柳田勉

Tsutomu YanagidaTsutomu Yanagida

現在の素粒子物理学は、標準模型と呼ばれているゲージ対称性を基礎とした理論によって完璧に記述されています。しかしそこには、いくつかの謎が存在します。現在、その中でも、標準模型の柱のひとつであるヒッグス粒子の謎に注目して研究しています。標準模型によれば、このヒッグス粒子の質量は約100GeV程度でなければなりません。ところが、ヒッグス粒子のようなボソン場は、量子補正により非常に大きな質量をもってしまいます。おそらく、 その質量はプランク質量(1018GeV)ぐらいになるのが自然です。もちろん、補正前の質量と補正項が打ち消し合って100GeV程度の質量が残ったと考えることはできますが、この考えはあまりにも不自然に思えます。このヒッグス粒子の質量の問題は、超対称性と呼ばれるボソン場とフェルミオン場を入れ替える対称性を仮定すれば解決できます。この対称性があれば、ボソン場とフェルミオン場の質量は等しくなります。一方、フェルミオン場の質量には大きな量子補正は生じないことが知られています。だから、超対称性のおかげで、ボソン場の質量には大きな補正は生じないことになります。もちろん、この超対称性は破れていなければなりませんが、その破れを1000GeV程度とすれば、100GeV程度のヒッグス粒子の質量を説明することは自然に思えます。

上記のような考えを標準模型に適応して、ヒッグス粒子の質量に上限値、約130GeVが存在することを示しました。私は、この予言が今年から始まるLHC実験で確かめられるだけでなく、超対称性理論が予言する多くの新粒子がこの実験で発見されることを期待しています。