二重ベータ崩壊を使ったニュートリノ研究で宇宙物質優勢の謎に挑む


2016年8月9日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 


東北大学ニュートリノ科学研究センター、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) など国内外の研究機関が連携する国際共同実験グループ「カムランド禅コラボレーション」は、神岡の地下1,000メートルでニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊を探索する「カムランド禅 (KamLAND-Zen) 」実験(図1)における最新結果を公表しました。「準縮退型」「逆階層型」「正常階層型」という3つの可能性が許されていたニュートリノの質量型について、カムランド禅においてマヨラナニュートリノ質量の可能性を世界最高感度で検証したことにより、その内の1つである準縮退型を大きく排除しました。研究チームは、Kavli IPMU 主任研究員を兼ねる井上邦雄東北大学ニュートリノ科学研究センター長が主導しているほか、アレキサンドル・コズロフ Kavli IPMU 特任助教なども研究グループに中心的に関わっています。

 

宇宙誕生直後に粒子と反粒子は等しく生成されたはずですが、現在の宇宙では反粒子が消え、粒子が作る物質だけが残されています。このことは「宇宙物質優勢の謎」と呼ばれる宇宙・素粒子の大問題の1つであり、ニュートリノの性質がその謎を解決する鍵と考えられています。電荷を持たないニュートリノは、クォークなどの素粒子と異なり、粒子と反粒子が同一のマヨラナ型と呼ばれる素粒子の候補です。このマヨラナニュートリノのアイデアは、理論物理学者であるエットーレ・マヨラナによって1937年に考案されましたが、未だ実験的実証は出来ていません。さらに、昨年のノーベル賞でも話題を集めたニュートリノ質量の発見によって、ニュートリノの質量の起源に関わるマヨラナニュートリノの実証は決定的に重要な意味を持つことになりました。ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊 (図2) の観測はマヨラナニュートリノを証明する最も有力な実験的手法で、現在世界中で激しい競争が繰り広げられています。


ニュートリノ検出器として既に極低放射線環境を実現していたカムランドでは、その環境を最大限活用し液体シンチレータ中にキセノンガスを溶かし込むことで、2011年にニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索プロジェクト「カムランド禅」を迅速に開始しました。

カムランド禅では液体シンチレータとキセノンの純化によって放射性不純物からのバックグラウンドを10分の1以下に低減し、大幅な感度向上を実現しました。2011年10月から2012年6月の間に収集した第一期のデータと、キセノン純化後の2013年12月から2015年10月の第二期の間でデータを取得した約1年半分のデータを加え解析を行いました。その結果、キセノン同位体の136Xeにおけるニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の半減期として90%の信頼度で1.07×1026年以上という制限(自身の感度を約6倍更新)を得ました。これは電子型のマヨラナニュートリノ質量の上限0.061〜0.165 電子ボルト(幅は原子核理論の不定性による)に換算でき、3種類のニュートリノが同程度の質量を持つ準縮退型のマヨラナニュートリノ質量の可能性を世界最高感度で探索したことになります。これにより、準縮退型の重いマヨラナニュートリノの可能性をほぼ否定することとなりました。
 

カムランド禅ではニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の初検出に向けて、現在の381 kgから約750 kgへのキセノン増量による大型化と、極低放射能ナイロンバルーンの再製作という低放射能化を実現した次期計画「カムランド禅800」を今年10月に開始予定です。更に、より検出器を高性能化する将来計画「カムランド2禅」においては、ニュートリノの質量階層構造を検証する感度が期待されています。
 

詳しくは東北大学のプレスリリースをご覧下さい。

本研究成果は米国物理学会誌フィジカル・レビュー・レターズ (Physical Review Letters) に2016年8月16日(米国東部時間)付で掲載されました。また、注目論文としてEditor’s suggestionに選定されました。

論文情報
雑誌名:「Physical Review Letters」
論文タイトル:Search for Majorana Neutrinos near the Inverted Mass Hierarchy Region with KamLAND-Zen
著者:KamLAND-Zen Collaboration
DOI:10.1103/PhysRevLett.117.082503 (2016年8月16日掲載)
論文のアブストラクト (Physical Review Lettersのページ) 
プレプリント (arXiv.orgのページ)

関連リンク
東北大学の記事
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/08/press20160809-01.html
東北大学大学院理学研究科の記事
http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20160809-7998.html

アメリカ物理学会の記事 (英語)
http://physics.aps.org/synopsis-for/10.1103/PhysRevLett.117.082503

問い合せ先
報道対応
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
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