周囲のガスとの激しい衝突が生み出す超高輝度超新星の輝き


2016年11月24日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

1. 発表者

Sergei Blinnikov(セルゲイ・ブリニコフ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特別研究員・客員上級科学研究員
野本憲一(のもと・けんいち)
 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
Alexey Tolstov  (アレクセイ・トルストフ)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員

2. 発表のポイント

・通常より100倍程度にまで明るくなる超高輝度超新星が高輝度になる要因として、超新星爆発直前に放出していた大量のガスと超新星爆発時の噴出物が激しく衝突した結果であるという理論モデルを計算した。

・今回対象としたのは水素の欠乏している超高輝度超新星のうち、明るさの変化がゆっくりしたものと早いものの2例で、その両者とも、理論モデルと観測データとの良い一致を示すことを世界で初めて明らかにした。

・将来的な理論的検証により、超高輝度超新星が高輝度となるメカニズムや、初代星の謎に今後さらに迫れると期待される。


3. 発表概要
ロシア理論実験物理学研究所教授で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のSergei Blinnikov 特別研究員・客員上級科学研究員とKavli IPMUの野本憲一特任教授・主任研究員、Alexey Tolstov特任研究員及びシュテルンベルク天文研究所のElena Sorokina(エレーナ・ソロキナ)研究員らから成る研究グループは、超高輝度超新星の新たな理論モデルを計算し、光度変化のデータを世界に先駆けて説明することに成功しました。このモデルは、星が爆発する直前に周囲に放出していた大量のガスと超新星爆発時の噴出物が激しく衝突をすることにより通常の超新星よりも100倍程度明るく輝いたというものです。本研究成果は、超高輝度超新星が明るく輝くメカニズムの謎に迫るものであるとともに、爆発直前に大量のガスを放出していたという特徴から、初代星の爆発の可能性も考えられる重要な結果です。米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal)に2016年9月15日に掲載されました。

 

4. 発表内容
太陽など宇宙に存在する恒星のうち、大質量の恒星は最後に大爆発を起こし一生を終えます。その大爆発は大変明るく輝き、超新星と呼ばれ観測されます。そうした超新星の一種で、超高輝度超新星と呼ばれ通常の超新星の10倍から100倍明るく輝くものが、最近発見されるようになりました。このような高輝度を生み出すエネルギー源や爆発のメカニズムについては近年盛んに研究が進められてきました。

特に、TypeⅠと呼ばれる水素の乏しい超新星で高輝度超新星となっているものについては高輝度になる要因について、いくつかのメカニズムが提案されましたが、依然として謎となっていました。
 

ロシア理論実験物理研究所教授で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のSergei Blinnikov 特別研究員・客員上級科学研究員と野本憲一特任教授・主任研究員、Alexey Tolstov特任研究員及びシュテルンベルク天文研究所のElena Sorokina(エレーナ・ソロキナ)研究員らから成る研究グループは、水素の乏しい高輝度超新星のSN2010gxとPTF09cndの高輝度の要因についてのシミュレーションを行いました。SN2010gxとPTF09cndのこの2つの超新星は、サインディエゴ州立大学天文学科准教授でKavli IPMUのRobert  Quimby (ロバート・クインビー)客員科学研究員らが2009年から2010年にかけ発見した高輝度超新星です。
 

今回、Elena Sorokina 研究員らはこれらの超新星が、超新星爆発時に既に周囲にあった大量のガスと超新星爆発時の噴出物が爆発的な衝突をするというモデルの計算を行い、その光度変化を複数の波長で示しました。その結果、SN2010gxとPTF09cndの輝度の時間変化の観測データを上手く説明することに世界で初めて成功しました。この結果は、超新星爆発前から存在していた周囲の大量のガスが、超新星爆発時の輝きに大きな影響を及ぼしていることを示唆しています。さらに、周囲のガスの量が、太陽質量の100倍以上という大量な量と見積もられ、超新星爆発前の星は初代星であった可能性があります。しかしながら、初代星には通常豊富に水素が含まれていたと考えられるため、何らかの形で爆発前に水素が奪われていた可能性があり、更なる理論的研究が必要です。


今回の成果は、Elena Sorokina研究員がKavli IPMUに滞在中に主に進められた研究であり、共著者も併任を含めKavli IPMUの所属研究者という、Kavli IPMUで進められた大変重要な成果です。今後、理論モデルの更なる研究により、超高輝度超新星が明るく輝くメカニズムに更に迫るとともに、初代星の研究の進展も期待されます。

米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) に2016年9月15日に掲載されました。

5. 発表雑誌
雑誌名:「Astrophysical Journal」(ApJ,829 ,1)
論文タイトル:Type I Superluminous Supernovae as Explosions inside Non-Hydrogen Circumstellar Envelopes
著者: Elena Sorokina (1, 2, 3), Sergei Blinnikov (2,3,4), Ken’ichi Nomoto (3, 6), Robert Quimby (3, 5), Alexey Tolstov (3)

  著者所属:
1. Sternberg Astronomical Institute, M.V. Lomonosov Moscow State University,  
    119991 Moscow, Russia
2. Institute for Theoretical and Experimental Physics, 117218 Moscow, Russia
3. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), Tokyo 
    Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, 
    Kashiwa-shi, Chiba, 277-8583, Japan
4. All-Russia Research Institute of Automatics (VNIIA), 127055 Moscow, Russia
5. Department of Astronomy, San Diego State University, San Diego, CA 92182, USA

DOI:10.3847/0004-637X/829/1/17 (2016年9月15日掲載)

論文のアブストラクト(Astrophysical Journalのページ)
http://iopscience.iop.org/article/10.3847/0004-637X/829/1/17/meta
プレプリント (arXiv.orgのページ)
http://arxiv.org/abs/1510.00834

 

6. 問い合せ先

報道対応

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈 
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
携帯: 080-9343-3171 Fax: 04-7136-4941
*_at_を@に変更してください

研究内容について 

野本憲一(のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授・主任研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp Tel: 04-7136-6567
*_at_を@に変更してください

Sergei Blinnikov(セルゲイ・ブリニコフ)[英語での対応]
ロシア理論実験物理研究所 教授
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特別研究員・客員上級科学研究員
E-mail: sergei.blinnikov_at_itep.ru
*_at_を@に変更してください

Alexey Tolstov  (アレクセイ・トルストフ) [英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail:  alexey.tolstov _at_ ipmu.jp   Tel: 04-7136-6512
*_at_を@に変更してください

7. 参考画像

画像は http://web.ipmu.jp/press/20161115-Superluminous/ からダウンロード可能です。

8. 関連記事

2016年3月24日 Kavli IPMUのウェブページより
「極度な強磁場を持つ中性子星、マグネターが生み出す超高輝度超新星の輝き」
http://www.ipmu.jp/ja/20160324-SLSNe