第二世代星に観測された大量の亜鉛は、初代星のジェットを吹き出す激しい爆発の産物

2019年5月24日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一上級科学研究員と客員科学研究員を兼ねる甲南大学理工学部の冨永望教授、2019年1月まで特任研究員としてKavli IPMUに在籍していた東北大学大学院理学研究科の石垣美歩学術研究員、国立天文台の青木和光准教授を含む、マサチューセッツ工科大学の研究者を中心とする国際研究チームは、宇宙初期の初代星の超新星爆発がジェット状の非対称な爆発であった可能性が高いことを観測とシミュレーションから明らかにしました。

研究チームは、 HE 1327-2326 という天体をハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている紫外線分光装置 Cosmic Origins Spectrograph を使って2016年5月から7月にかけ観測し、そのデータから HE 1327-2326 の元素組成を詳細に調べました。HE 1327-2326 は2005年に発見された天体で、その鉄の存在量が水素との比で太陽の10万分の1以下という極端な少なさから、まだ宇宙に重元素が存在していなかった時代に形成された初代星の、次の代の第二世代の星とされています。小さく暗い第二星代の星は寿命が長く、一部の第二世代の星は現在でも観測可能なため、第二世代以前の初代星について調べる重要な手がかりとされています。一方の初代星は、ビッグバン後2、3億年後に水素とヘリウムのガスで構成される天体として生まれ、星の内部では熱核反応により炭素や鉄、亜鉛を含む重元素を作り出したと考えられています。また、初代星が超新星爆発する際は、球状に広がる形での対称的な爆発を引き起こしたと従来考えられてきましたが、詳細については分かっていませんでした。
 

研究チームによる観測データ解析の結果、HE 1327-2326 の亜鉛の存在量が鉄と比較して太陽の6倍以上と極めて高いことが分かりました。第二世代の星であるHE 1327-2326 が今回観測されたほどの亜鉛の高い存在量を獲得するためには、初代星が従来考えられてきたような形での超新星爆発を起こすことでは難しいと思われました。そのため、研究グループは観測データを説明するために初代星の爆発シミュレーションを行いました。このシミュレーションは、超新星爆発や第二世代星の形成シミュレーションなどを専門とする日本の研究グループが担当し、爆発エネルギーや爆発の構造、パラメータを変化させ10,000回以上行いました。その結果、従来考えられていたような初代星の球対称的な爆発では、第二世代の星であるHE 1327-2326で観測されたような高い存在量の亜鉛は生成できない一方、初代星がジェットを吹き出すような非球対称な爆発を引き起こした場合は可能であることが分かりました。初代星の超新星爆発は、内部で作られた重元素を大量に撒き散らすに十分な強力なジェットを吹き出す激しい爆発で、エネルギーとしては水素爆弾の爆発の10の30乗に相当するほどのものです。

今回の結果は、宇宙再電離という重要な時代に対する従来の知見に影響を与える可能性があります。宇宙再電離とは、電離状態だった誕生すぐの宇宙が水素原子の形成により一旦電気的に中性になったものの、何らかの原因により再び電離状態になったとされる宇宙誕生後数億年頃に起こったと考えられる事象のことで、その後の星形成に影響を与えたと考えられています。つまり、研究チームの成果は、初代星の超新星爆発の構造を明らかにしただけでなく、宇宙進化の謎に迫るものです。
 

本研究成果は、米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) に2019年5月8日付で掲載されました。

詳しくはマサチューセッツ工科大学のプレスリリースをご覧下さい。

 

2. 発表雑誌
雑誌名:Astrophysical Journal
論文タイトル:Evidence for an Aspherical Population III Supernova Explosion Inferred from the Hyper-metal-poor Star HE 1327–2326
著者:Rana Ezzeddine (1,2,3), Anna Frebel (2,1), Ian U. Roederer (4,1), Nozomu Tominaga (5,6), Jason Tumlinson (7), Miho Ishigaki (8), Ken'ichi Nomoto (6), Vinicius M. Placco (9,1), and Wako Aoki (10,11)

著者所属:
1. Joint Institute for Nuclear Astrophysics, Center for the Evolution of the Elements, East Lansing, MI 48824, USA; ranae@mit.edu
2. Department of Physics and Kavli Institute for Astrophysics and Space Research, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA 02139, USA
3. Department of Physics and Astronomy, Michigan State University, East Lansing, MI 48824, USA
4. Department of Astronomy, University of Michigan, Ann Arbor, MI 48109, USA
5. Department of Physics, Faculty of Science and Engineering, Konan University, Kobe, Hyogo 658-8501, Japan
6. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
7. Space Telescope Science Institute, Baltimore, MD 21218, USA
8. Department of Astronomy, Tohoku University, Sendai, Miyagi 980-8578, Japan
9. Department of Physics, University of Notre Dame, Notre Dame, IN 46556, USA
10. National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
11. Department of Astronomical Science, The Graduate University for Advanced Studies, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan


DOI: https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab14e7 (2019年5月8日掲載)
論文のアブストラクト(Astrophysical Journal のページ)