表面での爆発から星の死への旅立ち - 表層ヘリウムの爆発が引き金をひく白色矮星の超新星爆発 -

2017年10月5日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)


1. 発表概要
東京大学大学院理学系研究科や京都大学、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)、国立天文台などの研究者らからなる研究チームは、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) を用いた観測により、爆発直後のIa型超新星 (注1) を捉えることに成功しました。この超新星の観測的特徴を解明するために、Kavli IPMU の野本憲一 (のもと・けんいち) 上級科学研究員を含む研究者らが理論解析を行った結果、この特徴は、白色矮星の外層部にあるヘリウムが核融合反応を起こしたことを引き金として、衝撃波が中心に伝わり、星全体が爆発したと考えると上手く説明できることがわかりました。この機構は数十年来提案されていましたが、その確たる証拠がとらえられたのは初めてです。本研究はIa型超新星の爆発機構を解明する第一歩であり、Ia型超新星を宇宙論的距離測定の標準光源として用いる精度を高めることにも役立つと期待されます。
 

研究チームには、Kavli IPMU の野本憲一上級科学研究員のほか、安田直樹 (やすだ・なおき) 教授、鈴木尚孝 (すずき・なおたか) 特任助教が参加しています。更に、本論文の筆頭である 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻大学院生の姜継安  (ジャン・ジアン) さんの指導教官である東京大学大学院理学系研究科の土居守 (どい・まもる) 教授、京都大学理学研究科の前田啓一 (まえだ・けいいち) 准教授、国立天文台の田中雅臣 (たなか・まさおみ) 助教 、甲南大学理工学部物理学科の冨永望 (とみなが・のぞむ)  教授、東京大学大学院理学系研究科付属天文教育研究センターの諸隈智貴  (もろくま・ともき)  助教らは、いずれも Kavli IPMU を併任とする研究者です。
 

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature」に2017年10月4日付で掲載されました。
 

2. 発表内容
星にはその生涯の最後に大爆発を起こすものがあります。重い星の爆発はよく言及されますが、太陽のようなそれほど重くない星が進化した結果残される、炭素と酸素からなる高密度の星 (白色矮星、注2)も、爆発に転じることがあります。白色矮星が連星をなしている場合、相手の星(伴星)から物質を受け取って質量を増やすことで、中心部で激しい核融合が始まる可能性があります。この激しい核融合により、星全体が吹き飛ぶIa型超新星爆発が引き起こされると考えられています。
 

Ia型超新星は、非常に明るくどれも似たような最大光度を持つことから宇宙論的な距離指標に使われています。この性質を利用して宇宙の加速膨張が発見され、2011年にはこの成果に対してノーベル物理学賞が授与されました。しかし、その爆発がどのように始まるかは諸説あり、わかっていません。それを解明するためには爆発初期から超新星を観測する必要がありますが、Ia型超新星の爆発が起きる頻度自体が銀河1個あたり100年に1度と極めて稀なため、従来の観測では爆発初期のIa型超新星を探すことは困難でした。


すばる望遠鏡に搭載された超広視野カメラHyper Suprime-Cam (HSC) を使うことによって、多くの銀河を一度に撮像することができ、短時間の観測で多くの超新星を見つけることが可能となり、爆発後数日以内の超新星を捉えることができるようになりました。研究グループは、2016年にそのような観測を始め、同年4月には検出された100以上の超新星の中から爆発から1日以内と推定される超新星を発見しました。さらに、発見後に世界各地の望遠鏡で追観測を行うことで、この超新星の爆発初期の様子を明らかにしました。
 

観測結果から、この超新星は、これまでに観測されてきたIa型超新星の変化から推測されていたよりもずっと早い時期に明るくなっていたことがわかりました。(図1)。この原因として、爆発で飛び散った物質と伴星とが衝突し、高温になった部分を見ているとも考えられますが、この仮説に基づく数値シミューションからは青白い光が予想されるのに対し、今回HSCで観測された色は赤く、このモデルでは説明できません。
 

そこで研究チームは、初期に起こりうる他の仮説として、伴星から白色矮星に降り積もってきた表層のヘリウムが核融合反応 (注3) を起こして爆発した場合を考え、その明るさと色の変化を計算しました。その結果、観測された最初期の急激な増光と色を説明できることがわかりました。ヘリウム層の爆発がどのように観測に現れるのかを理論的に示したのも今回が初めてです。このヘリウム層における核融合反応では、カルシウムやチタンが合成されることが期待されますが、この超新星が最大光度に達したときに撮られたスペクトルにはチタンイオンによる吸収線が強く見られたことからも、初期の増光がヘリウムの核融合反応によるものであることが裏付けられました。その後、この超新星はIa型超新星としては平均的な明るさの時間変化を示しました。つまり、ヘリウムの核融合反応がきっかけで衝撃波が白色矮星の中心に向けて伝わり、中心部で炭素の核融合反応が生じて、星全体が爆発したと考えられます (図2)。
 

本研究成果により、Ia型超新星の爆発がどのように始まったのかという謎に迫る第一歩を踏み出したと言えます。研究グループは、今後更に観測を進めることで多くの超新星を検出し、その中からより初期段階の超新星を探し出す予定です。宇宙全体の歴史や構造を理解する有用な道具になっているIa型超新星の爆発機構の解明を進め、異なる爆発機構ごとに最大光度が違うのかどうかを確認していくことで、宇宙論的な距離測定の精度を高めることにも役立つと期待されます。
 

本研究成果リリースにつきましては、 東京大学大学院理学系研究科のプレスリリース も併せてご覧ください。

 

3.発表雑誌
雑誌名:「Nature」
論文タイトル:A hybrid type la supernova with an early flash triggered by helium-shell detonation
著者:Ji-an Jiang*, Mamoru Doi, Keiichi Maeda, Toshikazu Shigeyama, Ken’ichi Nomoto et al.
DOI番号:10.1038/nature23908 (2017年10月4日掲載)
論文のアブストラクト (Natureのページ)


4.用語解説
注1)Ia型超新星: 超新星のうちそのスペクトルに水素によるスペクトル線が見られないものをI型と分類し、I型のうちケイ素のスペクトル線が強いものをIa型と分類する。白色矮星が核融合反応によって爆発するとその外側では大量のケイ素が合成されることが期待されるので、Ia型超新星は白色矮星の爆発と考えられている。

注2)白色矮星: 核融合反応が終わった星の中心核。外層は核融合反応が最後に激しく起こったときに剥がされて、中心核のみが残り白色矮星となる。非常に高密度で、質量は太陽と同じくらいあるが大きさは地球ほどしかない。白色矮星には自重を支えられる限界の質量があることが知られている。その質量は太陽質量のおよそ1.4倍で、発見者の名にちなんでチャンドラセカール限界質量と呼ばれる。

注3)ヘリウムの核融合反応: 二つのヘリウム原子核が衝突し、くっついて不安定なベリリウム原子核ができる。この不安定な原子核が再びヘリウム原子核に壊れる前にもう一つのヘリウム原子核が衝突して炭素原子核になる三体反応。この反応により大量のエネルギーが放出されるので、白色矮星の表面でこの反応が起こると、温度が高くなり他の核融合反応も進みさらに重い原子核であるチタンやタルシウムなども合成される。


5.問い合わせ先
研究内容について:
野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp Tel: 04-7136-6567
*_at_を@に変更してください


報道対応:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 
広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp  Tel: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください