本当にあった!消えた黄色超巨星跡に青い星ー超新星理論の予測を証明ー

発表のポイント

  • ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測により、3 年前に超新星 SN2011dh が出現した場所 に、明るい青色の星を発見した。
  • この星の発見は、明るい青色の星と対を成す(連星系 注 1)黄色超巨星(注2)が超新 星爆発をしたという理論を裏付ける強力な証拠である。
  • 本成果は理論による予測と観測との密接な連携により得られたものであり、これまで理解 の進んでいなかった連星系の進化と超新星爆発の仕組みについてのさらなる理解が進むと 期待される。

概要

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)のガストン・フォラテリ特任研究員らは、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測により、近傍のM51銀河で3年前に超新星SN2011dhが出現した場所に、明るい青色の星を発見しました。

恒星には、その一生の最後の時に自分自身の質量を支えきれなくなり、急激につぶれて大爆発を起こすものがあります。これを重力崩壊型超新星爆発といいます。周囲の恒星に影響されず、単独でこのような爆発を起こす恒星は、赤色超巨星か青色のウォルフ・ライエ星に進化したものだと考えられてきました。しかし、2011年に現れた超新星SN2011dhの位置を、爆発前に撮影していた画像には黄色超巨星が写っていました。この謎を解く理論を2012年に提唱したのがカブリIPMUのメリーナ・バーステン特任研究員らで、爆発した星は明るい青色の星と対を成して進化したことによって黄色超巨星になったことを示し、爆発後に残された明るい青色の星が観測によって見つかることを予測しました。

今回、明るい青色の星が発見されたことから、これまで天文学界の中で大きな論争になっていた、本当に黄色超巨星が超新星爆発を起こしたのかどうかという謎について、その最後の証拠が得られたといえます。本成果は連星系の進化と超新星爆発の仕組みについて、理論による予測と観測による検証とを密接に組み合わせて得られた研究成果です。

本研究成果は、Astrophysical Journal Lettersに掲載されます。

発表内容: 

<研究の背景>

恒星が誕生してからどのように進化していくのかを理解することは、宇宙物理学において非常に重要な課題です。夜空に輝く星の中には、その一生の最後の時に自分自身の質量を支えきれなくなり、急激につぶれて大爆発を起こすものがあります。これを重力崩壊型超新星爆発といいます。これまで、重力崩壊型超新星爆発を起こすほど大きな質量の星は、爆発の直前には赤色超巨星か青色のウォルフ・ライエ星に進化して、超新星になると考えられてきました。

2011年に「子持ち銀河(注3)」として知られるM51銀河に現れた超新星(SN2011 dh、図1)は、地球から2400万光年にあり比較的近いため明るく、多くの研究者により研究対象とされてきました。この超新星となった星が爆発にいたる進化の道筋をめぐって、天文学界では大きな論争がありました。それは、ハッブル望遠鏡で撮影されていたこの超新星の爆発前の画像には超新星の出現した場所に、赤色超巨星でも青色のウォルフ・ライエ星でもなく、黄色超巨星があったからです。

2012年、東京大学カブリIPMUのメリーナ・バーステン特任研究員らは流体力学的計算による超新星爆発の明るさの変化のモデルと観測されたSN2011dhのデータを比較し、この超新星は確かに黄色超巨星が爆発したものだと提唱しました。そしてヴァン・ダイクらの観測チームによる2013年3月のハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測から、 超新星SN2011 dhの位置が、爆発前にあった黄色超巨星の明るさより暗くなっていることが報告されました。すなわち、黄色超巨星が確かに無くなってしまっていたのです。この結果、バーステン特任研究員らの予測が正しいという証拠が1つ得られました。(2013年4月5日の記事 [http://www.ipmu.jp/ja/node/1535] )

さらにバーステン特任研究員らは、単独星の場合は、黄色超巨星となって超新星爆発を起こすことはないが、別の星と対をなして連星系を構成している場合、外層を相手の星(伴星)にはぎ取られ、黄色超巨星となったところで爆発することがあることを理論的に示していました。このことから、超新星の光が十分に暗くなれば、伴星だった明るい青色の星が見つかることが予測され、この星を発見することが黄色超巨星の爆発の謎を解く最後のピースとして残されていました(図2)。

<研究の手法と成果>

バーステン特任研究員らの説によって予測された伴星を捉えるために、カブリIPMUのガストン・フォラテリ特任研究員らは、2014年8月7日、ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ(WFC3、注4)を用い、紫外線領域の2種類の波長を用いて合計約2時間の観測を行った結果、どちらの波長の観測データにも、超新星の出現していた場所に明るい青い星が観測されました。

「天文学をやってきて最も興奮した瞬間の1つは、ハッブル宇宙望遠鏡から届いた画像をモニタに映し出したところ、私たちが長い間あるだろうと予測してきた星が、まさにその場所にあるのを見つけたときです。」とフォラテリ特任研究員は話します。

フォラテリ特任研究員らは、その明るい青い星が超新星そのものの光である可能性を調べましたが、超新星の光は観測された光の10分の1以下の明るさであると推定しました。

さらに、超新星爆発当時の明るい光が近くの塵の雲に反射して見えている可能性(ライトエコー)と、まったく別の星が偶然その場所に観測されている可能性も検討しましたが、予測される塵の雲がそのように近くにある可能性が低いこと、今回明るい青い星の見つかった場所は超新星の出現した場所と正確に重なり、また青く光る熱い星は稀であるため偶然重なって見える確率は極めて低いことから、どちらの可能性も退けました。

また、観測データの解析の結果、この光源の表面温度は高く、青色から紫外線の波長領域で強く輝いていることがわかりました。これはバーステン特任研究員らの予測した黄色超巨星の伴星の特徴と一致します。このことにより、バーステン特任研究員らの提唱した連星モデルは、超新星の進化のメカニズムを正しく説明するものであることがついに証明されたといえます。

バーステン特任研究員もまた「科学者として、このように超新星の進化について立てた予測が、観測事実として1つ1つ確認されていくのを目の当たりにできるなんて夢のようです。様子が変化するのに時間がかかる天文学では、非常に稀なことです。この超新星がとげた進化の過程を満足いく形で説明できたと思っています。」とその喜びを語っています。

<今後の展望>

ヨーロッパの観測チームにより、今回観測した光源の可視光領域における観測が、最近ハッブル宇宙望遠鏡で行われました。その観測結果が明らかになることで、今回観測した青い星が黄色超巨星の伴星と予想された星であることの確認、および連星モデルの検証が進むことが期待されます。今回の超新星SN2011dhは、重力崩壊型超新星について、理論予測と観測とを密接に組み合わせ、詳細に研究するまたとない機会でした。今後この星をさらに詳細に研究することで、宇宙における恒星、特に連星系の進化の理解に大いに寄与することが期待されます。


図1: M51 銀河の、超新星 SN 2011dh  出現前(左図)と出現後(右図)の観測写真。左図は2009年、右図は2011年7月8日に撮影。 Credit: チャボット宇宙科学センター コンラッド・ジャン図1: M51 銀河の、超新星 SN 2011dh 出現前(左図)と出現後(右図)の観測写真。左図は2009年、右図は2011年7月8日に撮影。 Credit: チャボット宇宙科学センター コンラッド・ジャン

図1: 爆発の経過を経年に並べた図。上が想像図で、下はハッブル宇宙望遠鏡が捉えた画像。(1)近接連星系を成し、明るく輝いている黄色超巨星。(2)黄色超巨星が超新星爆発を起こした図(観測画像は爆発後その明るさが徐々に失われていく段階)。(3)超新星が消えた跡に存在していた明るい青い星。観測画像では比較のために星Aを示している。(Credit: Top image: Kavli IPMU Bottom image: NASA/Kavli IPMU/Gastón Folatelli)図1: 爆発の経過を経年に並べた図。上が想像図で、下はハッブル宇宙望遠鏡が捉えた画像。(1)近接連星系を成し、明るく輝いている黄色超巨星。(2)黄色超巨星が超新星爆発を起こした図(観測画像は爆発後その明るさが徐々に失われていく段階)。(3)超新星が消えた跡に存在していた明るい青い星。観測画像では比較のために星Aを示している。(Credit: Top image: Kavli IPMU Bottom image: NASA/Kavli IPMU/Gastón Folatelli)

画像ファイルはhttp://web.ipmu.jp/press/2011dh/からダウンロードが可能です。

発表雑誌: 

雑誌名:「Astrophysical Journal Letters」(ApJ, 793, L22)
論文タイトル:A Blue Point Source at the Location of Supernova 2011dh
著者:Gastón Folatelli,1 Melina C. Bersten,1 Omar G. Benvenuto,2,3 Schuyler D. Van Dyk,4 Hanindyo Kuncarayakti,5,6 Keiichi Maeda,7 Takaya Nozawa,8 Ken’ichi Nomoto,1,9 Mario Hamuy,6,5 and Robert M. Quimby,1
著者所属:1Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), Todai Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 2Facultad de Ciencias Astronómicasy Geofísicas, Universidad Nacional de La Plata, 3Instituto de Astrofísica de La Plata (IALP), 4Spitzer Science Center/Caltech, 5Millennium Institute of Astrophysics (MAS), 6Departamento de Astronomía, Universidad de Chile, 7Department of Astronomy, Kyoto University, 8National Astronomical Observatory of Japan, 9Hamamatsu Professor
DOI:doi:10.1088/2041-8205/793/2/L22

用語解説: 

(注1) 連星系:2つの恒星が重力で引き合い、互いに相手の周りをまわっている系のこと。明るい方を「主星」、暗い方を「伴星」と呼ぶ。今回発見された明るい青い星は、連星系の「伴星」にあたるものであり、爆発して超新星2011dhへとなった黄色超巨星は「主星」にあたるものであったということが今回明らかになった。

(注2) 黄色超巨星: 恒星の晩年の姿の一形態で、赤色超巨星や青色のウォルフ・ライエ星へと進化する途中の姿。太陽質量の8倍を超えるような質量を持つ恒星は核融合反応が進んで晩年が近づくと、通常は膨張して赤色超巨星になるが、ある種の星は、質量を減らして収縮し青色のウォルフ・ライエ星になる。そして、このような進化を遂げた後に超新星爆発を起こす。しかし、超新星2011dhとなった星の場合は、今回発見された明るい青色の星が伴星としてあったために、黄色超巨星の状態を保ったまま超新星爆発を起こした。

(注3) 子持ち銀河:うしかい座近くの「りょうけん座」にある渦巻き銀河。NGC5195という銀河を伴っていることから子持ち銀河と呼ばれる。

(注4) ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ(WFC3):ハッブル宇宙望遠鏡の観測装置の一つで、近紫外線領域から可視光線領域、近赤外線領域までの画像撮影を行うことが出来る広視野カメラ。2009年のハッブル宇宙望遠鏡の5度目の改修時に新たに搭載された。

問い合わせ先: 

報道対応:

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 / 坪井
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977/ Fax: 04-7136-4941

研究内容について:

・野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp 
・Gastón Folatelli(ガストン・フォラテリ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: gaston.folatelli_at_ipmu.jp  
・Melina C. Bersten(メリーナ・バーステン)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: melina.bersten_at_ipmu.jp  

参考

9月11日記者会見の動画

過去のプレスリリース

  • 2012年9月28日「黄色超巨星の超新星爆発の初証拠」( http://www.ipmu.jp/ja/node/1405 )
  • 2013年4月5日「黄色超巨星の超新星爆発、観測により証明される」( http://www.ipmu.jp/ja/node/1535 )

過去の論文

掲載誌:Astrophysical Journal 757 31 (2012年8月31日発行)
著者:Melina C. Bersten et al.
論文タイトル:The Type IIb Supernova 2011dh from a Supergiant Progenitor
DOI: 10.1088/0004-637X/757/1/31