大栗博司 主任研究者がハンブルク賞を受賞

2018年5月24日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

2018年5月24日、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) 主任研究者の大栗博司 (おおぐりひろし) カリフォルニア工科大学教授が、ハンブルク賞を受賞することが発表されました。ハンブルク賞は、ドイツのヨアヒム・ヘルツ財団 (Joachim Herz Stiftung) が、ハンブルク大学とドイツ電子シンクロトン研究所 (Deutsches Elektronen-Synchrotron) と共同で授賞する賞です。前年までは、量子情報、量子光学、量子多体系などへの理論的貢献をもたらした研究者を顕彰するものでしたが、今年から対象分野が理論物理学全体に拡げられました。また、この賞のために新しい基金が設けられ、賞金額が4万ユーロから10万ユーロに増額され、ドイツで賞金額の最も高い科学賞のひとつになりました。このように装いを新たにしたハンブルク賞の初代の受賞者に、大栗氏が選ばれました。
 

授賞式は2018年11月7日にハンブルクのプラネタリウムで行われる予定で、併せて、大栗氏の研究をテーマに3日間のシンポジウムがハンブルク大学で開催されます。今回の受賞にあたり大栗氏は、「大変驚き、光栄に思います。プラネタリウムでの授賞式とともに、ハンブルク大学で開いていただくシンポジウムで皆さんと議論をすることをとても楽しみにしています」と述べています。
 

 

ヘルツ財団理事長の Henneke Lütgerath 博士は「本賞を授与することで、大栗氏が傑出した理論物理学者であるとともに、素晴らしい教育者であることを讃えることができることは、ヘルツ財団の大きな喜びです。大栗氏の貢献によって、超弦理論の研究には、すでに重要な進展がもたらされてきています」と述べています。また、本賞の選考委員長であり、ハンブルク大学のヴォルフガング・パウリ理論物理学研究所所長も務めるボルカー・ショメロス(Volker Schomerus) 教授も、「大栗さんと交流が出来ることを楽しみにしています。超弦理論と場の量子論の研究について、よい刺激を得られるでしょう」と期待を寄せています。


大栗氏は、超弦理論を記述する新しい数学的手法を生み出すことに焦点を当て研究を行って来ました。超弦理論は、原子のような小さなスケールの現象を説明する量子力学の法則と、宇宙のような大きなスケールを説明するアインシュタインの重力理論を結びつける理論として、万物の理論とも呼ばれます。超弦理論では、空間の3次元、時間の1次元、カラビ‐ヤウ多様体として知られる特殊な構造に丸め込まれた6つの微小な次元を合わせた、10次元が存在するとされています。

「6次元のカラビ‐ヤウ多様体は、私たちの4つの次元の時空間と別な世界にあるわけではありません。それは、高さや幅が別々の世界のものでないのと同じことです。この6次元は大変微小な次元であり、これらの次元の理解をより深めるための新しい理論的手法の開発に取り組んでいます」と大栗氏は述べます。
 

大栗氏は、トポロジカル超弦理論に関する研究、またこの理論のブラックホールの物理から数学分野の代数幾何学や結び目理論にわたる幅広い応用で、とりわけ大きな業績をあげています。
 

大栗氏のハンブルク賞の受賞にあたり、Kavli IPMU の村山斉機構長も「ハンブルク賞が拡張されて、今まで以上に高い名誉となった最初の例として大栗氏が選ばれたことは、Kavli IPMU にとって素晴らしいニュースです。氏の研究が高く評価され、今後さらに超弦理論と場の量子論の分野での研究が進展することへの期待が込めれられています。自分のことのようにうれしいです」とコメントを寄せています。
 

更なる詳細については、ヨアヒム・ヘルツ財団 (Joachim Herz Stiftung) のプレスリリース (ドイツ語) 及びカリフォルニア工科大学のプレスリリースをご覧下さい。


学歴
1984年:京都大学理学部卒業
1986年:京都大学大学院修士課程修了
1989年:東京大学より理学博士号を授与される

職歴
1986 - 1989年:東京大学理学部物理学教室助手
1988 - 1989年:プリンストン高等研究所研究員
1989 - 1990年:シカゴ大学物理学教室助教授
1990 - 1994年:京都大学数理解析研究所助教授
1994 - 2000年:カリフォルニア大学バークレイ校教授
1996 - 2000年:ローレンス・バークレイ国立研究所上級研究員を併任
2000年より:カリフォルニア工科大学教授
2007年より:カリフォルニア工科大学カブリ冠教授
2007年より:東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)主任研究者
2014年より:カリフォルニア工科大学ウォルター・バーク理論物理学研究所の初代所長に就任
2016年より:アスペン物理学研究所の所長に就任

受賞歴
2008年:第1回アイゼンバッド賞(アメリカ数学会)
2008年:フンボルト賞(アレキサンダー・フォン・フンボルト財団)
2008年:第4回高木レクチャー(日本数学会)
2009年:仁科記念賞(仁科記念財団)
2012年:第1回サイモンズ研究賞(サイモンズ財団)
2012年:アメリカ数学会フェローに選出  
2014年:科学出版賞(講談社)
2016年:科学監修を務めた映像作品『9次元からきた男』が最優秀教育作品賞(国際プラネタリウム協会)を受賞
2016年:中日文化賞(中日新聞)
2016年:アメリカ芸術科学アカデミー会員に選出


関連リンク
ヨアヒム・ヘルツ財団 (Joachim Herz Stiftung) のプレスリリース (ドイツ語)
カリフォルニア工科大学のプレスリリース (英語)
大栗博司氏のホームページ