【開催報告】スプリング・サイエンスキャンプ

2015年3月25日から27日にかけて、東京大学柏キャンパスのカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)で「高校生のための先進的科学技術体験合宿プログラム スプリング・サイエンスキャンプ2015 天文、物理と数学で宇宙の謎解きに挑戦」を開催しました。

スプリング・サイエンスキャンプ2015は、2015年3月の春休み期間中、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、ものづくり技術、物理学、化学、数学等様々な分野において、先進的な研究テーマに取り組む大学、民間企業等の12会場が、それぞれ8〜20名(計168名)の規模で実施する科学技術体験合宿プログラムです。各会場は、それぞれの機関の特徴を活かした講義・観察・実験・実習等によるプログラムを実施しました。参加者は2泊3日の合宿生活を送りながら、第一線で活躍する研究者・技術者による直接指導を受けました。

高田教授による講義「宇宙論・最新の話題」高田教授による講義「宇宙論・最新の話題」

Kavli IPMUのプログラムでは、高倍率の選考を勝ち抜いた男女各10名の高校生が全国から集まり、3日間にわたって行われた物理学者、数学者、天文学者による最先端の研究の講義や実習を通して、宇宙の謎を解き明かす研究を体験しました。

初日と3日目に行われた高田昌広教授の講義「宇宙論入門」「宇宙論・最新の話題」では、138億年前に生まれた宇宙がどのようにして今のような姿になったのか、そしてこの先どうなるかについて調べる手がかりになる、天体の間で働く重力や銀河の回転速度、宇宙膨張について学び、最近次々と明らかになってきた驚きの宇宙像についての話題、現在すばる望遠鏡などで進められている観測についても耳を傾けました。

戸田特任准教授による講義「カラビ・ヤウ多様体とは何か」戸田特任准教授による講義「カラビ・ヤウ多様体とは何か」

2日目、戸田幸伸特任准教授による講義「カラビ・ヤウ多様体とは何か」では、宇宙の余剰次元に存在すると考えられている非常に複雑な空間「カラビ・ヤウ多様体」とはどのような空間なのか、代数幾何学を通して学びました。また大林由尚特任准教授による講義「素粒子物理学と宇宙」では、無限大とも思えるスケールの宇宙の謎を解明するために知る必要のある極微のスケールの素粒子について、見えない素粒子を見る方法や世界各地で行われている巨大な装置を使った素粒子物理学実験について学びました。そして講義の途中では非常に簡単な素粒子検出器である霧箱を一人一台ずつ手作りし、素粒子の観測を体験しました。

大林特任准教授による講義「素粒子物理学と宇宙」。部屋を暗くし、霧箱を使った素粒子の飛跡観測をしています。大林特任准教授による講義「素粒子物理学と宇宙」。部屋を暗くし、霧箱を使った素粒子の飛跡観測をしています。

初日と2日目にかけて行われた鈴木尚孝特任助教による天文学実習では、10チームに分かれ、紐(ひも)と錘(おもり)を使った振り子の実験から重力加速度とその測定誤差を求めました。この「紐一本」だけの実験結果から、太平洋の深さ、月までの距離も計算しました。さらに地球や太陽の質量に加え、銀河の暗黒物質の量を求めたり、暗黒エネルギー発見に実際に使われたデータを使って、発見を追体験したりしました。ティーチング・アシスタントで実習を手伝った大学生、大学院生の先輩たちも計算に加わりましたが、時には高校生が先に解答を導いてしまうこともありました。

講義実習の終了後、夕方には講師、ティーチング・アシスタントと生徒の交流会や質問コーナーが設けられ、講義実習で聞き足りなかったことや、大学生活、研究者の生活のことなど、じっくり話し合うことができました。また宿舎に戻ってからも高校生とティーチング・アシスタント、アドバイザーとで議論が続きました。

振り子の周期から重力加速度を求めています。振り子の周期から重力加速度を求めています。鈴木特任助教による天文学実習鈴木特任助教による天文学実習

 

ティータイムに村山機構長と話す参加者ティータイムに村山機構長と話す参加者最終日には参加者発表会があり、参加者は全員、一人2分という限られた持ち時間の中で、キャンプを通して興味を持ったトピックについて調べ上げたことを全員の前で発表しました。発表内容は様々です。一番人気はブラックホールでした。ブラックホールの仕組みについて調べたり、惑星がブラックホールになった時のシュバルツシルト半径を求めたり、論文の観測データから銀河中心のブラックホールの質量を求めたりした発表や、シュバルツシルト半径の計算方法の解説もありました。ブラックホール以外にも、チリ地震の津波の到達時刻を使って太平洋の深さを求めた発表、反物質の謎についての発表、ニュートリノ振動の確率を計算してその質量についての議論もありました。星震学から暗黒物質に制限をつける論文についての発表、暗黒エネルギーの謎の紹介もあり、位相幾何学とポアンカレ予想について協力して発表したグループもありました。さらに、今回のサイエンスキャンプの様子を愉快な絵でまとめた発表や、数物連携とその意義についての議論、ヒッグス粒子とその謎の多い性質の説明、ワームホールの性質とその実在可能性についての説明もありました。熱意溢れる発表と活発な質疑応答は、研究者の集まる研究会のようでした。将来、今回集まったみなさんが実際の研究の場で発表する姿が目に浮かびます。その後の閉講式で受け取った修了証書とたくさんの思い出を胸に、名残惜しくも参加者は家路につきました。

Kavli IPMU 村山機構長を囲んでKavli IPMU 村山機構長を囲んで

サイエンスキャンプ実習問題に挑戦!

今回のサイエンスキャンプで挑戦した実習問題をひとつ紹介します。

Q:ひも1本で月までの距離?

振り子の実験で求めた重力加速度と月の周期から、月までの距離を求めましょう。

(ヒント:「1メートル」は、どのように定義されているのでしょう)