ベテルギウスはまだ爆発しない -減光の原因を探り恒星の質量、サイズ、距離を改訂-

2021年2月4日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

 

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一 (のもと・けんいち) 上級科学研究員を含む国際共同研究チームは、2020年初めに前例のない大幅な減光を見せたオリオン座の赤色超巨星ベテルギウスについて、その進化の段階と減光の原因を探るため、明るさの変化を分析しました。その結果、星の脈動に加えて、星から放出された大量の塵が関係していることを示唆し、今回の大幅な減光が超新星爆発の兆候ではないことを示しました。さらに本研究によって、ベテルギウスの質量や半径がこれまで考えられていた値より小さいことや、地球からベテルギウスまでの距離は、以前考えられていたよりも25%近いことが明らかになりました。本研究成果は、米国天文学会の発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) のオンライン版に2020年10月13日付で掲載されました。

 

2. 発表内容
ベテルギウスは、オリオン座の左肩に位置する恒星で、北半球では冬の空で明るく輝き私達が目にしやすい星の一つです。しかし、2020年初めにこれまで前例のないほどの大幅な減光が観察されました (図1)。ベテルギウスは赤色超巨星と呼ばれる恒星進化の最終段階にある赤く輝く巨大な星で、いつ超新星爆発を起こしてもおかしくないと考えられています。そのため、今回の奇妙な振る舞いから爆発が迫っているのではないかとの憶測を呼びました。

オーストラリア国立大学の Meridith Joyce 氏を中心とし、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一上級科学研究員、客員上級科学研究員を兼ねるハートフォードシャー大学の小林千晶准教授、カリフォルニア工科大学のShing-Chi Leung研究員 (元Kavli IPMU特任研究員) も参加する研究チームは、恒星進化、脈動の流体力学、星震の理論計算を駆使して、ベテルギウスの明るさの変化を分析しました (図2)。

その結果、ベテルギウスが星のコアでのヘリウム燃焼段階 (爆発が起こる10万年以上前の状態) であると結論付けました。また、ベテルギウスはκ(カッパ) メカニズムと呼ばれる星自身が膨張と収縮を繰り返す脈動により、185 (±13.5) 日と約400日の2つの周期で明るくなったり暗くなったりする変光を継続的に繰り返していることを明らかにしました。加えて、今回の2020年初めの大幅な減光は、星が脈動する働きに加えて、星から放出された大量の塵が関係していることを示唆しました。

 

本研究によって、ベテルギウスの現在の質量、従来はっきりとはしていなかった実際の大きさ、そして地球からの距離も明らかになりました。ベテルギウスの現在の質量は太陽質量の16.5倍から19倍ほどであり、最新の推定値より僅かに小さい質量でした。大きさについては、これまで太陽から木星軌道までの距離よりも大きい半径と考えられてきました。しかし、本研究の分析によれば、ベテルギウスの半径は太陽半径の750倍であり、従来の研究で推定されていた半径の3分の2ほどの大きさしかありませんでした。さらに、星の物理的なサイズが分かると、地球からの距離を決定できます。研究グループが地球からの距離を計算したところ、ベテルギウスまでの距離は私たちからわずか530光年であり、これは以前考えられていたよりも25%近いことが分かりました。
 

今回の結果から、ベテルギウスが爆発する状態にはまだないことが分かりました。また、従来の推定より近い距離に存在していることが明らかになったとはいえ、将来爆発したとしても地球から遠すぎて私達に大きな影響を与えることはありません。しかし、超新星爆発を起こして星が消えることになれば、科学的にも歴史的にも非常に大きな関心事となります。ベテルギウスは爆発する候補の星の中では最も近い距離にあるため、爆発前にどのようなことが起きるかを研究する貴重な機会を今後とも私達に与えてくれるでしょう。


3. 発表雑誌
雑誌名: Astrophysical Journal
論文タイトル: Standing on the Shoulders of Giants: New Mass and Distance Estimates for Betelgeuse through Combined Evolutionary, Asteroseismic, and Hydrodynamic Simulations with MESA 
著者: Meridith Joyce (1,2), Shing-Chi Leung (3), László Molnár (4,5,6), Michael Ireland (1), Chiaki Kobayashi (2,7,8), Ken'ichi Nomoto (8)

著者所属:
1. Research School of Astronomy and Astrophysics, Australian National University, Canberra, ACT 2611, Australia
2. ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D), Australia
3. TAPIR, Walter Burke Institute for Theoretical Physics, Mailcode 350-17, Caltech, Pasadena, CA 91125, USA
4. Konkoly Observatory, Research Centre for Astronomy and Earth Sciences, Konkoly-Thege út 15-17, H-1121 Budapest, Hungary
5. MTA CSFK Lendulet Near-Field Cosmology Research Group, Konkoly-Thege út 15-17, H-1121 Budapest, Hungary
6. ELTE Eotvs Loránd University, Institute of Physics, Budapest, 1117, Pázmány Péter sétány 1/A, Hungary
7. Centre for Astrophysics Research, Department of Physics, Astronomy and Mathematics, University of Hertfordshire, College Lane, Hatfield AL10 9AB, UK
8. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan

DOI: https://doi.org/10.3847/1538-4357/abb8db (2020年10月13日掲載)
論文のアブストラクト (Astrophysical Journal のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)

 

4. 問い合わせ先
(研究内容について)
野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp
TEL: 04-7136-5940
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 真里奈 
E-mail:press_at_ipmu.jp 
TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください
 

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