電磁気の双対性の量子異常を決定

2020年4月6日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
 

1. 発表概要 
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の立川裕二 (たちかわ ゆうじ) 教授、謝長澤 (Hsieh Chang-Tse) 特任研究員らの研究グループは、ジェームズ・マクスウェルが約150年前に確立した電磁気学におけるマクスウェルの方程式から示される電磁双対性に着目。電磁双対性を量子力学的に扱った際に生じる量子異常を決定しました。更に、この結果から弦理論に生じる自己矛盾を多くの場合で解消し、弦理論の一貫性を保持できることも示しました。本研究成果はアメリカ物理学会の発行するフィジカル・レビュー・レター誌 (Physical Review Letters) に2019年10月14日 (米国東部時間) 付で掲載されました。また、注目論文として Editor’s Suggestion に選定されました。Editors’ Suggestion は編集者が選抜するもので、特に重要かつ興味深い成果と判断された論文が選ばれます。

2. 発表内容
約150年前、物理学者のジェームズ・マックスウェルは、マックスウェル方程式と呼ばれる一連の方程式を生み出し、古典電磁気学を記述しました。この方程式は、電磁双対性と呼ばれる、電気と磁気を入れ替える対称性を持つことが知られています(図)。この電磁双対性を電荷を持つ粒子に適用すると、N極とS極の片方のみをもつ粒子になります。この粒子は磁気単極子 (モノポール) と呼ばれ、実験ではまだ見つかっていません。その後1931年にポール・ディラックは、電磁双対性に関して、"電荷のディラック量子化" を指摘しました。これは、もし磁気単極子が存在すれば、宇宙の全ての電気的粒子の電荷はある最小電荷の整数倍になることを意味します。

この電磁双対性が量子力学的にどうなるかを考えるのは自然な問題ですが、従来あまり研究されてきませんでした。特に、時空のある方向を一周したときに電磁双対性が作用するような場合にはほとんど既存研究がありません。Kavli IPMUの立川裕二 教授、謝長澤 (Hsieh Chang-Tse) 特任研究員、以前にKavli IPMU特任研究員として在籍していた東北大学の米倉和也准教授の研究グループは、電磁双対性を量子力学的に扱った際に生じる量子異常を決定しました。これはすなわち、対称性がある弱い意味で破れるが、その破れ具合が決定できたということです。

ここ10年の物性物理理論の発展により、d 次元の場の量子論の量子異常は、(d+1) 次元の対称性保護トポロジカル相の表面に現れていると考えることが有効であるとわかっています。著名な例は、トポロジカル絶縁体の表面にあらわれるギャップのないフェルミ粒子です。この観点を応用すると、つまり、3+1 次元のマックスウェル電磁気理論を、4+1次元のトポロジカル相の表面にあらわれるものと考えることになります。本研究チームの謝特任研究員は、以前の研究で3+1次元のフェルミ粒子のもつ量子異常をこの方法により決定していました。そして今回、研究チームは、マックスウェル電磁気理論の量子異常はフェルミ粒子の量子異常の56個分であることを決定しました。

物性理論と深い関係を持つ本研究ですが、元来の動機は弦理論の研究に由来しています。弦理論は 9+1 次元の時空を必要としますが、そこでも電荷のディラック量子化の高次元版がなりたつはずです。しかし、弦理論内に存在し、次元をコンパクト化する鍵として知られているオリエンティフォールドとよばれる対象は、ディラック量子化条件をみたしません。これは、このままでは、弦理論は自己矛盾していることを意味します。以前の研究で、立川教授と米倉准教授は、弦理論の発展に寄与した理論物理学者のエドワード・ウィッテン氏の既存の研究成果を拡張することで、この問題を部分的に解決していました。そこでは、フェルミ粒子の量子異常がディラック量子化条件の破れと相殺しましたが、この方法では弦理論の自己矛盾がまだ残ってしまう場合がありました。今回の研究で、マックスウェル電磁気理論の電磁双対性の量子異常を考慮にいれることによって、さらに多くの場合に自己矛盾が消えることが示されました。

弦理論の研究はこれまで長らく行われてきました。その過程で、一見したところ自己矛盾している箇所がみつかるものの、さらに研究を深めると、意外かつ精妙な仕組みでその自己矛盾が解消するということが何度も起きています。今回の仕事もこの一例と考えることができます。また、本研究は弦理論の正否とは関係なく、純粋にマックスウェル理論に関する結果でもあります。150年も研究されているマックスウェル電磁気理論に、これまで知られていない性質がまだあるということですから、本研究は弦理論を研究していない物理の研究者にも興味ある結果かもしれません。

3. 発表雑誌
雑誌名:Physical Review Letters
論文タイトル:Anomaly of the Electromagnetic Duality of Maxwell Theory
著者: Chang-Tse Hsieh (1,2), Yuji Tachikawa (1), Kazuya Yonekura (3)
著者所属: 
1 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
2 Institute for Solid State Physics, University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8581, Japan
3 Department of Physics, Tohoku University, Sendai 980-8578, Japan

DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.123.161601 (2019年10月14日掲載) 
論文のアブストラクト(Physical Review Lettersのページ) 
プレプリント (arXiv.orgのウェブページ、2019年10月17日更新) 
プレプリント (arXiv.orgのウェブページ、詳細版2020年3月25日投稿) 
 

4. 問い合わせ先
(研究内容について)
立川 裕二 (たちかわ ゆうじ) 
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授
E-mail: yuji.tachikawa_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください 
 
(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈 
TEL: 04-7136-5977
E-mail:press_at_ipmu.jp 
*_at_を@に変更してください