X線で輝く宇宙フィラメント -eROSITA初期サーベイ-

2022年12月27日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
 


1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)の谷村 英樹(たにむら ひでき)特任研究員を含む研究チームは、最新のX線サーベイSRG/eROSITA(注1)を用いて、宇宙フィラメントの高温プラズマからの熱放射に関連したX線信号の検出しました。この結果、宇宙の隠れた物質に新たなスポットライトが当てられました[1]。
本研究成果は、Astronomy and Astrophysics(アストロノミー アンド アストロフィジックス)に12月6日付けで掲載されました。

2. 発表内容

大規模サーベイで観測された数百万個の銀河は、宇宙にランダムに分布しているわけではありません。銀河は集団化して銀河団を形成し、銀河団はフィラメントと呼ばれる細長い構造によって繋がり、その隙間には空洞ボイドと呼ばれる銀河が存在しない領域が広がっています。このような宇宙の構造を「宇宙の網」といいます。宇宙の網の構造を構成する銀河は、バリオンと呼ばれる通常の物質の10%程度を占めるにすぎず、残りの90%はガス状の物質によって構成されています。しかし、これらを含めても、通常の物質の半分から3分の1は検出されず、宇宙の奥深くに隠されているのです。これがいわゆる「ミッシングバリオン問題」(注2)です。

宇宙物理学研究所(CNRS/ Université Paris-Saclay)のNabila Aghanim(ナビラ・アガニム)率いるERC資金によるByoPiCチームは、30年前のROSAT全天サーベイデータを用いて、約15,000個の大規模宇宙フィラメントからのX線信号を統計的解析することで、このたび初めて、宇宙網におけるバリオンの欠損を明らかにしたのです[2]。
さらに、ByoPiCチームは、谷村英樹、Nabila Aghanimとその共同研究者により、最新のX線サーベイSRG/eROSITAを用いて、宇宙フィラメントの高温プラズマからの熱放射に関連したX線信号の検出を間違いなく確認し、その結果をAstronomy and Astrophysicsに発表しました[3]。
この信号は、SRG/eROSITA共同研究によって発表された最初の140 deg2サーベイ内のわずか460個のフィラメントから検出され、その詳細解析からプラズマの密度と温度を精密に捉えることに成功しました。

しかし、熱放射の起源とそれがどのように宇宙の網の中で進化してきたかという基本的な問題は明らかにされておらず、今後公開される全天観測衛星SRG/eROSITAや、将来計画されている大型X線観測装置を利用し明らかにする必要があります。

参考文献
[1] https://erosita.mpe.mpg.de/edr/eROSITAObservations
[2] https://www.aanda.org/component/article?access=doi&doi=10.1051/0004-6361/202038521
[3] https://www.aanda.org/articles/aa/pdf/forth/aa44158-22.pdf

3.用語解説

(注1)SRG/eROSITA
2019年7月13日にバイコヌールから打ち上げられ、第2ラグランジュ点(L2)を回るハロー軌道に配置された、ロシア・ドイツの「スペクトラム・レントゲン・ガンマSpectrum-Roentgen-Gamma」(SRG)ミッションに搭載されたX線宇宙望遠鏡。ドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所 (MPE) が開発した。

(注2)ミッシングバリオン問題
宇宙は通常の物質(バリオン)(4.9%)、ダークマター(26.8%)、ダークエネルギー(68.3%)で構成されるが、4.9%しかないバリオンも半分以上が検出できていないという問題。ミッシングバリオンは宇宙の構造形成シミュレーションから網の目のような宇宙の大規模構造に沿って分布しているのではないかと予想されている。

4. 発表雑誌
雑誌名: Astronomy and Astrophysics(アストロノミー アンド アストロフィジックス)
論文タイトル: X-ray emission from cosmic web filaments in SRG/eROSITA data
著者: H. Tanimura1; 2, N. Aghanim1, M. Douspis1, and N. Malavasi3
著者所属:
1 Université Paris-Saclay, CNRS, Institut d’Astrophysique Spatiale, Bâtiment 121, 91405 Orsay, France
2 Kavli IPMU (WPI), UTIAS, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
3 Faculty of Physics, Ludwig-Maximilians-Universität, Scheinerstr, Munich, 81679, Germany
DOI:10.1051/0004-6361/202244158(2022年12月6日発行)
論文アブストラクト(Astronomy and Astrophysicsのページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)

5. 問い合わせ先
(研究内容について)
谷村 英樹(たにむら ひでき)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) 特任研究員
E-mail:hideki.tanimura _at_ ipmu.jp
* at_を@に変えてください。

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 千葉 光史
E-mail:press_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください
TEL: 04-7136-5977 / 080-4056-2930