とに分類され、散開星団は比較的まばらな集まりで、生まれて間もない星が多いのに対し、球状星団は恒星の密度が高く、古い恒星の集まりである。

問い合わせ先

報道対応:

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 大林 / 小森
E-mail: press_at_ipmu.jp 
Tel: 04-7136-5974 / 5977 Fax: 04-7136-4941

研究内容について:

Wiphu Rujopakarn(ウィプー・ルジョーパカーン)[英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: wiphu.rujopakarn_at_ipmu.jp
Tel: 04-7136-6555

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