鉄の見つからなかった星、宇宙初期のブラックホール生成の痕跡と判明

発表のポイント

  • 最近見つかった、鉄の検出されなかった星の化学元素組成を、宇宙で最初にできた星(初代星)の超新星爆発で放出される元素によって説明した。
  • 太陽の数十倍の質量をもつ初代星が超新星爆発を起こしてブラックホールになる場合の理論計算を行い、この時に放出される元素の組成と見つかった星の観測データを比較した。
  • 将来世界の大型望遠鏡で取得される観測データを、本研究のような理論計算と比較することによって、初代星の性質についての理解がすすむことが期待される。

概要

 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)の石垣美歩研究員らは、最近見つかった鉄が検出されなかった星は、宇宙で最初にできた初代星が一生を終えたときの超新星爆発で放出した元素から生まれたことを明らかにしました。
見つかった星は、鉄とカルシウムの水素に対する割合が太陽のおよそ1千万分の1以下と、これまでに見つかっていたものよりはるかに低い一方で、炭素の割合が高いという特異な元素組成を示していました。石垣研究員らは、太陽の数十倍の質量をもつ初代星が超新星爆発を起こしてブラックホールになる場合の理論計算を行い、この時に放出される元素の組成が観測された元素組成と非常に近いことを示しました。
以前の理論計算からは、初代星が太陽の数百倍もの巨大質量を持つ可能性も示唆されていましたが、今回の結果は、宇宙の初代星はそのようなモンスター星ばかりでなく、今日の天の川銀河でも見られる星と同じような質量の星が含まれていたことを示します。将来世界の大型望遠鏡で取得される観測データを、本研究のような理論計算と比較することによって、いまだに明らかにされていない初代星の性質についてのより深い理解につながることが期待されます。

本研究成果は、Astrophysical Journal Lettersの9月10日号に掲載されました。

発表内容: 

 宇宙で最初にできた星々は初代星とよばれます。初代星はビッグバンで宇宙が誕生したときには水素、ヘリウム、ごくわずかな軽い元素しかなかった環境で、生命が誕生するのに欠かすことのできない重い元素を初めて合成するという重要な役割を果たしました。また、初代星が放つ光や星の一生の最期に起こす超新星爆発は、宇宙の再電離(注1)や、その後の銀河形成にも少なからず影響を及ぼしたと考えられています。
初代星によってばらまかれる元素の種類や、その一生のあいだに周りの環境に及ぼした影響の大きさは、初代星が生まれたときにもっていた質量によって大きく異なります。そのため初代星の質量を知ることは、その次の世代の星形成・銀河形成メカニズムを明らかにするうえで重要な課題とされてきました。しかし初代星の質量は、たとえば太陽の数百倍を超えるようなモンスター星ばかりだったのか、あるいは太陽の数倍から数十倍程度の比較的ありふれた質量をもつものだったのかなど、いまだにはっきりしたことは分かっていません。というのも初代星の多くは寿命が短く、現在まで生き残っているものはあったとしてもごくわずかと考えられ、直接性質を調べる手だてがほとんどないからです。

そこで初代星の性質を知る上で貴重な手がかりになるのが、銀河系(天の川銀河)に含まれる古い星の元素組成です。この古い星々は太陽に比べて鉄などの重い元素の水素に対する割合が10分の1程度以下と低いという特徴があり、宇宙が始まって間もないころ、重い元素が少ない星間ガスから生まれたと考えられています。したがってその大気に含まれる物質には、初代星など宇宙初期に生まれた星々によって作り出され、それらの超新星爆発を通して星間ガス中にばらまかれた物質の元素組成が反映されていると考えられます。これまでに知られていたなかで最も鉄の割合が低い星は太陽の数十万分の1以下というものでした。ところが最近になって、その記録を大幅に更新する極端に鉄の割合が低い星(SMSS J0313−6708)がオーストラリアの天文台等による観測で発見されました(注2)(図1)。この星の分光データ(スペクトル)からは、同じタイプの星なら通常みられるはずの鉄のスペクトル線がまったく検出されず、鉄の割合は大きく見積もっても太陽の1千万分の1以下であることがわかりました。

東京大学カブリIPMUの石垣研究員らの研究グループは、この星の鉄とカルシウムの割合がこれまで見つかったどの星よりも並外れて低い一方、炭素の割合が鉄に比べて非常に高い特異な組成に着目しました。鉄の少ない星で炭素が多い傾向は、これまでにもいくつかの例で知られていて、初代星の元素合成の痕跡である可能性が示唆されていました。問題は今回見つかったような極端に鉄の割合が少ない星が、初代星の超新星爆発で放出される物質で説明できるか、そうだとするとどのくらいの質量を持つ初代星か、あるいはまったく別のメカニズムによるものなのか、という点です。これまでの研究では、太陽の60倍もの質量をもつ初代星での特殊な元素合成の結果ではないかと考える研究者もいました。

そこで石垣研究員らは、太陽の25倍および40倍の質量の初代星の超新星爆発で放出される元素組成を理論計算によって求め、見つかった星の観測結果と比較しました(図2)。その結果、観測された星の元素組成は、合成された鉄やカルシウムの大部分が星の中心部が及ぼす重力によって落ち込み、ブラックホールになるとしたモデルによって、ほぼ再現できることを明らかにしました。このように生成物の大部分が中心部へ落ち込み、そのうちごくわずかな元素だけが出てくる現象は、超新星爆発がジェットの噴出などを伴う非対称性を持つ時に起こりやすいとされています。この時元々星の中心部に近いところに含まれる鉄とカルシウムはジェット噴出と共にごくわずかに放出され、外側に多く含まれる炭素は大部分が星間空間に放出されることになります。それに対して球対称な超新星爆発では、ジェットの噴出がなく鉄とカルシウムはまったく放出されないことになり、見つかった星でごくわずかながら検出されたカルシウムを説明することができません。

もし実際に初代星がモデルの示唆するような爆発を起こすとすれば、初代星のなかには太陽の数十倍程度と、私たちの銀河系(天の川銀河)でも見られる星と同じような質量をもつ星々が含まれていたことを示唆しています。初代星の中には、今日の天の川銀河には見られないような、質量が太陽の数百倍を超える星もあったとする理論予測があり、実際にその痕跡を残しているとみられる天体も見つかっています。一方で初代星がこのような巨大質量星ばかりであったのかどうかは議論が分かれています。今回の研究成果は、宇宙初期に今日も見られるような星と同じような質量(太陽の数十倍程度)の初代星が形成されたことを支持するものです。

今後はこの研究で示唆されるような初代星の超新星爆発(図3)が実際にどのようなメカニズムで起きるのか、数値シミュレーションなどによる検証が必要です。一方で鉄の割合が低い星について、今回のように理論計算と比較することは、初代星形成のシミュレーションなどで得られた結果を観測的に確かめる今のところ唯一の手段になっています。近い将来にかけて、口径4m-10m級の大望遠鏡でたくさんの鉄の割合が低い星の元素組成を一挙に調べる観測計画が世界の研究者によって続々と進められています。今回の研究でとられた手法をたくさんの星々の元素組成について適用することで、初代星の性質についてより深い理解につながることが期待されます。


画像ファイルはhttp://web.ipmu.jp/press/J03136708からダウンロードが可能です。

図1: オーストラリアにあるSkyMapper望遠鏡等によって、鉄の割合が極端に低いことがわかった星(SMSS J0313−6708)の画像。(Image: 1989年にアングロ・オーストラリアン天文台 (AAO)の望遠鏡で撮影。CAI/Paris – provided by CDS image server, Aladin: Bonnarel F.,et al. Astron. Astrophys., Suppl. Ser., 143, 33-40 (2000))図1: オーストラリアにあるSkyMapper望遠鏡等によって、鉄の割合が極端に低いことがわかった星(SMSS J0313−6708)の画像。(Image: 1989年にアングロ・オーストラリアン天文台 (AAO)の望遠鏡で撮影。CAI/Paris – provided by CDS image server, Aladin: Bonnarel F.,et al. Astron. Astrophys., Suppl. Ser., 143, 33-40 (2000)) 図2: 鉄が見つからなかった古い星の元素組成と、理論計算で求めた元素組成との比較。石垣研究員らの理論計算は観測された炭素、マグネシウム、鉄の元素組成をよく再現している。図2: 鉄が見つからなかった古い星の元素組成と、理論計算で求めた元素組成との比較。石垣研究員らの理論計算は観測された炭素、マグネシウム、鉄の元素組成をよく再現している。 図3: ジェットを伴う初代星の超新星爆発のイメージ図(credit:Kavli IPMU)図3: ジェットを伴う初代星の超新星爆発のイメージ図(credit:Kavli IPMU)

発表雑誌: 

雑誌名:「The Astrophysical Journal Letters」792, (2014)、32-37
論文タイトル:Faint Population III Supernovae as the Origin of the Most Iron-poor Stars
著者:Miho N. Ishigaki,1, Nozomu Tominaga,1,2, Chiaki Kobayashi,1,3, and Ken'ichi Nomoto,1,4
著者所属:1 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), Todai Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo,  2 Department of Physics, Faculty of Science and Engineering, Konan University, 3 School of Physics, Astronomy and Mathematics, Centre for Astrophysics Research, University of Hertfordshire,  4 Hamamatsu Professor
DOI番号: 10.1088/2041-8205/792/2/L32
アブストラクトURL:http://iopscience.iop.org/2041-8205/792/2/L32/

用語解説: 

(注1)宇宙の再電離:ビッグバンで宇宙が始まってから数十万年から数億年までは、宇宙に含まれる水素などの物質は電子と原子核が結合した中性の状態で存在していました。その後に初めて星や銀河が形成されていくにつれて、それらが放つ紫外線によって水素が電離され、このことによって光が水素ガスに吸収されずに進めるようになりました。このように宇宙初期に初代星、初代銀河などによって中性の物質が電離されていったことを、 「宇宙の再電離」とよんでいます。

(注2)SMSS J031300.36−670839.3(SMSS J0313-6708)は、南天の太陽から数千光年離れたところにある天の川銀河の星です。オーストラリアにあるSkyMapper望遠鏡等によって鉄の割合が極端に低いことがわかりました(Keller, S. C., Bessel, M. S., Frebel, A., et al. 2014, Nature, 506, 463参照)。

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報道対応:

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 / 坪井
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977/ Fax: 04-7136-4941

研究内容について:

・石垣美歩(いしがき・みほ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 日本学術振興会特別研究員
E-mail: miho.ishigaki_at_ipmu.jp  
・野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp