極度な強磁場を持つ中性子星、マグネターが生み出す超高輝度超新星の輝き

2016年3月24日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)


1.発表者:

Melina C. Bersten(メリーナ・バーステン) 
 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 客員研究員
野本憲一(のもと・けんいち)
 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員


2.発表のポイント:

  • マグネターと呼ばれる極端に強い磁場を持った中性子星が、通常より極度に明るい超高輝度超新星の要因とする理論モデルについて、流体力学的な計算手法を用い検証を行った。
  • 今回対象としたのは超高輝度超新星の中でもさらに特異な2例で、その両者ともマグネターが要因となり超高輝度になっていることを、理論モデルと観測データとの良い一致を示すことにより初めて明らかにした。
  • 本研究成果をもとに更なる検証と観測を行うことで、超高輝度超新星となるような恒星の内部構造解明への手がかりとなるともに、超高輝度超新星の起源や宇宙の初代星の進化に関する新しい知見を与えると期待される。

3.発表概要:

アルゼンチンのラプラタ国立大学天文・地球物理学部研究員で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)のMelina C. Bersten (メリーナ バーステン)客員研究員と Kavli IPMU の野本憲一 (のもと けんいち) 特任教授・主任研究員らの研究グループは、超高輝度超新星と呼ばれ大変明るく珍しい超新星の中で、ガンマ線バーストに付随していることが分かった初めての例である SN2011kl と 飛び抜けて明るい例である ASASSN-15lh について、マグネターという磁場が大変強い中性子星が超高輝度の要因となるという理論モデルを流体力学の計算手法を用い検証しました。その結果、どちらの超新星も観測されている超高輝度超新星の輝度変化のデータを上手く説明できることに初めて成功しました。本研究成果は米国の天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ  (Astrophysical Journal Letters) に2016年1月20日掲載されました。
 

4.発表内容:
太陽など宇宙に存在する恒星のうち、より大質量の恒星は最後に超新星爆発という大爆発を起こし一生を終えます。その大爆発は大変明るく輝き、超新星と呼ばれ観測されます。そうした超新星の一種で、超高輝度超新星と呼ばれ通常の超新星の10倍から100倍明るく輝くものがあります。しかし、このような高輝度を生み出すエネルギー源や爆発のメカニズムについては論争があり、謎のままとなっています。

アルゼンチンのラプラタ国立大学天文・地球物理学部研究員で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)のMelina C. Bersten (メリーナ バーステン)客員研究員とKavli IPMUの野本憲一 (のもと けんいち) 特任教授・主任研究員らの研究グループは、超高輝度超新星 SN2011kl と ASASSN-15lh について、マグネターが超高輝度の要因となるという理論モデルを流体力学の計算手法を用い検証しました。今回対象とした SN2011kl と ASASSN-15lh はそれぞれ特異な特徴を持つ超高輝度超新星です。SN2011kl は2011年に発見され、爆発の際に生じたガンマ線バーストと呼ばれるガンマ線の爆発的な放出現象が数時間も続いた大変珍しい超新星として初めて見つかったものです。一方の ASASSN-15lh は2015年に発見され、これまで見つかっている超新星としては最も明るく強力なもので、通常の超新星の明るさの500倍、天の川銀河全体の明るさの20倍にも相当する輝きが1ヶ月以上も継続しました。これらは、その大変な高輝度から、マグネターが超新星の輝きの非常に強力なエネルギー源となっているのではという説が唱えられていました。マグネターは、超新星爆発により生まれる中性子星の一種で、強力な磁場を持ち1秒間に数十回という超高速で自転する特殊な天体です。

検証の結果、SN2011kl と ASASSN-15lh の輝度の時間変化の観測データを理論モデルで上手く説明できることに初めて成功しました。この結果は、マグネターが超高輝度超新星を生み出す要因であることを示唆するものです。

本研究の中心となった Melina C. Bersten (メリーナ バーステン) 客員研究員は成果について「これら2つの超高輝度超新星の事例は、恒星の爆発に関する我々の持つ知見の真価を試すものとなるでしょう」と述べています。

また、野本憲一 (のもと けんいち) 特任教授・主任研究員も
「超高輝度超新星は宇宙の遥か遠方でも発見可能なので、その爆発機構を理解することは宇宙の初代星の質量等を理解する手がかりになることが期待できます」と述べています。

今後、本研究成果をもとに理論モデルの更なる検証と、ハッブル望遠鏡などによる観測で光度変化を追うことで、超高輝度超新星を引き起こす恒星の内部構造解明への手がかりとなるとともに、超高輝度超新星とガンマ線バーストの関係や恒星進化に関する新しい知見を与えると期待されます。


5.発表雑誌:
雑誌名:「Astrophysical Journal Letters」 (ApJ, 817, L81) 
論文タイトル: The Unusual Superluminous Supernovae SN2011KL and ASASSN-15LH
著者:Melina C. Bersten (1,2,3) , Omar G. Benvenuto (1,2,4) , Mariana Orellana (5,6) , and Ken'ichi Nomoto (3,7) 
 
著者所属:
1. Facultad de Ciencias Astronómicas y Geofísicas, Universidad Nacional de La Plata, Paseo 
del Bosque S/N, B1900FWA La Plata, Argentina
2. Instituto de Astrofísica de La Plata (IALP) , CONICET, Argentina
3. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe, The University of
 Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
4. Member of the Carrera del Investigador Científico de la Comisión de Investigaciones 
Científicas de la Provincia de Buenos Aires (CIC), Argentina
5. Sede Andina, Universidad Nacional de Río Negro, Mitre 630 (8400) Bariloche, Argentina
6. Member of the Carrera del Investigador Científico y Tecnológico del CONICET, Argentina
7. Hamamatsu Professor.

DOI:10.3847/2041-8205/817/1/L8 (2016年1月20日掲載)

論文のアブストラクト(Astrophysical Journal Lettersのページ)
http://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8205/817/1/L8/meta
プレプリント (arXiv.orgのページ)
http://arxiv.org/abs/1601.01021 
 

6.問い合わせ先:

報道対応:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
携帯: 080-9343-3171  Fax: 04-7136-4941
*_at_を@に変更してください

研究内容について:
野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp Tel: 04-7136-6567
*_at_を@に変更してください

Melina C. Bersten(メリーナ・バーステン) [英語での対応]
ラプラタ国立大学天文・地球物理学部 研究員/
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 客員研究員
E-mail: merlinada.bersten_at_gmail.com
*_at_を@に変更してください
 

7.参考画像:
※下記の画像は http://web.ipmu.jp/press/201603-Magnetar からダウンロード可能です。