シミュレーションが解き明かす、白色矮星の超新星爆発がマンガンとニッケルに富む謎

2018年9月21日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

1.発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の Shing-Chi Leung (シンチー・レオン, 梁成志) 特任研究員と野本憲一 (のもと・けんいち) 上級科学研究員は、最近観測されたIa型超新星や超新星残骸が、なぜ特異な化学組成を持つのかを明らかにするため、従来のIa型超新星のシミュレーションに比べて格段に正確なスキームを取り入れた多次元流体シミュレーションを行いました。そして、爆発前の白色矮星の特性や白色矮星となる以前の星の特性の違いにより、爆発によって合成された元素の組成にどのような違いが生じるかを調べました。その結果、白色矮星が自らを支えられる最大限の質量であるチャンドラセカール質量に近い大きな質量を持ち、さらに太陽を超えるような高い金属量を持っていると、その超新星爆発によって、観測されたような大量のマンガンやニッケル、特異な鉄の同位体が作り出されることを明らかにしました。本結果は、Ia型超新星を起こす白色矮星の質量がチャンドラセカール質量に近いか小さいかという論争に重要なヒントを与えると同時に、太陽を超えるような高い金属量を持つ天体がどのように形成されるかという点において、銀河の化学進化の研究に新たな論点をもたらすものです。本研究成果は、米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) のオンライン版に2018年7月13日付で掲載されました。
 

 

2. 発表内容:
Ia型超新星は、炭素と酸素から成る非常に高密度の星である白色矮星が、ある種の伴星と互いの周りを周回している連星系を作っている場合に、熱核反応の暴走を起こすことによる爆発です (図2)。宇宙において、Ia型超新星は、鉄、ニッケル、マンガンといった鉄ピーク元素やシリコンや硫黄といった中間質量元素の主要な生成場所となっています (図3)
 

しかしながら、どんな種類の連星系システムで白色矮星が超新星爆発を起こすのかに関する共通見解は未だ無い状況です。更には、最近の多数の観測結果から、Ia型超新星とその超新星残骸に含まれている元素の組成にかなり多様性があることが分かってきました。特にマンガンやニッケル、放射性同位体のニッケル57などが、鉄の量に比べて多いのです (図4)。例えば、最近観測されたIa型超新星SN2012cgや超新星残骸の3C 397は、現在の標準的な理論モデルでは説明出来ない特異な化学組成を持つことが示されていますが、どのような種類の白色矮星が特異な元素存在量のパターンを生み出す要因となるのかは明らかになっていません。

そのような多様性の起源を明らかにするため、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の Shing-Chi Leung 特任研究員と野本憲一上級科学研究員は、従来のIa型超新星のシミュレーションに比べて格段に正確なスキームを取り入れた多次元流体シミュレーションを行いました。そして、白色矮星の特性や白色矮星となる前の星の特性の違いにより、爆発によって合成された元素の組成にどのような違いが生じるかを調べました。

Shing-Chi Leung 特任研究員は「今回の研究で最も重要で且つ独自なところは、チャンドラセカール質量に近い質量を持つ白色矮星の起こすIa型超新星がどのような組成の元素を生成するかのサーベイを、これまでで最大のパラメーターに対して行ったことです」と述べています。


特に面白い事例として本研究で着目した銀河円盤内の超新星残骸3C 397 (図5) では、マンガン/鉄とニッケル/鉄の存在比は太陽での存在比のそれぞれ2倍と4倍にもなることが観測されていました。研究グループは、マンガンと鉄、ニッケルの存在比が、白色矮星の質量や金属量の影響を受けていることを明らかにしました。観測された3C 397の存在比の値は、もし元となる白色矮星がチャンドラセカール質量と同じくらい重く、太陽より高い金属量を持っていれば説明可能です (図6)。

 

このことは、超新星残骸3C 397が比較的質量の軽い (チャンドラセカール質量よりも軽い) 白色矮星の爆発によるものではないことを示しています。銀河系の (バルジ以外の) ほとんどの星は、太陽の金属量に近いか下回る程度の金属量を持つのが一般的ですが、超新星残骸3C 397の爆発前の白色矮星は太陽よりも高い金属量を持っていたはずです。
 

今回の研究は、Ia型超新星を起こす白色矮星の質量がチャンドラセカール質量に近いか、それよりかなり小さいかという論争に重要な手がかりを与えます。それと同時に、太陽を超えるような高い金属量を持つ星の進化や銀河の化学進化の研究の重要性を示すものと言えます。本研究の次の段階としては、より多くの観測データを用いたり、モデルを他のIa型超新星に拡張させて、シミュレーションでのテストを更に行っていく予定です。
 

本研究成果は、米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) のオンライン版に2018年7月13日付で掲載されました。
 

3. 発表雑誌:
発表雑誌:「Astrophysical Journal」
雑誌名:Explosive Nucleosynthesis in Near-Chandrasekhar Mass White Dwarf Models for Type Ia supernovae: Dependence on Model Parameters
著者: Shing-Chi Leung (1), Ken’ichi Nomoto (1)
著者所属:
1. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan

DOI: 10.3847/1538-4357/aac2df (2018年7月13日掲載)
論文のアブストラクト (Astrophysical Journalのページ)
プレプリント(arXiv.orgのページ)
 

4. 問い合わせ先:
報道対応:
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 
広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp  Tel: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください

研究内容について:
Shing-Chi Leung (シンチー・レオン)[英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任研究員
E-mail: shingchi.leung_at_ipmu.jp
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野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
TEL: +81-04-7136-6567
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp
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5. 参考画像:
画像は http://web.ipmu.jp/press/201809-SNIa/ からダウンロード可能です。