電子を食べるネオンが引き起こす星の崩壊 −原子核物理とシミュレーションが解き明かす電子捕獲型超新星の重力崩壊過程−

2020年3月30日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

1.発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一 (のもと・けんいち) 上級科学研究員を含む国際共同研究チームは、太陽の8倍から10倍の質量を持つ星が、超新星爆発に至る詳細なメカニズムについて明らかにするため、太陽質量8.4倍の質量の星を例にとりシミュレーションを行いました。その結果、研究グループは、星のコアに含まれているネオンが星内部の電子を大量に捕獲することで重力崩壊型の超新星爆発が引き起こされることを確かめました (電子捕獲型超新星と呼ばれます)。従来、爆発の過程で中性子星が形成されるかどうかの議論がありましたが、本研究は新しく更新された電子捕獲率を使って、中性子星が形成されることを示しました。研究成果は、米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) のオンライン版に2019年11月15日付で掲載されました。
 

2. 発表内容
太陽の8倍から10倍の質量を持つ星は、超新星爆発を起こして中性星を形成するか、もしくは超新星爆発を引き起こさずに白色矮星を形成するかという、星の最期の状態に違いが生じる境界領域にあたります。そのため、研究者達は、この質量範囲にあたる星が、最終的にどのような最期を迎えるか興味を持って研究してきました。
 

太陽の8倍から10倍の質量を持つ星の中心部には、酸素・マグネシウム・ネオンを成分とするコアが形成されます (図1)。このコアには、縮退していると言われる電子が豊富にあります。これは、狭い空間に十分高いエネルギーをもった電子が大量に存在し、その圧力によってコア自身の重さを支えていることを意味しています。この星のコアの質量が、縮退した電子の圧力で支えることのできる星の最大質量であるチャンドラセカール限界質量に近づくと、コアの密度が十分に高くなり、マグネシウムとネオンが順次、電子を捕獲し始めます。これは、「電子捕獲」と呼ばれる過程ですが、過去の研究では、電子捕獲によって超新星爆発に至る過程で、中性子星が形成されるかどうかは議論がありました。
 

Kavli IPMU の野本憲一上級科学研究員、香港中文大学博士課程学生の Shuai Zha 氏 (現在はストックホルム大学研究員)、Kavli IPMU の Shing-Chi Leung 特任研究員 (現在はカリフォルニア工科大学研究員)、日本大学の鈴木俊夫教授の研究グループは、太陽の8.4倍の質量の星のコアがどのように進化するかをコンピューターシミュレーションで調べました。シミュレーションでは、鈴木教授によって新しく更新された密度依存性と温度依存性を持つ電子捕獲率に関するデータを使用しました。星のコアは、星自身の重力と、縮退した電子の圧力によって釣り合いを保っています。シミュレーションによると、マグネシウムと、特にネオンが電子を捕獲していくにつれ、電子の数が減少しコアが急速に収縮していきます (図 2)。

電子が捕獲されることによって熱も放出されます。星のコアの中心密度が1010g/cm3すなわち1立方センチメートルあたり100億グラムを超えると、コアの酸素が中心付近で燃焼を始め、鉄やニッケルなどの鉄族原子核を生成しました。温度が高くなった結果、原子核が一部分解され自由になった陽子も増えていきます。これらの鉄や陽子によって、電子がさらに捕獲され、密度がどんどん高くなっていきました。新しい電子捕獲率の効果で、酸素の燃焼が中心からやや離れたところで起こる場合があることが分かりましたが、その場合でも、コアは熱核爆発を起こすことなく重力崩壊しました。この崩壊によって星の中心には中性子星が形成され、外層は超新星爆発となって吹き飛びました。

太陽質量の8倍から10倍の質量の一部の星では、恒星風で外層が剥がされて大量の質量損失が起きた結果、酸素・マグネシウム・ネオンで構成される白色矮星を形成することがあります。しかし、質量損失が少ない星では、電子捕獲のメカニズムによって中性子星が形成され、超新星爆発が起こることを本研究は示しました。

野本氏らの1982年の論文 (Nomoto et al. 1982, Nature) では、おうし座にあるカニ星雲 (図3) を形成した超新星 SN1054が、電子捕獲によって生じた超新星爆発だったのではないかとしていますが、今回の結果は、この超新星の特徴をシミュレーションから説明できることを示唆しています。
 

3. 発表雑誌
雑誌名: The Astrophysical Journal
論文タイトル: Evolution of ONeMg Core in Super-AGB Stars toward Electron-capture Supernovae: Effects of Updated Electron-capture Rate
著者: Shuai Zha (1), Shing-Chi Leung (2), Toshio Suzuki (3,4), and Ken'ichi Nomoto (2)
著者所属:
1 Department of Physics, The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong S.A.R., Peoples Republic of China
2 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
3 Department of Physics, College of Humanities and Sciences, Nihon University, Sakurajosui 3, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan
4 Visiting Researcher, National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan.

DOI: https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab4b4b (Published 15 November, 2019)

論文のアブストラクト (The Astrophysical Journal のページ)

プレプリント (arXiv.orgのページ)
 

4. 問い合わせ先
(研究内容について)
野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
TEL: 04-7136-5940
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈 
TEL: 04-7136-5977
E-mail:press_at_ipmu.jp 
*_at_を@に変更してください

5. 参考画像:
画像は https://web.ipmu.jp/press/20200330-ElectronCapture からダウンロード可能です。